見出し画像

新年のご挨拶 〜本能を解き放て【ROOM -いわきFC社長・大倉智の論説】

▼プロフィール
おおくら・さとし

1969年、神奈川県川崎市出身。東京・暁星高で全国高校選手権に出場、早稲田大で全日本大学選手権優勝。日立製作所(柏レイソル)、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビルでプレーし、1998年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015年12月、株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役就任。


■関わるすべての方々とともに勝ち取った47ポイント

謹んで新春のお慶びを申し上げます。
昨年は弊クラブに対するご支援、ご声援、誠にありがとうございました。

今年の抱負を述べる前に、あらためて2023年を振り返っていきたい。

初めてJ2に参戦した2023年シーズン。戦績は12勝11分け19敗、勝ち点47。ファンの皆様、そしていわきFCに関わるすべての方々にとともに勝ち取った47ポイントだった。

J2に残留できたことは、率直に言ってよかった。今年もJ2の舞台で戦えるのは、クラブにとっても、選手にとっても、そして何より、この地域に後退感をもたらさないためにも、本当によかったと思う。

いわきスポーツクラブの現状の売上は、一昨年の約8億円に対して2023年は約10億円。徐々に増えているとはいえ、クラブの規模は、J2を3グループに分けるなら下位グループである。そのため、昨年の18位という順位は予想の範囲内だった(実は開幕前には14勝14分け14敗の勝ち点56ぐらい取りたいと目標設定していたが、そこには達しなかった)。

ただし勝ち点47は、例年のJ2でいえば完全に残留可能なポイント数。決してだめな数字ではない。今年は勝ち点の水準が上がり、ぎりぎりまで残留争いに巻き込まれてしまったが、選手達はよくやってくれたと思う。

■ファンの皆さんが作る雰囲気の素晴らしさ

事業面では、悪くない1年だった。

ホームゲーム平均観客動員数3,500名を目指し、クラブ一丸となって頑張ってきた。結果は3,491名。目標にはわずかに届かなかったが、この数字はスタッフの頑張りで達成できたものだ。

そして収容率69.2%はJ2で1位。平均入場者数は昨年と比べて1,317名増え、ジュビロ磐田戦、ベガルタ仙台戦、清水エスパルス戦、ホーム最終のモンテディオ山形戦と4試合が完売。中でも山形戦は5,044名という歴史的な数字となった。今年累計73,306名を集客し、福島県内のスポーツイベントではダントツで1位。東北全域でも上位に入っている。

一方、スタジアムの通信環境の問題、待機列の混雑、夏場の熱中症の体調不良者など、これまで出てこなかった課題が顕在化した。

急激に成長してきた分、課題は山積みであり、急に解決できないことも多い。ただ幸い、大きな事故はなかった。一番大事な安全空間を作れたことは、非常によかった点だ。

スタジアムの通信環境についてはいわき市そして各通信会社と、改善に向けた議論を行っている。そしてシーズンチケットの指定席化。これはいわき市と話をして、実現できた。長い時間、待機列で並んでいた方に、ストレスなく入場していただけることをうれしく思う。

加えてスタジアム全体でのキャッシュレス決済サービス導入、駐車場やアクセスの問題など、来年に向けた課題はたくさんある。その中で、変えられるものはすぐに変えていく。そのためにも、来年のチケット単価を500円上げさせていただいた。今の施設環境の中でできることを、精いっぱいやっていきたい。

そんな中で痛感したのは、ファンの皆さんの作り出す雰囲気の素晴らしさだ。

例え相手チームのサポーターが殺気立ってしまったとしても、その勢いをやんわりと吸収して収めてしまう。いわきFCのファンには、そんなよき雰囲気がある。

これはなぜだろうか。

浜通りの皆さんはよく「おもてなし」「感謝」という言葉を使う。その背景にあるのは東日本大震災の経験からくる思いなのかもしれない。例え相手チームのサポーターであろうと、自分達が住む土地を訪ねてくれた人へのホスピタリティを強く持っている。

この思いが作り出す雰囲気は、Jリーグ60クラブの中で随一だろう。今や、いわきFCの大切なカルチャーだ。

ファンの皆さんが作り出すオーラや空気感が、21試合のホームゲームを安全に開催できた一番の理由。この雰囲気を、今後も大事にしていきたい。

■編成の難しさ、そしてうれしい誤算

一方でチームについては、決していい年だったとはいえない。中でも、開幕戦のつまづきは痛かった。

J3優勝の勢いのまま、J2の舞台に挑んだつもりだった。そして改修工事を行っていただいたいわきグリーンフィールド(現ハワイアンズスタジアムいわき)には、4,318名のお客様が来場。大きな期待を背負って戦った開幕戦だった。

しかし選手達のコンディションが整わず、いい準備ができていないまま、シーズンに入らざるを得なかった。そしてミスをきっかけに、前半で3失点。しかも内容が悪かった。後半に立ち直って1点差に迫ったが、結局、藤枝MYFCさんにやられてしまった。

振り返ると、あの試合が私の中で最も印象に残っている。

シーズンで最も大きな出来事は、監督の交代だろう。昨年は村主博正監督体制でスタートし、6月半ばから田村雄三監督体制となった。

このような事態のために、ゼネラルマネジャーだった田村を準備させておいて、よかったとは思う。だが、監督を代えて成功したとは思っていない。「交代のタイミングが絶妙だったね」などと言われることもあるが、それはまったく本意ではない。本来、それではいけないからだ。

