花になれ

「あなたの苦しみが 悲しみが 無念さが 花になれ 花になれ 光となれ と願っています」

先生の懐かしい言葉はいつでも私の胸の中にあります。
冷え切った心、押し潰されそうな心、縮こまりもがいていた私にとって、その手紙の中の言葉は、ひとすじの光でした。

あの頃と変わったのは、部屋に山と積み重ねられたキャンバス。
その一枚一枚に描かれているのは、稚拙ながら、たしかにその時その時の私の心のあり様でした。

薄暗いこの部屋が私の世界。ただ一つの安全な場所。
私の心が折れた時、その時から私はこの部屋の小さな世界でわが身を守ってきたの。
私もみんなのように自由でありたかった。真っ直ぐに歩きたかった。急いだり、立ち止まったり、思い通りに生きてみたかった。
私にはそれが出来なかった。折れた心が私を転ばさせた。
人は皆、私を叱った。注意をした。理路整然と私の間違いを指摘した。
私も、あなたたちの言う事は正しいと思った。
でも、折れた心はどうしても私の言う事をきいてくれなかった。

先生だけは違った。
先生だけは、教えることも諭すこともしなかった。
ただ、私の話を聞き続け、頷いてくれた。
キャンバスを前に、いつまでも絵筆を動かせない時も、寄り添ってくれた。絵の具で汚れた床も気にせず、座っていた先生。
私が、私を諦めそうな時も、先生だけは諦めはしなかった。

私は今日も渾身の勇気を振り絞り、筆を握るでしょう。
私の描いたものが、私の人生を開くまで。
私の人生が、鮮烈な蘇生の光を放つまで、私はけしてこの筆を止めるわけにはいかないのです。
私は誓いを果たすまでキャンバスの前に立ち続けるでしょう。
失敗も成功も、悲しみも優しさも、我慢も惨めさも、そのどれもが欠けてはならない色彩となって、暖かな光は今度は誰かを照らすことでしょう。
その時こそ、すべての灰色のキャンバスから、花々が一斉に咲き誇るのでしょう。
その時こそ、先生、あなたの勝利となるのです。



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