もっと成長する。さらに上を目指す。DF家泉怜依【Voice】
昨季は新人ながらJ3リーグ全34試合中33試合に出場し、ベストイレブンに輝いた家泉怜依選手。戦いの場をJ2に移した今季もCBとして相手の攻撃を跳ね返し続ける守備の要に、お話をうかがいます。
■フル出場を続ける守備の要。
昨季J3を制し、今季はJ2での飛躍が期待されるいわきFCですが、シーズン序盤はやや苦戦を強いられています。それでも大崩れすることなく、タフに戦い続けられている原動力が、遠藤凌選手と家泉怜依選手というCBコンビの安定感でしょう。中でも流通経済大から加入して2年目の家泉怜依選手は、今季全試合フル出場中。チームの守備をしっかりと支えています。
「さすがにJ2はレベルが高い。特にシュートの技術が高いです。ただ、すごい選手もいますけど、全部が全部通用しないわけではない。プレーの判断や質を高める必要はありますが、あまり心配はしていません」
昨季から一段レベルの上がった舞台ではありますが、家泉選手は前向きに語ります。その表情は、今後の巻き返しを十分に期待させてくれます。それは、環境が変わるたびに大きな飛躍を遂げてきたという実績に裏打ちされた、ある種の確信のようなものかもしれません。まずは、そんな家泉選手のキャリアを紹介しましょう。
家泉選手は香川県出身。ただしお父さんが転勤族であったとのことで、サッカーを始めたのは鹿児島在住だった3歳の時。同じ幼稚園で仲がよかった友だちの影響と、ボートで全国大会出場の経歴を持つお父さんの勧めもあったそうです。
「とりあえず声を出す、というタイプでした。小学校の時にはCBをやったこともありますが、前の方のポジションが多かったです。中学時代もFWでしたが、中学3年生の時にCBにコンバートされました。
恩師からは『CBとFWは紙一重だ』と。マッチアップすることの多いポジション同士ですし、お互いの立場を理解していることがプレーに役立っていると思います」
子どものころは「夢でしかなかった」というプロへの道。それでも中学時代に厳しい指導を受ける中、プロサッカー選手になることを具体的な目標として定め、順調に成長を遂げていきました。
■大きな壁を乗り越えていった高校~大学時代。
家泉選手といえば、相手選手との競り合いに負けないヘディングの強さが大きな魅力。その力が磨かれたのは、主に高校時代だったそうです。
「高校に入って周りの選手と比べた時、自分にはこれといった武器がありませんでした。ただ、ちょうどそのころに身長が伸び始めて、高1の時には182cmになっていました。ヘディングを自分の強みにするために、吊るしたボールをひたすらヘディングするなど、さまざまな練習に取り組みました」
そんな家泉選手を待ち受けていたのは「全国の壁」でした。
「四国の中だったら普通に勝ち上がっていけて、壁というものは特に感じませんでした。しかし国体の県代表になって、1回戦で宮崎県と当たったんです。その時の相手FWはそれほど大きくなかったんですけど、ワンチャンスをものにされてしまって…。決められる時に決めないと、一発でやられる。そんな勝負の厳しさを、強く思い知らされました」
また、関西や九州の全国高校選手権常連の強豪校と試合をする機会も多く、「(自分は)まだまだ技術が低い」と感じることも多かったそうです。
「身体は大きかったので、そこを活かせば勝てることは多かったのですが、関西や九州やチームの選手には通用しませんでした。特に神村学園の高橋大悟選手(現FC町田ゼルビア)には衝撃を受けました。マークについていても、ボールタッチの上手さが異次元で…。
おかげでヘディング以外の練習もするようになって、特にアジリティの部分を磨いて一対一の対応力を高めていきました。それと、足元のパスの練習もかなりしましたね」
進学した流通経済大でも、最初は苦しんだそうです。家泉選手は「技術の面でひどいぐらいにレベルが違いました」と苦笑い交じりに振り返ってくれました。
「全部の技術が圧倒的に違っていて…。ロングボールを落とす場所、パスを受けてボールを止める位置――。パスの練習一つとっても、精度がぜんぜん違いました。幸い1年生の時から試合に出ることはできていたのですが、正直、自分が穴になっていました」
しかし、この厳しい環境こそが大きなプラスになっていきました。
「周りはゆくゆくJ1のクラブに進む選手ばかり。そんな環境なので、試合に出るだけで成長することができました」
家泉選手が下級生のころ、流通経済大は「流経大ドラゴンズ龍ケ崎」としてJFLに参戦していました。家泉選手は1年生のころから随時試合に出場。強くて大きい相手FWとのマッチアップにも、ヘディングは十分通用。このことを、自信につなげていきます。
