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うちぼう証言収集レポート | 証言集めで見えた課題と希望

私たち「うちぼうプロジェクト」は、2023年9月の台風13号水害に遭ったいわき市内郷地区で「防災のまちづくり」の活動を行っています。いま最も力を入れているのが、被害に遭われた方々の証言をハザードマップに落とした「水害証言マップ」の作成です。

今月からは、このマップの要となる証言集めをスタートしました。内郷地区内で開かれているつどい「ふくみちゃんカフェ」に、うちぼうの収集ライターがお邪魔し、被災された方々のお話を伺っています。今回は、内郷在住のライター、染矢優香さんのレポートです。

証言集めで見えた課題と希望

取材・文章 染矢優香

被災した街の今

内郷といえば、かつて炭鉱の町として栄えたことで知られています。内郷地区を流れる宮川に沿って、西から東に向かい石炭開削が行われました。川沿いには、採掘した石炭を運ぶための専用鉄道が引かれ、峰根から現在の内郷駅まで石炭を乗せた汽車が走っていたそうです。町は石炭産業によって繁栄し、さまざまな店が軒を連ね「金坂銀座通り」や「竹之内銀座通り」とよばれる商店街、炭住とよばれる労働者の住まいがありました。

今回私たちが初めての聞き取りに伺ったのは宮町竹之内。ここに来るまで宮川に沿って車を走らせていきますが、顔を覗き込まないと川の流れが見えないぐらい深く掘られ、足をつけたら足首にも満たないぐらい浅く、本当にこの川が氾濫したのかと疑うほど穏やかに見えます。しかし、実際に、この川が牙を剥き、川沿いの地域を洪水が襲いました。

今回、ふくみちゃんカフェの会場となったのは、老舗のお茶屋「柏俣園」さん。目の前の通りには、かつて石炭を運ぶ専用鉄道が走っており、「竹之内銀座通り」として栄えていました。そんな歴史残るこの場所で、内郷地区内でも特に大きな被害が生まれていたのです。

普段の宮川。水深も浅く、穏やかな雰囲気です
地域のシンボル的な建物になっている柏俣園さん

柏俣園さん自身も、なんと床上60cm以上の浸水被害に遭っていたそうですが、この地区の復旧作業の拠点として役割を担われました。現在は、竹之内で行われるふくみちゃんカフェの会場として、ご近所さんの憩いの場となっています。

被災から1年経った今も続く被害


「こんにちわ~!」「あら、〇〇さん、元気?」

時間になると続々と年配のご近所さんが集まり、代表の馬目副住職と、社会福祉協議会の竹内さんが笑顔で出迎えます。みなさん顔なじみようで、イスに腰をかけて飲み物やお菓子をつまみながら、おしゃべりに花を咲かせています。

馬目さんたちが丁寧に会場の準備を進めていきます

10人ほど集まったところで、馬目さんが私たち収集ライターを紹介し「内防マップというものを作っているんだって。被災した当時の様子を聞かせてあげて」とみなさんに呼びかけてくださいました。すると、先ほどの和やかな会話がピタリと止まり、堰を切ったようにみなさん一斉に、当時のことを話し始めました。

「あんときは、ほんと大変だったのよ、このあたりもぜーんぶ浸かっちゃってすごかったんだから!」
「私なんて、フェンスのところにつま先立ちして首まで水に浸かって、助けて~!って言ってたんだもの」
「なんで早く逃げなかったんだ?」
「逃げるもなにも、ほんとあっというまに、水が上がってきだんだよぉ!」
「とにかく泥がひどくて、片付けも大変だった」
「いまだに床から砂が出てきて、いくら掃除してもずっとザラザラすんだ」

被害が大きかった地区ということもあり、その場にいるほぼ全員が被災されており、次から次へと話がつきません。「みなさん、当時の話を聞いてほしいという気持ちが強いんですよね」と馬目さんは言います。当時のことをまるで昨日のことのように詳細に語ってくれました。

