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サウンドマーケティング入門③~サウンドスケープの重要性~

サウンドマーケティングについての世界を紹介する3話構成ブログ、今回はその最終話です。

①聴覚の特性について (前々回)

②音を利用したブランド戦略 (前回)

③サウンドスケープの重要性 (今回)

今回のブログを書くにあたり主に参考にしたのは、書籍『なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか ~サウンド・マーケティング戦略~』ですが、今回はこちらも援用します。

サウンドパワー ~わたしたちは、いつのまにか「音」に誘導されている!?~

サウンドパワー

これから「サウンドスケープ」について色々な観点から考えてきますが、まずは言葉の意味から説明しましょう。

風景の事を英語で"Landscape"(ランドスケープ)と言いますが、サウンドスケープはここから派生した造語です。言わば風景の「音」バージョンであり、専門的には次のように定義されます。

サウンドスケープ・・・ある空間に存在する複数のサウンドの組み合わせ

これは必ずしもBGMだけを意味しません。

たとえば、あなたがカフェでくつろいでいるシーンをイメージしてください。BGMにはボサノヴァがかかっています。心地の良い調べにリラックスして目を閉じます。さて、他にはどんな音が聴こえてくるでしょう?

周りのテーブルの話し声

店員達の動作音

コーヒーを淹れる音、啜る音

カップやスプーンが触れ合う音

・・・etc.

これら全てが「サウンドスケープ」を構成する要素であり、目的(伝えたいブランドストーリーの訴求、最高の顧客体験の創造)に合わせ、これらの音を戦略的に再構築することを「サウンドスケーピング」と言います。

もちろん簡単な事ではありません。店内BGMのセレクトはコントロール可能で効果が出やすいかもしれませんが、他の様々な音についても気を配り、必要に応じて逐一手を加えていくのが本当の「サウンドスケーピング」です。

サウンドスケーピングについては、次の3つの方針を持っておくと便利です。

① 足し算

② 引き算

③ 相殺(マスキング)

これらについて順番にお話していきます。

①足し算

音の足し算として一般的に思い浮かぶのはBGM(Back Ground Music)だと思いますが、ここでは「ソニックシーズニング(音の調味料)」というアイディアを紹介させてください。

サウンドパワー P.186~より引用

「音が味覚に影響する」。にわかには信じられないかもしれませんね。しかし、サウンドと味覚のあいだには、とても密接な関係があることが、次々に明らかになってきています。

視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚の五感は交錯し合い、わたしたちの感覚に影響を与えています。聴覚と味覚など、二つ以上の異なる感覚様式が相互作用して知覚することを、「クロスモーダル知覚」といいます。

わたしたちが甘い・塩辛いなど認識するときに使う情報は、口腔内の舌にある「味蕾」からくるものだけではありません。味覚は、食べ物や飲み物の色や形、香り、歯ごたえにも影響されます。そして、環境サウンド(食べる際に聞こえる外部のサウンド)や、咀嚼するときに自らが発する骨伝導音にも。(中略)

2014年の「航空機内のノイズとうま味」と題された研究調査で、航空機の機内音が、甘みを感じにくくさせることが見出されました。さらに、2015年には、航空機内のノイズ(※ホワイトノイズ)が乗客の甘味の感覚を抑え、うま味の感覚を高めることが発見されました。(中略)

ホワイトノイズについては後述します。

航空機内では、トマトジュースやブラッディマリー(ウォッカをトマトジュースで割り、レモンと塩を加えたカクテル)がよくオーダーされるといいます。

ブラッディマリー

なぜだと思いますか? 先程の研究結果を踏まえると、その理由が見えてきます。

BGN(Back Ground Noise)レベルが高い場合、「うま味」により敏感に反応するようになりますが、トマトジュースにはまさにこのうま味成分がたくさん含まれています。航空機内でトマトジュースやブラッディマリーのオーダーが増えることは、偶然でなく必然なのかもしれません。』(引用終わり)

聴覚と味覚の面白い関係が見えてきましたね!

