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【マッチプレビュー】2024明治安田J2リーグ第10節 いわきFC対清水エスパルス

2024明治安田J2リーグ第10節。いわきFCは4月13日(土)、ハワイアンズスタジアムいわきに清水エスパルスを迎える。この試合の見どころについて解説していこう。


■清水エスパルスとは

清水エスパルスは、静岡県静岡市をホームタウンとするプロサッカークラブ。Jリーグ「オリジナル10」の一つである。

1993年のJリーグ創設に当たり、地域に根ざした欧州のクラブ組織を理想とするリーグの理念を体現。静岡県社会人サッカーリーグ所属の清水FCをベースに、クラブは誕生した。

初年度の93年は1stステージ4位、2ndステージ2位の好成績。1996年にヤマザキナビスコカップを制し初めてのタイトルを獲得。1999年の2ndステージで初優勝を果たし、2000年にはアジアカップウィナーズカップを制覇している。

2022年に17位でJ2降格。2023年は開幕からクラブワースト記録を更新する7戦未勝利と低迷する。だが4月に秋葉忠宏氏が監督に就任するとチームは息を吹き返し、14試合負けなしのクラブ記録を樹立。シーズン終盤まで自動昇格圏内入りを見すえてデッドヒートを繰り広げたが、最終節で水戸と引き分けて自動昇格ならず。

3位で進出した昇格プレーオフは準決勝で6位山形とスコアレスドローで規定により決勝進出。だが決勝では東京ヴェルディと引き分け、規定によりリーグ戦上位の東京Vが昇格。1年でのJ1復帰を果たせなかった。2年連続のJ2はクラブの歴史上初めてのこととなる。

今季は秋葉監督体制2年目。サンフレッチェ広島からDF住吉ジェラニレショーン、鹿島アントラーズからMF中村亮太朗らが加入。J2屈指の選手層を誇り、今季のJ1返り咲きがマストであることは言うまでもない。

■いわきFCと清水エスパルス

過去、清水エスパルスとは三度の対戦がある。

一度目は2017年の天皇杯3回戦。いわきFCは福島県社会人リーグ1部に所属し、選手はほぼ全員がアンダーアーマーの倉庫で日常業務をこなすアマチュア契約。それでも田村雄三監督率いるチームは2回戦でコンサドーレ札幌を撃破。勢いに乗って清水に挑んだ。

結果は0対2。いわきFCは惜しくも敗れたが、随所で鍛え上げたパワーと高い走力を発揮。チームの名を全国へ轟かせた。

2017年の天皇杯3回戦、当時福島県リーグのいわきはIAIスタジアム日本平で清水と対戦。

二度目の対戦は2023年5月7日のJ2第14節。初対決から6年。ついに同カテゴリーに辿り着いたいわきFC。だが、清水がはっきりと格の違いを見せつける。

試合は前半から清水が圧倒。いわきは終盤に1点を返したものの、ほぼ何もできずに1対9の大敗。厳しい現実を痛いほど思い知らされる結果となった。

そして三度目の対戦は、ホームに2位・清水を迎えた2023年10月のJ2第39節。

前半戦の不調を経て、田村監督の再就任とともに息を吹き返したいわきFC。第37節には首位・FC町田ゼルビアを撃破し、自信を取り戻して雪辱に挑んだ。

「いつも通り勇気を持ってボールを持ち出し、前につけていく。ここまで続けてきたことをしっかりとぶつける」

試合前、田村監督は真っ向勝負を明言。言葉通り、いわきは臆することなくボールを動かし、ゴールに迫っていく。だが11分にDFの連携ミスから先制を許すと、30分から立て続けに2失点。0対3の劣勢となってしまう。

だがそれでも、いわきは前への姿勢を崩さない。

前半終了間際にFW有田稜(現・モンテディオ山形)がカウンターから右サイドを駆け、折り返しをFW谷村海那が決め、見事なゴール。1点を返し、1対3で前半終了。嫌な流れをしっかりと断ち切ってみせた。

後半は清水との力量差を思い知らされる結果となり、1対7の大敗。雪辱ならず。ただし内容は5月とは違った。

清水の秋葉監督が「前回とはまったく違うチームだったし、点差ほど簡単なゲームではなかった」と語るように、前回4本にとどまったシュート数はこの日9本。いわきは谷村のゴール以外にも清水を幾度となく押し込み、はっきりと成長を示した。

田村監督は試合後、このようなコメントを残した。

「ハーフタイムに、3点を取って勝ちにいこうと言いました。引いて守り、セットプレーから1点を狙う戦いをすれば、それなりの形になったかもしれない。でも、いわきFCがそれをした先には何も残らない」

