戻るべき思い。そしてJリーグ昇格 【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】
いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智のコラム。今回は2021年のスローガンと、その背景にある決意について語ります。
▼プロフィール
おおくら・さとし
1969 年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998 年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015 年 12 月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。
「原点回帰」。いわきFCには立ち返るビジョンがある。
2021年、いわきスポーツクラブは「WALK TO THE DREAM」というスローガンを掲げた。これまで幾度となく使ってきたこの言葉を、あらためて大きく掲げた理由。それは…。
「原点回帰」である。
2016年以来、いわきFCはつまづくことなく突き進んできた。福島県リーグ、東北社会人リーグを制し、全国地域サッカーチャンピオンズリーグを制覇。JFLへの昇格を果たした。
しかし、満を持して迎えた2020年。JFL初年度はコロナ禍によるリーグ日程の短縮や自粛などの影響もあったものの、6勝3分け6敗の7位。優勝はおろか、J3昇格圏の4位以内にも入れなかった。
まさに、受け入れがたい現実だった。
シーズンを終え、スタッフととことん話し合った。その中で、さまざまな改善すべき点がおざなりになっていたことに気づかされた。失敗した時こそわかることがある。毎年昇格を果たす中、本来見えなくてはいけないものが、見えなくなっていた。結果オーライで、大事なことを忘れていたことを思い知らされた。
例えば、私自身のチームへの関わり方。特にここ数年はさまざまな業務を抱えたことで、立ち上げ当初と比べ、チーム作りへのコミットが少なくなっていた。
現場が価値を作り、フロントがそれをお金に換える。これがサッカークラブの仕組みである。つまり私は、現場が築き上げた「魂の息吹くフットボール」という商品の責任者。それなのにチームのそばにいることができず、多くのことをスタッフに委ねてしまっていた。
つまり昨年の結果は、私自身に起因するということだ。
議論を重ねる中で。これまでやってきたこと、掲げた言葉をすべて引っ張り出した。軸になったのは、5年前にチームを立ち上げた時の思いだ。
ご存じの通り、いわきFCは東日本大震災をきっかけに誕生した。「魂の息吹くフットボール」でいわき市そして双葉郡の皆様を元気にするために活動し「人づくり」「まちづくり」に貢献する。そしてスタジアムに熱狂空間を創出するため、グローバルな視野を持ち、徹底的にフィジカルトレーニングに打ち込む。
われわれは、そんなチームだったはず。「戻るべき思い」があること。それがいわきFCの最大の強みだと、あらためて実感した。
まさに原点へと立ち返り、いわきスポーツクラブの今年のスローガンとして掲げた言葉。それが「WALK TO THE DREAM」なのである。
選手達の成長を支え続ける。その道は、Jリーグへとつながっている。
はっきりと申し上げたい。今年は「J3昇格」を目指す。
「われわれのビジョンは『スポーツで社会価値を創造する』こと。Jリーグ昇格は、あくまでそのための手段に過ぎない」
私はこの言葉をさまざまな場所で発し、選手達にもそう伝えてきた。しかし昨年の結果を振り返った時、心に残ったのは、そんな大義とは裏腹の悔しい思いだった。
もちろん、言葉に間違いはない。でも、大義に酔いしれてはいなかったか。他のクラブのように「Jリーグを目指します」などと言わなくとも上がれるだろうと、高をくくっていなかったか。
そんな自問自答をした。
そもそも選手達は、サッカー選手として成長し、より高いレベルでプレーして名前を上げ、いいサラリーをもらうために集まってくるものだ。つまり、上のカテゴリーでプレーしたいと考えるのは当然のこと。
もちろん自分自身の経験から、その思いはわかっていた。でも昨年までは、いわきスポーツクラブの社長として、クラブの大義をあえて選手達に押しつけていた。
だがやはり、選手は選手である。アスリートの本質ともいえる、成長したいという彼らの思いに応えてあげるべきではないか。そう気づかされた。
今年は選手達の成長意欲に火をつけて、チームを一つにする。そのために気持ちを振り切り、斜に構えたスタンスをやめ、選手達にはっきりとこう宣言した。
「みんなが成長したいと考える先にJリーグがあるのなら、俺達は全力でサポートする。優しい言葉もかけるけど厳しい指摘もする。だから今年は上がろう」
今年は挑戦を貫く。そして選手とスタッフが一丸となって成長する。そして日々の成長が勝点3を呼び込み、その積み重ねがJリーグ昇格という結果へとつながっていく。そう信じている。
チームは2月28日にJヴィレッジで、福島ユナイテッドFCさんとの福島ダービーを戦う。そして3月14日にはJFLが開幕。初戦でマッチアップするのは、昨年終盤の昇格争いで惜しくも引き分けたヴィアティン三重さん。相手に不足はない。
今年の戦いに、大いに期待していただきたい。
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