源氏物語絵巻

いわきりなおとの国宝漫遊記 第12回国宝「源氏物語絵巻」の巻

◎下ぶくれ顔で雅を表現  国宝「源氏物語絵巻」、東京・五島美術館蔵 

漫画家のいわきりなおとさんが、4月28日~5月6日に、五島美術館(東京都世田谷区)で特別展示される国宝「源氏物語絵巻」を紹介します。

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 紫式部の長編小説「源氏物語」(11世紀)の世界を、約150年後に絵画化した国宝「源氏物語絵巻」(12世紀)は、現存する日本の絵巻の中で最も古いものです。絵と詞書で構成された19図が現存し、名古屋市の徳川美術館と五島美術館が所蔵しています。

 登場人物たちは、下ぶくれの顔に細長い目、鼻を「く」の字のように描く「引目鉤鼻(かぎはな)」の顔です。もちろん、昔の人が皆こんな顔だったわけではなく、貴族や位が高い人を描くときに用いた記号的表現です。

 あえて無表情、無個性の顔に描くことで、貴族の雅な世界観を表現することに成功しています。

 今回取り上げた源氏物語絵巻「夕霧」は、光源氏の息子の夕霧が主役の話。一夫多妻の時代に生真面目な男として評判の夕霧が、ある日落葉の宮に恋をしてしまいます。あらすじだけでもドキドキですが、絵画化するとなお一層引き立ちます。

 夕霧が手にしている手紙は、落葉の宮の母親が届けた物。焼きもちをやいた妻が、手紙を取り上げようと背後に迫っています。右下を見ると、女官たちが聞き耳を立てているではありませんか!

 引目鉤鼻で無表情に描かれているからこそ、見る人それぞれの中にある、源氏物語のイメージに合った表情に見えてくるのです。私の頭の中は、嫉妬に狂う妻や、手紙に夢中な夕霧の顔が浮かんでいます。

 表情を描かないことで、想像力を駆り立てる。歴史的な価値はもちろん、大昔のクリエイターの技術が現代の私たちをもドキドキさせてくれる、傑作絵巻だと思います。(談)

(談 いわきりなおと/記事編集 共同通信 近藤誠) 
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