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【葬送のフリーレン】考えを整理する時間を静寂で満たす

TVアニメ『葬送のフリーレン』では、Evan Callさんが作曲した劇伴が、作品の雰囲気に合っていて、作品の価値を上げていると考えています。

ただ私自身が音楽初心者で、音楽が良いかどうかは評価できないです。

よって本記事では、劇伴の音量と、劇伴が始まるポイントのみに観点を絞って、その効果について考察したいと思います。


本記事では、TVアニメ『葬送のフリーレン』の他に、比較として『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『宇宙よりも遠い場所』の場面を引用します。

ほんの一部の引用で、深い内容には触れませんが、気になる方は読むのを止めてください。



劇伴の当て方について

フィルム・スコアリング

全体的な話として、TVアニメ『葬送のフリーレン』の金曜ロードショー放送分(第1~4話)は、音楽担当のEvan Callさんが、フィルム・スコアリングによって作曲しています。

Evan: 今まで作ったTVアニメの劇伴と違って、まず第4話までは映像に合わせて「フィルム・スコアリング」方式で作りました。シーンごとにすべて書き下ろしたということですね。映画のような体験ができると思います。

小学館「TVアニメ『葬送のフリーレン』公式スターティングガイド」51ページより一部抜粋

フィルム・スコアリングとは、ある程度映像が仕上がった段階で、作曲家の方がそれを見た上で曲を書き下ろすという手法です。

映画音楽で行う作曲方法で、TVアニメでは制作スケジュールの都合上、映像が出来る前に劇伴の曲を納入するのが一般的です。


感情ではなく起きている場面に音楽をつける

また監督である斎藤圭一郎さんの要望として、フリーレンの感情に音楽をつけるのではなく、起きている場面に音楽をつけてほしいとのことでした。

斎藤:劇伴については、フリーレンが今どういう感情なのかっていうのを音楽として乗せたくないというか。フリーレンの感情に音楽をつけるのではなくて、起きている場面に音楽をつけてほしいとお願いしました。たとえば、戦っている時は戦っている音楽みたいな。

小学館「TVアニメ『葬送のフリーレン』公式スターティングガイド」55ページより一部抜粋

上記の具体例としては、フリーレンが蒼月草を発見した場面で、一面きれいな花畑が画面に出てきた際には、華やかで音の大きい音楽が流れていました。

華やかで音の大きい音楽が流れている場面
原作:山田鐘人・アベツカサ 監督:斎藤圭一郎 アニメ「葬送のフリーレン」第2話より

一方フリーレンとハイターが最後に会話する場面では、フリーレンの感情が大きく動いているのにも関わらず、シーンとしてはただの会話なので、劇伴を流さずに進行していきました。

音楽が流れていない場面
原作:山田鐘人・アベツカサ 監督:斎藤圭一郎 アニメ「葬送のフリーレン」第2話より

この劇伴の当て方は、斎藤監督が以前手掛けた『ぼっち・ざ・ろっく!』でも一部共通していて、感傷的な場面でもエモーショナルな曲は当てずに、静かなメロディの曲を当ててほしいと、音響監督に要望していました。

ー 各話のシーンに音楽をつける作業ではどのように方向性を決めていきましたか?
~中略~
その傾向は感傷的な場面でも同様で、第8話のひとりと虹夏が自販機の前で会話するシーンでも、最初はエモーショナルな曲をつけて聞いていただいたところ、「しっとりしすぎる」といったリアクションが返ってきました。そこで、曲のトラックを調整してメロディーがささやかな音源を作って当ててみたところ「こういう感じが欲しかったんです!」と言っていただけました。

