人間はいつまで生きるのがよいか。

先ほどある人が、消費税導入前年の1988年と今とで、国民負担がどう変わったかの表を出していた。その人は消費税が導入されたというのに、何故これだけ国民負担が増えたのかと疑問を呈している。



しかし、それに私は違和感を覚えた。そこにその間の少子高齢化がどれだけ進んだかをデータとして入れなければ、ミスリードになる。



厚労省の統計によれば、消費税が導入された1989年、男性の平均寿命は75.5歳、女性は81.8歳だった。男女をならすと、概ね77か78ぐらいになる。この辺で人は死んでいたのだ。



私が医者になったのがその翌年、1990年だった。実際その頃の認識として、70代後半は寿命だった。70も後半になった人が肺炎になる、心筋梗塞になるとなれば、ああ、もう寿命ですから、無理せず看取りましょうというのが当時の常識だった。



それが今はどうか。2021年の平均寿命は男性81.5歳、女性87.5歳だ。消費税導入時1989年から比べると男女ともに約6年延びている。



健康なまま伸びているのならよい。実は、厚労省の2022年度版高齢社会白書によると、日常生活に支障が無い「健康寿命」は現時点で男性73歳、女性75歳なのである。これは消費税導入当時の日本人の平均寿命とたいして変わらない。結局、延びたのは健康寿命では無く、日常生活に支障を来す要介護状態の年齢の年齢だったのである。



これでは人も社会もやっていけない。こう言う状態で平均寿命が延びたのは、ちっともうれしくない。元気で長生きならよいが、現実は要介護のヘロヘロの長生きなのだ。だから国家財政も高齢者の生活も苦しくなる。高齢者を支える世代の生活も苦しくなる。



消費税を導入しました、介護保険を始めましたと言っても、これほど要介護寿命が延びては、どうにもならないのだ。



くり返すが、健康寿命が延びたのなら私は何ら問題とは思わない。延びた寿命がそっくり不健康寿命、本人も社会も負担に喘ぐ状態の寿命だから問題なのだ。



こう言う状態で寿命が何処までも延びていくなら、これはどういう社会制度でも支えきれない。破綻する。



この経緯から見て取れることは、率直に言って人間の「健康寿命」は長くても70歳代で止まるという事だ。それ以上寿命を延ばそうとすると、不健康寿命ばかりが延びてしまう。我々はそれを、国家単位の社会実験から学んだのでは無いだろうか。



私は、人間の「寿命」の概念を1990年ごろの70歳代に戻すべきだと思う。70を超えた老人が何か命に関わる病気になったら、寿命が来たと看做すべきであり、それにふさわしい対応をすべきだ。いたずらにそれ以上、命だけを長らえさせるべきでは無い。それは本人も社会も不幸にする。



もちろん、社会が介入しなくても長寿の家系で元気で長生きする人はそれで良い。私が主張しているのは、一般の人に70代を超えて無理矢理医療を施して長生きさせるなと言うことだ。無理はするなと言っているのだ。



人が平均70代の内に亡くなっていけば、日本のGDPなら無理なく60歳から年金を出せる。60まで元気で働いて、60歳を過ぎたら年金で暮らし、70代で亡くなる。それこそが、人にも社会にとっても、自然なあり方だと私は考えるが如何だろうか。

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