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こんなに楽しくて「防災」と言えるのか | 第1回内講(ゲスト:江尻浩二郎さん)

5月29日、うちぼうプロジェクトの最初のイベントとなる「第1回内講」が開催されました。ゲストの江尻浩二郎さんとともに、夜遅くまで腹を抱えて笑い合い、時空を飛び越えて内郷への愛着を感じる夜。愛と笑いに溢れた一夜を、こちらでレポートしたいと思います。

今回初開催されたイベント「内講」は、内郷の防災のまちづくりプロジェクト「うちぼうプロジェクト」の一環で行われるものです。いわき市内外のさまざまな方にお話を伺ったり、共におしゃべりし合うことで防災のヒントにしちゃおう、という企画になっております。

もちろん、防災について考える真剣な議論の場も予定してるのですが、メンバーが話を聞きたい人や気になる人もこの際だからお呼びしちゃって、お酒も一緒に楽しみながら親睦を図り、防災について考える時間になればいいなというちょっと「ユルい」企画でもあります。

テーブルには乗り切らないほどの食い物、飲み物が!!

第1回は、いわき市小名浜出身で、いわき市の文化や芸能について長年リサーチを続けている東日本国際大学職員の江尻浩二郎さんをお迎えしました。

うちぼうメンバーの平川が熱烈に「どうしても江尻さんを呼びたい」と訴えてくるので、わがったわがった初回は江尻さんにすっぺ、という軽いノリで決めたイベントなのですが、ほとんどなんの計画も打ち合わせもないままお越しいただきました江尻さん、ほんとうにありがとうございます!

江尻さんの軽妙なトークはやはり最高でした
江尻さんとの交流を熱望していた平川メンバー

まず江尻さんが冒頭でお話ししてくださったのが、江尻さんがいわきの伝承芸能「ヤッチキ」について調べているなかで見つかった、ヤッチキと内郷の浅からぬ縁についてです。

ヤッチキは、いわきの盆踊りの一種で、県の重要無形文化財にも指定されています。内郷で開催される「回転やぐら盆踊り大会」でも、ヤッチキを踊る集団が出現することがありますよね。もしかしたら、サクッとヤッチキを踊れるという方も、特に年配の方にはいらっしゃるのかもしれません。

その独特の振り付けや卑猥な歌詞も話題になるなど、かつて一世を風靡した踊りですが、現在ヤッチキを踊る団体は、いわき市の上三坂地区に1団体が残るのみ。その由来についても不確かなことばかり、ということもあって、江尻さんがこの数年孤軍奮闘で文献や聞き取りなどを続けており、調査によって多くのことがわかってきました。(詳しくは下の動画を!)

ここで少しヤッチキについて振り返りたい、ところなので、す、が、ヤッチキそのものについては江尻さんの過去動画↑をご覧いただくとして、話題を内講に戻しましょう。

江尻さんは軽妙にヤッチキの話をしつつ、リサーチの途中で見つけた、ある映像の話を紹介してくれました。その映像は、現在のスパリゾートハワイアンズ、かつての「常磐ハワイアンセンター」で撮影されたものでした。

江尻さんによれば、この映像は、かつて常磐ハワイアンセンターで開催された「全国民謡民舞大交歓会」のものだそうです。映像には、いわき各地の保存会の皆さんが、舞台だけでなく観客席にまで輪を広げながら、やたら楽しそうにヤッチキを踊る様子が残されていました。

また、それ以外にも、ヤッチキの踊りについて聞き取りしたり、振り付けについて説明してもらうような映像も残っていて、地元の達人たちが、あれこれ解説しながらヤッチキを踊る映像も残されていました。

