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僕がもう少し大人だったら続きがあるはずだった話。

バレンタインになると思いだす話

高校三年のバレンタイン。
和食レストランの厨房でバイト中の僕に、店長が近づいてきてこう言った。
「岩切、お客さんが来てるぞ」
はて?
レストランのお客さんの事かと思ったが、そうではなく、
僕目当てのお客さんのようだ。
「オレに客?誰だろ?」
厨房の前かけを外してホールに出てみると、レジの前に高校のクラスメイトの女の子が立っていた。
僕はすごく驚いた。
ただのクラスメイトではない。
クラスで一番可愛い女の子なのだ。

その子はバイト中にごめん、というような事を言い、
「これあげる」
とチョコレートが入った紙袋をくれた。
バイト仲間たちがそれを厨房から見ている。

僕はこの状況を頭の中で整理した。

これは、
クラスで一番可愛い女の子がわざわざ僕のためにバイト先に「義理チョコ」を渡しに来てくれたのだ。
と、
その時の僕の処理能力で出した答えはそうだった。

これはこの子に敬意を表さなくっちゃ!と思い、義理チョコだからこそ、大げさに喜んでみせた。
「うわー!嬉しい!!ありがとう!!!やったー!!!」
レストランのお客さん、お店のスタッフがそれを見て笑った。

その子は
「え!?、もらってくれるん?ありがとう、、」
と言って何か緊張が解けたような顔をした。
そんなのもらうに決まってるし、なんでこの子がお礼を言うんだろうと不思議に思ったくらい。

その日僕はすごく嬉しかった。
クラスで一番可愛い女子がわざわざバイト先に義理チョコを持ってきてくれたのだ。
たとえ義理チョコでも、バイト先にまで持って来てくれるなんて!
とても名誉な事だー!!って。

そのまま1ヶ月がたち高校の卒業式。
その子が友達数人引き連れて近づいてきた。

「あの、よかったら第二ボタンくれへん?」

クラスで一番可愛い女の子が僕に第二ボタンをくれと言っている。
え!?
一瞬、僕でいいのか?と思ったが、僕はこの状況を頭の中で整理した。

確かにクラスの男子の中じゃ一番僕が仲よかったもんな。
チョコもくれたし、友達として気に入ってくれてるんだろな。
記念として欲しいのかな。

その時の僕の処理能力で出した答えはそうだった。

「ボタンもらってくれるん?!やったー!ありがとう!!」
僕はまた大げさに喜んでみせて第二ボタンをあげた。
その子は
「え!?いいの?ありがとう、、」
と言って何か緊張が解けたような顔をした。
僕はすごく嬉しかった。

だけど、
この話はここで終わり。
特に続きはない。
僕がもう少し大人だったら続きはあったのかもしれない。

僕がもう少し大人だったら続きがあるはずだった話。
なんであの時の僕はあれを義理チョコだと思い込んでいたんだろう。

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