漢方薬の服用量は?

漢方エキス製剤の服用量


今日は、漢方エキス製剤の服用量についてお話しします。そんなこと言ったって一回一包、一日3回だろうって?


違います(きっぱり)。例の手帳にも、年齢、体重、症状により適宜加減する、と明記されています。だから加減しなければなりません。


原則は、急性期には一回分を多く、慢性期には通常量で、小児、高齢者には少なめです。


例えば風邪の初期、寒気と頭痛がして項(うなじ)が強ばるなら葛根湯です。このときは少なくとも1回三包は飲まなくてはいけません。私のように体重が93kgもあるなら、4包飲んでもいいです。寒気を感じているのですから、できる限り温かいお湯で飲むべきです。急性期に漢方は効かないというのは誤解で、大抵は急性期に漢方を効かせるにはどうしたらよいか分かっていないのです。三包飲んで効かなければ、2時間ほど空けてもう一回三包試みます。それで効かなければ、まあ効かないのです。ですから「葛根湯一回一包1日3回、7日分」なんて言う処方は、常備薬として家庭に置いておくための保険上の方便なら許されますけど、本気でそうして飲ませるのはとんでもない間違いです。足がつった時の芍薬甘草湯も、一回二包ですねえ。一包ではちょっと心許ない気がします。


慢性期には通常量で結構です。でも患者さんは昼って大抵忘れますね。だから私は朝2包、夕2包で出すことが多いです。血中薬物動態はどうなっているのか、ですって。うーん、それがですねえ。漢方薬の、漢方薬たる所以の効果を出す成分は何かというのは、大抵よく分かっていないのです。商品としての品質評価は「指標成分」、例えば甘草ならグリチルリチン、麻黄ならエフェドリンの量が法的に適正な量入っているかで判断されますが、甘草の「健脾」だ「清熱」だ、麻黄の「発表散寒」だと言った「漢方的効能効果」がグリチルリチンやエフェドリンによるものかどうかは、また別問題です。ですから今のところ、臨床的経験でやっていくしかありません。比較的長期に使う漢方というと更年期障害の加味逍遙散、膝関節症の桂枝加朮附湯などがありますが、だいたい朝夕2包ずつで数ヶ月気長に診るしかありません。


高齢者や小児は少なめにします。私は専門が老年内科なので小児を診ることはまずないのですが、高齢者でこんな経験をしたことがあります。


夜足が冷えて眠れないという80代の女性でした。息子さんに付き添われて来院するも認知症は(少なくとも障害になる程度には)認められません。私はまだ若かったので、「あー、腎虚か。八味地黄丸ね」とうかつにもツムラの八味地黄丸を一回一包1日3回で出してしまったのです。そうしたら、その晩にその人は高血圧緊急症で救急搬入されました。附子と桂枝による血圧上昇でしょう。しまったと思った時は後の祭りです。


ところがこの患者さん、「もう2度とこの薬は飲んではいけません」と言ったのに、どうも「血圧は上がってしまったけどあの晩は確かに足が温まって気持ちがよかった」らしいのです。それで、家族が棚に隠した八味地黄丸を毎晩、家族が寝静まった後にこっそり持ち出して、あのエキスの粉を2,3粒、ペロリと舐めたんですって。なんだか鬼気迫る光景ですよね。真夜中、老婆が暗がりであの粉をそっと棚から下ろしてペロリペロリ・・・。


それを次回の外来でご本人が話されたので付添の息子さん怒っちゃって、なだめるのに私が必死になったという思い出があります。つまりその人にとっては、あのツムラ八味地黄丸エキス2,3粒が「適量」だったわけです。それ以来、私は80過ぎの高齢者に附子を含む八味地黄丸とか桂枝加朮附湯を出す時は、まず一日1包分二(つまり一回半包)で出して、問題がないようなら一日2回、一回一包に増やすようにしています。これは附子や麻黄などアルカロイドが含まれる製剤の場合です。それ以外の方剤は、高齢者でもだいたい一回一包1日2回で始めて、効けばそれでよし、効かなければ成人同様朝夕2包ごとで出します。


皆さんもどうぞ気をつけてみて下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?