攻撃的なプレースタイルを貫いた理由は、いわきFCが誕生したきっかけにある。

東日本大震災で負ったダメージから立ち上がり、前を向いて力強く歩み続ける浜通りの人達。彼らの力となることを目指すクラブに、勝ちを欲するあまり真っ向勝負を避け、引いて守りを固める戦いはふさわしくない。

厳しい戦いの中、チームはクラブ誕生の原点となる姿勢を貫いたのだった。

そして、迎える今節。

ここまで3勝4分け2敗の勝ち点13で10位。格上のチームにも気後れせず食らいつき、勝ち点を拾ってきた。それだけに、問われるのはここまでの積み上げだ。

昨年の二度の大敗からクラブは何を学び、どれだけ成長できたのか。そして今シーズンのここまで、チームは何を積み重ねてきたのか。今できることは何なのか。

それは否が応でも、今節の戦いで明らかになる。

■2024年戦力分析~清水エスパルス

清水の戦績はここまで6勝1分2敗の勝ち点19。現在首位を走る。開幕から5勝1敗でスタートするも第7節でモンテディオ山形に敗れ、第8節で徳島ヴォルティスと引き分け、やや停滞。しかし前節、ヴァンフォーレ甲府を1対0で破って復調。ファジアーノ岡山に代わり、首位に立った。

フォーメーションは4-2-3-1。第9節のメンバーはGK57権田修一、DF3高橋祐治/DF14山原怜音/DF28吉田豊/DF66住吉ジェラニレショーン、MF11ルーカス・ブラガ/MF13宮本航汰/MF21矢島慎也/MF41白崎凌兵/MF71中村亮太朗、FW10カルリーニョス・ジュニオ。

GK権田修一は元日本代表の守護神。DFはCBが3高橋祐治と甲府戦でゴールを決めた66住吉ジェラニレショーンのコンビ。左SBが14山原怜音、右SBが28吉田豊。

攻撃の中心となるFW23北川航也とMF33乾貴士がここ数試合欠場していたが、2人とも前節の甲府戦の後半から復帰。乾はセットプレーから66住吉ジェラニレショーンのゴールを絶妙にアシストし、違いを見せつけた。

おそらく今節は中央にFW北川、トップ下にMF乾、カルリーニョスが左ウイングに入るベストメンバーでマッチアップするだろう。

清水は左サイドを軸に攻撃を仕掛ける傾向があり、まず警戒すべき選手は左SB山原怜音。山原の突破を起点とし、そこにFWカルリーニョス、MF乾らが絡んで崩してフィニッシュに持っていくのが今季の一つの形。まずは山原をタイトな守備で抑え、MF加瀬直輝&FW西川潤の右サイドからしっかりと押し込みたい。

今節、特に重要になるのが先制点だ。

清水はクロス対応の甘さをきっかけに失点する傾向があり、いわきは両WBを中心にしっかりサイドを崩していきたい。ただし逆を言えば、屈強なCB2人の後方にGK権田が構える清水の中央は非常に固いということ。

清水はジェフユナイテッド千葉に勝利した第5節を最後に複数得点を取れていないが、ここまでクリーンシート4試合。第6節にブラウブリッツ秋田、第9節にヴァンフォーレ甲府に1対0で勝利を挙げている。

1点取れれば勝ちを持ってこれるのが、今の清水。それだけに、決して先制点を許してはならない。

■激化するポジション争い

いわきFCはミッドウィーク開催の第8節のホームゲームで、藤枝MYFCと対戦。MF山口大輝の2ゴールとFW西川潤のPKによる1ゴールで3対0の勝利を挙げた。

そして前節は、アウェーで横浜FCと対戦。前半16分にMF大迫塁のFKで先制するもわずか1分後に同点ゴールを奪われ、前半はシュート2本と防戦一方。さらに後半4分には逆転を許す。

だがその4分後、MF加瀬直輝の突破をきっかけに得たPKをDF照山颯人が決め、今度はいわきがすぐさま追いつく。結果、試合は2対2の引き分け。田村監督が「東の横綱」と称する難敵を相手に、勝ち点1を持ち帰った。

課題の一つが、得点直後の時間帯のマネジメント。特に先制直後の失点は大きなテーマだ。

得点後、すぐにもう1点を狙いに行くのか、それとも一度落ち着くのか。選手同士の微妙な意識のズレが、失点の一つの要因となったのは明白。今回の失点は、選手達にとって貴重な経験となったはずだ。

