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いわきりなおとの国宝漫遊記&トーハク見聞録

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共同通信加盟新聞にて連載中の「いわきりなおとの国宝漫遊記」「トーハク見聞録」の過去記事置き場です。掲載新聞は、秋田魁新報、新潟日報、静岡新報、上毛新聞、神戸新聞、中國新聞、山陰中…
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いわきりなおとのトーハク見聞録 重文「不動明王立像」

◎怒って導くお不動さん 重文「不動明王立像」  東京国立博物館(トーハク)が所蔵する重要文化財「不動明王立像」(平安時代・11世紀)は、目を見開いて唇をかみ、歯をむき出しにした怒りの表情です。  なぜ怒っているのでしょうか? それは仏様が人々を優しく教え導くのに対し、教えを聞かない者や欲を捨てられない者を、激しい怒りで導くためです。  日本における不動明王信仰は、平安時代初期に空海が中国から持ち帰った密教とともに広まりました。空海は中国で学んだ知識や持ち帰った図像を元

いわきりなおとのトーハク見聞録 「ナーガ上のブッダ坐像」

◎海を渡ったクメール彫刻   「ナーガ上のブッダ坐像」   東京国立博物館が所蔵する「ナーガ上のブッダ坐像」(12世紀)は、現在のカンボジアを中心にクメール王朝が栄えたアンコール時代に作られた、クメール彫刻の名品です。  上半身裸で蛇の上に座る姿、目鼻がはっきりした濃い顔、つながった眉毛は日本で見慣れた仏像と比べ、とても特徴的です。西木政統研究員によると、高温多湿の東南アジアでは、上半身裸の姿と蛇は定番のモチーフといいます。この像では二つ欠けていますが、七つの頭を持つ蛇で

いわきりなおとのトーハク見聞録「ゆる埴輪   踊る人々」

◎シンプル極めたゆる埴輪  野原古墳出土「踊る人々」  東京国立博物館(トーハク)が所蔵する埴輪「踊る人々」は、1930年に埼玉県熊谷市の野原古墳から、2体一緒に出土しました。6世紀に作られた物で、どちらも下半分が推定復元されています。  当時は小さい方(高さ57・0㌢)が古代の男性の髪形「美豆良(みずら)」が見られるため男性、大きい方(同64・1㌢)は女性と考えられたことから「踊る男女」と名付けられました。 その後研究が進み、女性と考えられていた方が美豆良(みずら)が

いわきりなおとの国宝漫遊記 第14回国宝「舟橋蒔絵硯箱」の巻

◎大芸術家のセンスが結集  舟橋蒔絵硯箱、東京国立博物館蔵    ×   × 桃山~江戸時代初期の大芸術家本阿弥光悦は、書や陶芸、工芸などさまざまな分野で活躍したマルチアーティスト。二十数センチ四方の舟橋蒔絵硯箱には、光悦の技術や、デザインのセンスが結集しています。  最大の特徴は、山型に盛り上がったふたです。よく見るとゆるやかに流れる川の波模様と小舟が描かれてあり、中央の帯を舟橋(舟の上に渡した橋)と見立てていることが分かります。  散らし書きされた文字も目を引きま

いわきりなおとの国宝漫遊記 第13回国宝「銀閣寺」の巻

漫画家のいわきりなおとさんが、京都市にある国宝の慈照寺(銀閣寺)を紹介します。    ×   ×     室町幕府の8代将軍足利義政は、応仁の乱を引き起こしたり、土一揆に悩まされたりするなど、政治能力に欠けていたとされていますが、文化面では大きな功績を残しました。茶器や美術品をたくさん収集し、現代に残っているコレクションの多くが、国宝や重要文化財に指定されています。  義政は、祖父である3代将軍義満が建てた鹿苑寺(金閣寺)を参考に、京都の東山に慈照寺を造りました。銀色

いわきりなおとの国宝漫遊記 第12回国宝「源氏物語絵巻」の巻

◎下ぶくれ顔で雅を表現 国宝「源氏物語絵巻」、東京・五島美術館蔵  漫画家のいわきりなおとさんが、4月28日~5月6日に、五島美術館(東京都世田谷区)で特別展示される国宝「源氏物語絵巻」を紹介します。   ×   ×    紫式部の長編小説「源氏物語」(11世紀)の世界を、約150年後に絵画化した国宝「源氏物語絵巻」(12世紀)は、現存する日本の絵巻の中で最も古いものです。絵と詞書で構成された19図が現存し、名古屋市の徳川美術館と五島美術館が所蔵しています。  登

いわきりなおとの国宝漫遊記 第11回「琉球国王尚家関係資料」の巻

◎子孫が守った玉冠の輝き琉球国王尚家関係資料、那覇市歴史博物館蔵 漫画家のいわきりなおとさんが、那覇市歴史博物館が所蔵する、沖縄県唯一の国宝「琉球国王尚家関係資料」の玉冠を紹介します。    ×   ×     かつて琉球王国として栄えた沖縄県には、もともと貴重な文化財がたくさんありました。しかし、沖縄戦と米軍の略奪のためにその多くが失われてしまいました。世界遺産の首里城跡にある首里城正殿や守礼門も元国宝で、現在の姿は戦後に再建された物です。  1879年に沖縄県が設置

