02踊る人々

いわきりなおとのトーハク見聞録「ゆる埴輪   踊る人々」

02踊る人々

◎シンプル極めたゆる埴輪 
野原古墳出土「踊る人々」

 東京国立博物館(トーハク)が所蔵する埴輪「踊る人々」は、1930年に埼玉県熊谷市の野原古墳から、2体一緒に出土しました。6世紀に作られた物で、どちらも下半分が推定復元されています。

 当時は小さい方(高さ57・0㌢)が古代の男性の髪形「美豆良(みずら)」が見られるため男性、大きい方(同64・1㌢)は女性と考えられたことから「踊る男女」と名付けられました。
その後研究が進み、女性と考えられていた方が美豆良(みずら)が省略された男性の可能性もあるため現在では「踊る人々」と呼ばれています。

 埴輪は古墳の上や周囲に立て並べられた素焼きの土製品。人物の他に動物や家の形をした物も作られ、当時の儀式や暮らしぶりを知ることができます。踊る人々は葬儀の場で舞う姿と考えられ、デフォルメされたシンプルな顔や、片手を挙げた特徴的なポーズは一度見ると忘れられません。

 踊る人々が広く知られているため、埴輪=シンプルと考えている人も多いと思いますが、河野正訓研究員によると、ここまで表現が省略化されている物は珍しいそうです。同じくトーハクが所蔵する「腰かける巫女」は髪の毛や衣服が表現されています。

 現代ではゆるキャラが大人気ですが、踊る人々は、他の埴輪に比べて、毛髪がないため大変デザインがゆるいです。古墳時代の終わり頃で、新たな表現への要求が高まっていたことや、地方の小規模な古墳であったことから、大胆な省略が可能だったと考えられます。作者の技術力の問題もあったかもしれません。

 「踊る人々」は、トーハクの公式キャラクターのモチーフになるほどの名品ですが、実はとても独特なデザインの〝ゆる埴輪〟だったのです。

(談 いわきりなおと/記事編集 共同通信 近藤誠) 
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