当時のことをはっきりと覚えていて、話をしてくださった皆さん

鮮明な記憶。それほど恐怖心が大きかったことの裏返しでしょう。雨が降っている様子を見るだけでも当時のことがフラッシュバックして精神的に不安定になるという方もいらっしゃいました。命の危機を感じるほどの体験をされた話を伺い、聞き手である私たちも身震いしてしまうほど。改めて被害の大きさを思い知らされました。

また、被災して時間が経った今がいちばん疲労が現れやすい時期らしく、最近体調を崩されたという方が増えているようです。ひとりで暮らす高齢者も多く、気持ちを吐き出せる場所を必要とされています。被災者同士だからこそ分かり合えること、お互いに声を掛け合うことが、ひとりじゃないという安心感に繋がり、心の支えになっているようです。

皆さんの心の支えとなっているふくみちゃんカフェ

水害後の地域に生まれた希望

みなさんのお話を聞いていると突然、「こんにちはー!ポップコーンありますか?」と元気いっぱいの小学生が訪ねてきました! 柏俣園の前を偶然通った学校帰りの子供たちに、馬目さんが「ランドセル置いて、遊びにおいで」と声をかけて以来、お菓子を目当てに近所の子供たちも遊びに来るようになったようです。

ある男の子は、ふくみちゃんカフェに来ていた男性と顔見知りだったようで、何やら会話を楽しんでいました。小学生が一瞬現れるだけでもその場の空気がパッと明るくなります。年配の方だけでなく、小学生にとっても憩いの場になっているようです。

洪水が襲った痕跡が、住宅の外壁に残っていました
新聞記事を読みながら、これからの防災についても思い馳せます

浸水の被害により家を取り壊し、別の場所へ引っ越してしまう人や、自分が住んでいる組の班長すら知らない人もいるようで、地域のつながりが薄れてきていることに危機感を抱いているという声も多く聞かれました。こうしたコミュニティの衰退に対して、ふくみちゃんカフェが地域のコミュニティを創出する役割を果たしていると感じました。

日頃から備えることの大切さ

偶然にも、このつどいが行われる前日、福島県が2026年度に新川と宮川の改修工事を着手すると報道されました。ふくみちゃんカフェでもこの報道の話になり、「2026年度着手っていうんじゃ、それまでにまた水害が起きたらどうするんだ」「そんな先の話なのか~私はもうこの世にいないわ(笑)」など、率直な気持ちを口にしていました。

防災を行政だけに頼ってばかりでは、自分の命を守るには不十分です。被災してもなお、その場所に住み続けるにはそれぞれの理由があります。この場所でまた被災するのではという恐怖がありながらもここに住み続けるためには、防災への意識をもつ必要があります。

この地に求められるのは、助け合いと防災のまちづくりだと感じました
宮小学校付近の中古物件を紹介するチラシ

皆さんに話を聞くと、その場にいたほとんどの人が地区で行われた避難訓練に参加したと話してくれました。また、「自分は大丈夫だと思っても、高齢者避難に該当する警戒レベル3が発令されたら避難しておこう」とお互いに呼びかけ合っているそうです。日頃から防災を意識することの大切さを、私も学びました。

初めは深刻そうに被災した当時の話を語っていたみなさんでしたが、話題は気づけばご近所さんの話や炭鉱の町として栄えた時代など、笑いを交えながらいろいろな話を聞かせていただき、あっという間にお開きの時間となりました。

浸水被害をきっかけに始まった「ふくみちゃんカフェ」。被災された方々の集いの場を作り傾聴活動を行うだけでなく、世代を超えた交流を生み出し地域コミュニティの活性化も行うこの活動は、まさに私たち内郷まちづくり市民会議が目指す「防災のまちづくり」の指針となります。今後もその活動にも注目しながら、引き続き「ふくみちゃんカフェ」での証言集めを行っていきたいと思います!

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