いわきりなおとの国宝漫遊記 第10回「秋萩帖、伝小野道風筆」の巻

仮名の歴史伝える書跡  国宝「秋萩帖」伝小野道風筆  東京国立博物館蔵   漫画家いわきりなおとさんが、平安時代の能書家(書の名人)、小野道風筆と伝わる秋萩帖(東京国立博物館蔵)を紹介します。    ×   ×     約1100件の国宝のうち、書跡は227件で2割を占めます。つまり国宝鑑賞をしていると、たくさんの書に出合うことになります。最初は違いがあまり分かりませんでしたが、たくさん見ているうちに分かるようになり、今では書跡を見るのが大好きになりました。  平

いわきりなおとの国宝漫遊記 第9回「円山応挙 雪松図屏風」の巻

◎リアル表現で日本画に革命   円山応挙「雪松図屏風」、北三井家旧蔵  漫画家いわきりなおとさんが、江戸時代中期から後期の絵師円山応挙筆の国宝雪松図屏風(6曲1双、左隻、北三井家旧蔵)を紹介します。   ×   ×  応挙は、同時代の伊藤若冲や曽我蕭白といった「奇想」の画家たちに比べ、真面目な絵を描く画家という印象です。現代の若冲ブームに対し、応挙の人気は地味です。しかし、これは現代人から見た評価で、応挙が生きた時代では評価が逆転します。  応挙が登場する前は、格好良く

いわきりなおとの国宝漫遊記 第8回「天平の美少年  阿修羅像」の巻

仏女に人気、天平の美少年 阿修羅像  奈良市・興福寺蔵  漫画家いわきりなおとさんが、奈良市の興福寺が所蔵する国宝阿修羅像を紹介します。    ×   ×  広島カープを応援する「カープ女子」や日本刀が好きな「刀剣女子」が近頃 話題ですが、「国宝阿修羅展」が開かれた2009年ごろから、仏像が大好きな女子、略して「仏女」が注目されています。  数ある仏像の中でも、仏女の人気が高いのが興福寺の阿修羅像です。仏様には偉い順に「如来、菩薩、明王、天部」があり、阿修羅は一番下の天

いわきりなおとの国宝漫遊記 第7回「運慶作 制多伽童子」の巻

◎仏像をリアルに進化  運慶作、制多伽童子 和歌山・金剛峯寺  漫画家いわきりなおとさんが、国宝八大童子立像のうち制多伽童子(和歌山・金剛峯寺蔵)を紹介します。    ×   ×  有名な仏師と言えば、多くの人が運慶の名を挙げると思います。他の仏師とどこが違うのでしょう? 私は、仏像はどれも同じような顔だと思っていましたが、運慶の作品を見て、一目でその良さが分かりました。  運慶仏は、現実の人間のような表情で、今にも動きだしそうな肉体表現がとてもリアル。ポーズや見

いわきりなおとの国宝漫遊記 第6回「迎賓館赤坂離宮」の巻

“明治生まれ”初の国宝  迎賓館赤坂離宮  東京都港区 漫画家のいわきりなおとさんが、国宝迎賓館赤坂離宮(東京都港区)を紹介します。    ×   ×  日本外交の舞台である迎賓館赤坂離宮は、1909年に、皇太子時代の大正天皇が住むための東宮御所として造られました。  設計総指揮を任されたのは、お雇い外国人であった英国の建築家ジョサイア・コンドルの弟子の一人、片山東熊。片山はヨーロッパの宮殿建築をモデルにして、日本初の本格的な西欧様式の宮殿を設計しました。  建築、内装、装

いわきりなおとの国宝漫遊記 第5回「国宝火焔型土器」の巻

◎縄文は日本の真の美  火焔型土器  新潟・十日町市博物館蔵 火焔型土器  漫画家いわきりなおとさんが、新潟県の笹山遺跡から出土した国宝・火焔型土器(十日町市博物館所蔵)を紹介します。    ×   ×  縄文時代中期(約4500年前)に作られた火焔型土器は、燃え上がる炎に形が似ていたことから、この名称が生まれました。 東日本の200以上の遺跡で出土していますが、大半は新潟県内に集中しています。  器に焦げがあることから、日々の暮らしの中で食べ物の煮炊きに使っていたことが分

いわきりなおとの国宝漫遊記 第4回「姫路城」の巻

世界も認める美しい白 姫路城天守  兵庫県姫路市 漫画家いわきりなおとさんが、世界文化遺産でもある兵庫県姫路市の国宝・姫路城天守を紹介します。    ×   ×     姫路城は2015年に「平成の大修理」を終えたばかり。白しっくいの美しさを取り戻し、「白鷺城(しらさぎじょう)」の名にふさわしく白く輝いています。 あまりの白さに、修理前の姿を見慣れた人たちの間で「白くしすぎ」「これでは白すぎ城だ」と言う声もありましたが、昔の白さに戻っただけなのです。  姫路城の白さは