原作:はまじあき 編:まんがタイムきらら
「ぼっち・ざ・ろっく!」TVアニメ公式ガイドブック -COMPLEX-117ページより一部抜粋

あくまで視聴者の感情は視聴者自身に委ね、下手に感情を誘導するようなことは避けるのが、斎藤監督の傾向なのだろうと推察しています。


何かに気付く場面

上記は全体の傾向の話でしたが、個別の場面で劇伴がどのように当てられているかを、次に考察したいと思います。

色々な場面がありますが、登場人物が「何かに気付く場面」が特徴的かなと思ったので、本記事ではそれについて考察します。


考えを整理する時間を静寂で満たす

「何かに気付く場面」の具体例として、ヒンメルの葬儀の際に、参列者から薄情だと言われてしばらくして、フリーレンがハッとする場面が挙げられます。

ヒンメルの葬儀で何かに気付くフリーレン
原作:山田鐘人・アベツカサ 監督:斎藤圭一郎 アニメ「葬送のフリーレン」第1話より

その後に教会の鐘のシーンに移りますが、鐘の音は意図的に消してあり、しばらくしてから鐘の音が鳴ります。

この「何かに気付く場面」の後にある静寂が、重要かなと考えています。

というのもエルフであるフリーレンは、悠久の時を生きる種族であり、何か出来なくても、またいつか出来る時間はいくらでもあるので、後悔というものに慣れていません

ヒンメルの死を目の前にして、自分がヒンメルを知ろうとしなかった後悔に気付きますが、おそらくその後悔に慣れていないフリーレンは、実際に考えを整理するまでに時間が掛かると思われます。

この考えを整理する時間を、無音の鐘のシーンで表現しており、その演出はまさに、フリーレンの視点に立った演出だったと言えます。

考えを整理する時間を静寂で満たす

上記の場面以外にも、同様の演出は幾つかあり、具体例は以下に列挙しました。

・フェルンが修行する理由をフリーレンが聞いた場面(第2話)
・フェルンがフリーレンの好物を言い当てた場面(第3話)
・ヒンメルはフリーレンのことを信じていたと、フェルンがフリーレンに伝えた場面(第3話)
・フリーレンとヒンメルが日の出を見た際の一連の会話(第4話)

いずれもフリーレンが人間のことについて知るきっかけの場面と言えます。

主にフェルンの発言に対しフリーレンが何かに気付き、その後劇伴のある回想を挟むケースもありますが、基本的にフリーレンが次のアクション(フェルンに返答するなど)を起こすまでは、劇伴が無音になります。

面白いのは、劇伴が無音になっている時間についてで、話が進むに連れて、その無音の時間が短くなっていることがわかります。

話が進むに連れて静寂の時間が短くなっている

これはおそらく、フリーレンが旅の経験を通じて、人間に対する理解が進んでいることを表現していると思われます。


他作品の何かに気付く場面

上記のような、考えを整理する時間を無音にする演出は、同じ斎藤監督作品の『ぼっち・ざ・ろっく!』でも見られます。

と言ってもこの作品は、登場人物のモノローグが多いので、考えを整理する時間が無音である場面は少ないのですが、例えば第3話で喜多ちゃんが、バンドの再加入を悩みながらも決断する場面や、第8話の最後に虹夏ちゃんが、ひとりちゃんに決め台詞を言う場面などが、それに該当します。

バンドの加入を悩みながらも決断する場面
原作:はまじあき 監督:斎藤圭一郎 アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」第3話より
虹夏ちゃんの言葉をじっくり咀嚼するひとりちゃん
原作:はまじあき 監督:斎藤圭一郎 アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」第8話より

どちらの作品も、不器用な登場人物が多いので、監督としては考えを整理する時間を大切に演出したかったのかなと、勝手に想像しています。

また比較として、同じ劇伴作家を起用している『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や、同じMADHOUSEが制作している『宇宙よりも遠い場所』の例を出しますが、両作品とも何かに気付いた瞬間から劇伴が流れる演出が多かったです。

何かに気付いた瞬間から劇伴が流れる演出

監督の好みなのかは分かりませんが、たぶん感情を音楽に乗せるタイプの演出だと、この手法が効果的なのだと思います。

ちなみに具体例として、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、第3話で主人公とルクリアが、愛について会話していた場面、『宇宙よりも遠い場所』は、第1話で報瀬がキマリを南極の旅へ誘う場面が、上記の演出の例になります。


まとめ

本記事では、TVアニメ『葬送のフリーレン』の劇伴について、その音量と始まるポイントのみに観点を絞って、その効果について考察しました。

主な内容としては、以下の通りです。

・第1~4話の劇伴は、フィルム・スコアリングという手法を用いている。
・感情ではなく起きている場面に音楽をつけている。
・登場人物が考えを整理する時間は、劇伴を無音にしている。


長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。


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