江尻さんが紹介した貴重なヤッチキ映像

江尻さんは、ある映像のなかに、内郷にゆかりのある一人の男性の姿を発見したと言います。

それが三室金秋さん。内郷にある看板制作会社「とんぼ工芸」の創業者であり、内郷まちづくり市民会議の立ち上げメンバーである三室千鶴子さんの義理のお父様でいらっしゃいます。映像に金秋さんが登場するやいなや、内講に参加していた千鶴子さんから「私の義父です!」と一言。昔を振り返りながら、「ほんとうにすごい人だった」と思い出話をしてくれました。

ビールをぐびぐびやりながら、楽しい夜は過ぎていきます

この日は、下綴集会所の居間に老若男女20人ほどが集まっていたのですが、その誰もが、まさかこのヤッチキ映像に千鶴子さんの義父、金秋さんが登場するとは夢にも思っておらず、むちゃくちゃ驚かされましたし、盛り上がりました。いや、もちろん義理の娘さんである千鶴子さんが一番驚いていたことでしょう。

映像のなかで、ヤッチキについてあれこれ語る金秋さん。そこにあったのは、地域を慈しみ、愛し、楽しもうとする先人の姿でした。過去に生きた先人たちも、私たちと同じように地域を愛し、楽しもうとしていた。映像は、後世に生きる私たちに、そのことを伝えてくれていました。

今に生きる私たちは、内郷に残る文化や歴史、さまざまなものを地域づくりに生かそうとします。しかし、今の時代に私たちがそれを活用できるのは、先人たちが残してくれたからに他なりません。もちろん、その都度、その時代にあったかたちで表現を変えたりすることはありますが、私たちがなにか新しい偉業を成し遂げたのではなくて、私たちは先人たちが受け継いできたバトンを受け取っているにすぎないのだな、と改めて感じる瞬間でした。

千鶴子さんによれば、義父の金秋さんが立ち上げた「とんぼ工芸」は、創業当初からハワイアンセンターのさまざまな看板や小道具などを制作していたそうです。江尻さんが紹介する映像のなかにも、当時のハワイアンセンターの舞台が映し出されていました。

とんぼ工芸が制作に関わっていたハワイアンセンターの舞台

私たちが幼い頃に親しんだあの舞台、そしてあの部屋のあの看板…。それらはみな金秋さんをはじめとする地元の先輩たち、職人たちが汗水垂らしながら作ったものでもある。何千、何万いう観衆がフラガールたちの踊りに熱狂し、思い出を持ち帰ってくれた背後に、金秋さんのような先人たちの働きがあったのだなと考えると、なんだか熱いものが胸に去来します(酒を飲んでいるから余計に)。

そのあと、江尻さんからは内郷が誇る偉人、みろく沢炭鉱資料館、元館長の渡辺為雄さんの話も紹介されました。為雄さんは最後まで「ものづくり」を続けてこられましたが、江尻さんは、為雄さんが最晩年に着手したマップ制作を手伝いながら、為雄さんの話を傍で聞き続けていたのだそうです。

内郷でまちづくりに関わっていれば、やはり「みろく沢」は避けて通れません。それぞれに為雄さんとの思い出があるものです。江尻さんの話から様々に思い出がつながり、為雄さん、金秋さんという「死者」と出会い直す。内講は、地域のために命を燃やした偉人たちを偲ぶ豊かな時間でもあったのです。お二人も、あの世からにこやかにこちらを見ていたことでしょう。

こうした話は、直接的に防災につながるものではありませんでしたが、防災の手前にある、なんというのでしょう、地域への想いを確認し合う極めて重要な映像だったと思いますし、それを見る時間、語り合う時間もまた、内郷のこれからを考えていかなくてはならない「うちぼうプロジェクト」にとって大事な時間になったと思います。

集会所でふるさとを語ることは防災なのか

江尻さんは40分ほどでテンポ良くプレゼンを終え、その後は、集まった人たちでの雑談&交流となりました。ヤッチキのこと、それぞれの商売のこと、内郷のおもしろさや魅力。やはりここでも、なかなか防災の話は出てきません。