「『まだまだ下手だ』という自覚はあったんですけど、ヘディングだけはJFLでも大学のリーグ戦でも負けませんでした。『今までやってきたことはムダではなかった』と実感し、前向きにサッカーに取り組むことができました」
■J3開幕戦で自信を得て、スターティングメンバーに定着。
2022年、家泉選手はJ3に昇格したばかりのいわきFCに加入。開幕戦の鹿児島ユナイテッドFC戦にCBで先発出場しました。
「強力なツートップを擁する相手に、セットプレーで決められてしまったのですが、流れの中での攻撃やカウンターは止めることができました。『意外とやれるな』と自信になりましたね」
プロデビュー戦を1失点で切り抜けると、その後はスターティングメンバーに定着しました。185センチの恵まれた体格を活かしたヘディングの強さを武器に相手の攻撃を封じ込める一方で、前線へのフィードやサイドチェンジにより、攻撃の起点としても遺憾なく力を発揮しました。
昨季序盤のCBのパートナーは星キョーワァン選手(現ブラウブリッツ秋田)。当初は経験豊富な星選手のリーダーシップに頼る面が多かったものの、シーズン中盤、星選手が負傷により離脱。急遽やって来た遠藤凌選手とコンビを組むことになりました。このことをきっかけに、チームを引っ張る意識が徐々に生まれてきたと語ります。
昨季のJ3リーグでは1試合だけ欠場したものの、残り33試合はほぼフル出場。今季もJ2リーグでここまでの全試合に先発フル出場しています。その中で特筆すべきは、この計43試合で警告(イエローカード)を一度も受けていないということです。
「不用意に足を出し、相手を引っ掛けることがないように常に意識しています。いわきFCにはキレのいい動きをするFWの選手が多いので、普段の練習から足を出さずに一対一の対応をすることを徹底できているのが大きいですね。また身体の動きを向上させるための筋力トレーニングに取り組んでいて、その成果が出ていることもあると思います」
チームを率いる村主博正監督も、家泉選手には厚い信頼を寄せています。
今季は遠藤凌選手とのコンビも2年目。チームを牽引する統率力にも、目を見張るものが出てきました。
「グリさん(村主監督)からは『ディフェンスのリーダー、キャプテンだと思ってやれ』と言われています。いわきFCは全員で守備をするチーム。前の選手に指示を出す部分でもっとリーダーシップを持ってやれればと思います」
■ここならば、もっと成長できる。
家泉選手の空中戦の勝率は76.4%。J2リーグ全選手の中で27位(第9節終了時点)と、得意のヘディングは十分に通用していることがわかります。とはいえ、チームとしてはここまでの10試合で15失点。単純な比較はできませんが、昨季J3リーグ34試合で23失点だったことを考えると、守備を立て直すには家泉選手個人のさらなるレベルアップも求められます。
「後ろから指示を出すコーチングの部分に、もっと磨きをかける必要があります。守備の面ではFWの抜け出しについていき、一対一でかわされることがないように対人の技術を成長させることが課題です。
また、攻撃時にヘディングで得点できればと思っています。J3と比べて、J2は相手を崩すことがより難しくなる。セットプレーで得点できれば、試合を有利に運べるはずです」
今シーズンはまだ約4分の1を消化したに過ぎません。ここからの巻き返しは十分可能です。家泉選手は、守備がそのためのカギであると考えています。
「失点している以上、後ろを守っている自分たちの責任。失点しなければ負けることはありません。今はケガ人が多く、攻守がかみ合っていない面も多少ありますが『我慢して身体を張る』というスタイルを続ければ、必ずもっと勝てる。すべては守備次第です。
もちろんJ2優勝を目指していますし、個人的にはリーグ最少失点を目指したいです。また、セットプレーからの得点を増やし『J2のCBといえば家泉』と言われるようになりたいですし、今季もベストイレブンに入ることが目標です」
そして長期的には、日本代表への思いもあります。
「サッカー選手として、最終的には代表に選ばれたい。もちろん海外にも挑戦したいですね。冨安健洋選手(アーセナル)は1学年上で、伊藤洋輝選手(シュツットガルト)は同い年になります。よく彼らの動画を見るのですが、技術、守備のレベルに大きな差を感じます。もっとトレーニングしないと、あのレベルには追いつけない。でもいわきのトレーニング環境は世界レベル。ここなら、もっと成長できる。もっと上を目指していきたいです」
次回は家泉選手とともにチームの守備を支える、CB遠藤凌選手にお話をうかがいます。お楽しみに!
(終わり)
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