正直、監督を代えたくはなかった。クラブとして謳う「人づくり、まちづくり」という理念のもと、もともと村主監督の起用背景には「初めてJクラブを監督として指揮する人材を登用し、育てたい」という思いがあった。だから、ギリギリまで我慢した。交代はまさしく、苦渋の決断だった。

昨年のネガティブな面をひと言で言うと「編成ミスと準備不足」である。

前述した通り、開幕までの準備に失敗したことは否めない。そして攻撃陣を中心に、期待した主力選手がコンディション不良で活躍できなかった。そしてチームとしても、2022年限りで移籍した選手の穴を最後まで埋め切れなかった。

加えて例年に比べ、大卒1年目の選手が苦労した。

実感させられたのは、大卒1年目の選手がJ2の舞台ですぐに結果を出すことの難しさ。そこにあるのはJFLやJ3と、J2のレベル差だ。

もしも昨年J3にいたら、大卒1年目の選手達はもっと活躍できていたかもしれない。昨年末にJ1クラブへの移籍が発表された、MF宮本英治やDF家泉怜依。彼らはJFLやJ3という、多少のミスをしてもそれが即失点や敗戦につながらない環境で実力をつけ、押しも押されぬ主力選手へと成長していった。

でも、今の選手達は違う。

J2の試合でミスをすれば、それは即、失点や敗戦につながる。ミスをした選手は厳しい精神状態に追い込まれ、その分、成長が鈍化してしまう。つまりJ2は、新加入選手達にとって非常にきついステージ。彼らをリーグのレベルに引き上げることの難しさを痛感させられた。この部分は今年のシーズンに向けた明確な課題といえる。

ただし、その中で「うれしい誤算」はあった。鹿島アントラーズから2年間の育成型期限付き移籍でやってきた、MF下田栄祐の台頭である。

J1クラブのユースで育った世代別代表クラスの選手を、2年間の期限付きという異例の条件で育成していく。それは新たなチャレンジだった。特にJ1クラブにとって、下部組織で育てた選手の育成は大きな課題。せっかくの素材でも、目先の勝利を優先せざるを得ない状況からトップチームで十分に起用できず、成長が鈍化。期待した活躍ができないまま、選手としてピークの時期を迎えてしまう。

この「ポストユース問題」は、日本サッカー界が抱える大きなテーマだ。

下田はこれからの日本サッカーを牽引できる逸材だ。もともと2023年で身体を作り、2024年に我々の戦力になり、2025年に鹿島に戻ってベンチ入りする、という計画を立てていた。だが彼は予想以上の成長を示し、昨シーズン後半にはチームに欠かせない存在となった。

下田の活躍はポストユース問題という課題に対するいわきFCとしての解答であり、クラブの貴重な実績である。そしてこのオフ、サンフレッチェ広島からFW棚田遼、セレッソ大阪からMF大迫塁、FC東京からDF大森理生という3人の若手選手を期限付き移籍で迎え入れることとなった。彼らの大きな成長を期待している。

■本能にすべてを捧げ、逃げずに自分と向き合ってほしい

そして、今年。

我々は優れたポテンシャルを持つ若い選手を獲得し、クラブとしての強みであるチームビルディングのプロセスに乗せて価値を上げ、彼らの成長を勝利と相関させていく。

2024年も、この方針にブレはない。

昨年末、多くの主力選手が新天地に戦いの場を求めた。J1やJ2上位のクラブが「いわきの選手は頑張る」「素直で一所懸命やる」という評価をしてくれて「今年の移籍市場はいわきFCの選手が中心で回っている」といわれる状況となった。

黒髪の若者達(実はいわきの選手は茶髪禁止である)が必死で頑張る姿は、今の日本社会が求めているものとリンクしているのかもしれない。そんな想いすらある。短い現役生活の中、選手達にとってはお金や環境、ステップアップもまた大切なこと。我々は選手達の価値向上に取り組み、彼らのサッカー人生を豊かなものにしていきたい。

加えて2024年に取り組むべきこと。それは「勝つためのプレースタイル」の構築だ。

我々は今年「魂の息吹くフットボール」を「勝つために」貫いていく。そのためにも、ストレングストレーニングやスプリント能力、そして食事など、選手を成長させるプロセスの中身を、もう一度深く考え直す必要があるだろう。

2024年の幕開けに当たり、あらためて選手達にこの二つを問いかけたい。

「本当にサッカーが好きか」
「本当にもっと上手くなりたいのか」

昨年J2で厳しい試合を経験し、苦しい状況に陥った時、選手達の本音がよく見えた。追い込まれた時の立ち居振る舞いには、人間の真の姿が表れるものだ。

負けて本当に悔しいのか?
流しているのは本当の涙なのか?
本当にサッカーが好きなのか?
本当にもっと上手くなりたいのか?
成長したいのか?

よくも悪くも、その生々しい部分がよく見えた。

「もっと上手くなりたい」という思い。それはアスリートの本能だ。選手達には本能を解き放ってほしい。この本能にすべてを捧げ、逃げずに自分と向き合ってほしい。そして好きでたまらないサッカーに、さらに情熱を傾けてほしい。そして、浜通りを熱狂の渦に引きずり込んでほしい。

そう願っているし、今年はこの本質をもう一度追求するチーム編成にする。そして成長のためにひたむきに頑張る選手、勝利のために懸命に戦う選手を、これからも輩出していきたい。それがチームの価値を上げていくと信じている。

2024年のいわきFCに、ぜひご期待ください。
本年も変わらぬご支援をいただけますこと、よろしくお願い申し上げます。

令和6年1月1日
株式会社いわきスポーツクラブ
代表取締役 大倉智

「サポートをする」ボタンから、いわきFCを応援することができます。