もちろん、証言を集めた防災マップをどう制作していこうとか、次のイベントどうしようとか、そういう話もしますし、あえてこの下綴集会所で開催しているのは、この集会所が災害時の避難場所になっているからであり、「集会所に歩いてくる」こと自体、ある意味で避難訓練的な側面がある。そういうレベルでは防災との関連性は考えています。

ですが、この飲み会は防災なのか。

ふと考えると、こうして地域の人たちが自分のふるさとについてああでもない、こうでもないと語るその絆/コミュニティの中に生まれる防災というものがどうやらあるのではないか、とも思うのです。

同じ地元に暮らす人たちが、お互いの顔を見ながら、ご先祖の話をしたり、昔の話をしたり、未来の話をしたりする。それは、防災の「基盤」となる地域コミュニティを強くすることにつながるはずです。なにか災害が起きるかもしれないというとき、思い出す顔が多いほど、だれかの孤立を防ぐ力につながるかもしれない。それは防災に含まれるのではないでしょうか。

そしてなにより、このような時間を過ごすなかで、あんなことをしてみよう、これだったらできるんじゃないか、というアクションを下支えするモチベーション、動機が生まれていくるのではないか、とも感じるのです。

メンバーの子どもたちも参加。カオスな交流会となりましたが、それが楽しい
内郷まちづくり市民会議の四ツ倉会長もご満悦の様子でした

そして、ここで改めて考えたいのは、こうしたコミュニティでの活動を、まじめにやらない、いや、まじめに「やれない」のが内郷らしさなのかもしれない、ということです。

実現できそうもない高い理想は掲げない。「私はこんな実績がある」なんてことでマウントを取り合うこともない。意識の高い人たちの成功事例にもならない。言い換えると、あまり「目的」に縛られず、むしろ逆に、普段の実績や肩書きを解体し、バカ正直に内郷への想いを語っていく。自分たちの依って立つ「土台」をつくり続けている感じなのです。

酒が進めばここには書けない話もたくさん出てきます。いや、そんな話しかしてません(笑)。でも、そういう話を、顔と顔が見える位置で話し合い、腹を抱えゲラゲラと笑う。だからこそ「楽しい」という一瞬一瞬が積み重なっていく。そんな時間のなかにいると、ああ、ここから内郷らしい防災の基盤が型づくられていくのかもしれないなと、根拠もなく思います。

メンバーそれぞれの心の中にある内郷をひらき、共有する時間
もちろん、防災マップ作りの話も慎重に進めています

昨年、大きな災害を経験している私たちですが、過去にはもっと大変な災害があったはずですし、炭鉱の閉山後などはもっと厳しい時代もあったはず。ですが、苦労のともなう時代を超えて今の私たちがあるわけです。

時空を飛び越えて過去に生きた内郷の偉人と出会い、今に生きる人たちが恥ずかしげもなく地域への想いをシェアしあう。内講というのは、まだ1回目ではありますが、じつに内郷らしく防災を考える時間になっていたし、これからもきっとなっていく。そう実感できた気がします。おそらく、参加者の皆さんも、そうお感じになられたのではないでしょうか。

ゲストとして来てくださった江尻浩二郎さん、ほんとうにありがとうございました。また、イベントの写真は、いわき市の中之作で地域づくりに関わっていらっしゃる前野有咲さんに撮っていただきました。前野さんもありがとうございました。

今後の予定について

今はまだ「ただの飲み会」かもしれませんが、こうしてまた新しい人たちと内郷の接点がつくられていく先に、持続可能で災害にも強い地域が生まれていくのだと信じて、来月以降もしっかりと楽しみながら、この内講を続けていきたいと思います。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。次回の内講は6月26日の予定です。ゲストが確定しましたら、またこちらでお知らせいたします。内郷の方も、そうでない方もぜひご参加ください。平素の勉強会や通常会(基本的には第2・第3水曜の18時半から)への参加もお待ちしております!!  

うちぼうプロジェクト事務局

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