これに関する研究が進められた結果、味に対する音の効果を調味料に見立てた「ソニックシーズニング(音の調味料)」、あるいはワインと料理を合わせるように、音楽と料理をセットで提供する「サウンド・ペアリング・メニュー」という形で実用化されるケースも出てきました。

まだまだ研究途上の領域という事ではありますが、この事例も2つほど引用します。

サウンドパワー P.196~

〈ダージリンティー〉

ダージリンティー

ダージリンティーを1杯、2種類のサウンドとともに味わってみます。1つは①お腹にずーんと響く中音量の低周波サウンドC1: 32.7hzとF1 :43.7hzを同時に再生、もう1つは、②明るい中音量の高周波サウンドC6:1046.5hとA6:1760hzを同時再生)です。

①低周波サウンドは、少し苦みのあるダーク・フレーバー

②高周波サウンドは少しまろやかなマイルド・フレーバー

に感じさせます。

〈チョコレート〉

ダークチョコレート

ダークチョコレートを口に頬張り、①低音F1:43.7hzとC2:54.4hzを同時に発音)あるいは、②高音(A5:880hzとC6:1046.5hzを同時に発音)を聞きながら、食べてみます。

①低音ではより苦い②高音ではより甘いフレーバーに感じられるはずです。

(引用終わり)

簡単にまとめれば、低周波サウンドでは「苦み」を強く感じ、高周波サウンドでは「甘味」を強く感じる、という事になります。

上記のF1C6などの表記は、それぞれピアノの88鍵盤に対応していますので、フルサイズの鍵盤楽器をお持ちの方は実験してみても面白いですね。(ピアノがなくても楽器アプリで代用することもできますよ)

②引き算

『音にはいい音と、そうでない音の、2種類しかない。ニュートラルな音は存在しない』

これはサウンドマーケティング戦略の第一人者ジョエル・ベッカーマンの言葉です。彼が経営するマンメイド・ミュージック社では「そうでない音」を「音のゴミ」と呼び、仕事の依頼を受けると、音づくりより前にこれを徹底して除去する方法を考えます。

顧客満足を妨げる些細な音にも着目し(この場合は着耳?)、伝えたいブランドストーリーに反する訴求力のない音については、大元から断ち切っていくという事であり、この徹底した実践こそが、サウンドスケーピングにおける音の引き算です。

もっとも「音のゴミ」は完全に除去できるとは限りません。機構や運営の都合上、「音のゴミ」が完全に無くせないケースも多いでしょう。

そこで役立つのが、先にフライング気味に言及した「ホワイトノイズ」です。

③相殺(マスキング)

再び「サウンドパワー」より引用します。(P.44~)

ホワイトノイズは、すべての周波数のサウンドを組み合わせて生成されるノイズです。アナログテレビの砂嵐の映像や、空調の「Shhh・・・」というサウンドに似ています。

「ホワイト(白い)」という形容詞は、光のすべての異なる色(周波数)が組み合わせると白色光(ホワイト)になることに由来しています。

ホワイトノイズにはすべての周波数が含まれているため、他のサウンドをかき消す(マスクする)ためによく使用されます。また、一時的な使用であれば、ホワイトノイズには集中力を高める効果があります。』(引用終わり)

「ホワイトノイズによるマスキング」、イメージが伝わったでしょうか?

この引用箇所の続きに、「ピンクノイズ」、「ブラウンノイズ」、「ブラックノイズ」などの説明もあります。ご興味ある方は書籍『サウンドパワー』を読んでみてください。2時間もあればサラッと読めると思います。

以上、サウンドスケーピングについて、①足し算 ②引き算 ③相殺(マスキング)の観点からまとめてみました。皆さまにとって役立つ知見シェアになっていれば幸いです。

私達の耳は自分にとって意味がありそうな音だけをフィルタリングし、意味のなさそうな音については無自覚になっていますが、本ブログをここまで読み進めた貴方ならお気づきですね。私達は無意識にそのような音の影響もしっかり受けている事を!

「今まで気に留めず聞き流していた音に、改めて意識を向けてみる」

これこそが、サウンドマーケティングの実践にあたって最初の一歩になるでしょう。3話にわたってブログをお読み頂いた方、本当にありがとうございます。また次回ブログでお会いできるのを楽しみにしています!(^^)!



身の回りの音楽の秘密を理論的に知りたくなったら♬

江古田Music School

代表  岩倉 康浩

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