また、藤枝MYFC戦と横浜FC戦では新戦力の台頭もあった。

大きな貢献を見せたのが今季、セレッソ大阪から期限付き移籍でやって来た19歳のMF大迫塁。もともとボランチの選手だが、昨年のセレッソ大阪時代に左SBにチャレンジした経験もあり、これまで嵯峨理久、坂岸寛太が起用されてきた左WBのポジション争いに割って入った。

武器は高精度のキック。藤枝戦ではCKでMF山口大輝のゴールをお膳立てし、横浜FC戦では見事なFKから先制ゴールを挙げてみせた。ただしWBとしてはまだまだ発展途上。今後はより高い位置でボールを受け、相手守備陣の背後を取る動きが求められるだろう。

他に今後、ポジション争いが激化していく可能性があるのが、ワントップとドイスボランチだ。

ワントップは第2節以降、FW近藤慶一が先発出場を続けていたが、FW有馬幸太郎が復調。有馬は藤枝MYFC戦と横浜FC戦で後半から出場してコンディションのよさを示しており、開幕戦以来、スターティングメンバーの座を奪い返せるか。

そしてボランチ。MF山下優人と大西悠介のコンビが盤石だった序盤戦から、様相が変わりつつある。

MF山口大輝が第7節のブラウブリッツ秋田戦から復帰。第8節の藤枝MYFC戦で2ゴールを挙げた。山口はもともと攻撃の多様なポジションをこなせるだけに、好調を維持する谷村海那、西川潤の2シャドーに絡むことで、攻撃が活性化されつつある。

一方、第2節からボランチで出場を続けているMF大西悠介は藤枝戦、横浜戦と2試合連続でイエローカードをもらって前半で退いており、ここが正念場。得意のボール奪取だけでなく、パスの精度向上などの課題としっかり向き合えるか。ボールを動かせるMF山下優人、復帰間近のMF下田栄祐も含めた質の高いポジション争いを期待したい。

■「ベースの部分で決して負けないこと」田村雄三監督

「横浜FC戦は、警戒していたセットプレーに対してはしっかりアジャストできましたが、流れの中で失点してしまいました。前半最初の時間帯で、横浜FCさんの5バックに対して蹴る展開が続いたのがもったいなかった。もう少し、序盤からしっかりつないでいきたかったです。

ただ、自分達のサッカーはできたと思います。引き分けという結果は悪くありませんが、勝てる試合でした。

今年の清水さんは前線の外国人選手が抜けた分、個の力に頼るのではなく、みんなで戦う意識が強くなっているように思います。だからこそハードワーク、球際の強さ、攻守の切り替えの速さといったベースの部分で、決して負けないことです。

MF乾選手を中心とする攻撃に加え、前から奪うショートカウンターなど多彩な戦い方を持っていますが、決してすべてが完璧ではない。つけ入るポイントはいくつか見つけていますし、得意のパターンに持ち込ませないよう、手を打っていくつもりです。

とはいえ、基本的にやるべきことは何も変えません。そして、横浜FC戦で出た反省点を克服していきたい。

清水エスパルスさんに対し、特別な意識は持っていません。昨年のことは昨年のこと。今年は今年で一戦一戦を大切に、全力で闘うことが大切だと考えています。

昨年から半数が入れ替わっていますから、選手達に1年前の話をする気はありません。今のこのメンバーで何ができるか。それを突き詰めるつもりですし、しっかりと勝ち点を取りたいと思います」

■難敵とのマッチアップが続く

第9節を終えた今年のJ2。ここで順位に変動があった。上記の通り清水が首位に浮上し、2連勝したV・ファーレン長崎が得失点差でファジアーノ岡山を抜いて2位に。序盤から首位を走った岡山は愛媛FCと分け、3位に後退した。

いわきFCは横浜FC戦の引き分けによって、現在3勝4分け2敗の勝ち点13で10位。上位進出をうかがう位置につけ、プレーオフ圏内の6位・ブラウブリッツ秋田との勝ち点差は1。

星取り勘定はまだ時期尚早。だが今年はまだ連敗がなく、得失点差も+9で中位に食らいついている。今節の清水戦を皮切りに、アルビレックス新潟とのルヴァン杯を挟み、大分トリニータ、栃木SC、ジェフユナイテッド千葉と続く難敵とのマッチアップが続く。ここをどう乗り切るか。シーズンの行方を占う上で非常に大事なのは局面となるだろう。

2024明治安田J2リーグ第10節 清水エスパルス戦は4月13日(土)16時より、ハワイアンズスタジアムいわきにてキックオフ。試合の模様はDAZNでライブ配信される。

昨シーズンの厳しい戦いから1年。勝利を目指して戦ういわきFCの選手達に、熱きご声援を!

(終わり)

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