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悪意のない善意。

娘が小学校入学して、私のうつ病も寛解に向かっていた。
薬が手放せない体になってしまったけれど
寝ることができなかったり、常に不安を抱えていた頃とは打って変わって
とても体が軽くなって気分が良かった。

うつ病になってから、深く物事を考えすぎない様にした。

【なんでも完璧にこなさないといけない】っていつも思っていたのだけど
それも【たまには雑になってもいいじゃない】に変化した。

社会復帰も前のようにバリバリ働く…とはいかないけれど。
ギリギリ食べていけるくらいにはなった。

離婚後に友人との不貞行為が発覚してから、元夫の動きは全くと言ってもいいほど
何のアクションもなかった。
もちろん、養育費は不払いも相変わらず。

娘は家の近所の小学校には、1学期中に通えなくなってしまった。
担任からの差別・いじめがあったからだ。
小児科に受診すると、学校での経緯・私からにヒアリングで【小児鬱】と診断が出された。
親子揃って、鬱病かよ!
…なってしまったもんは、しょうがない。

しばらく学校は休みにして、社会の場に復帰できる訓練などで
忙しい時期を過ごしていたから、気がつかなったのかも知れない。

その年の9月に、比較的新しい小学校に転校が決まった。
その学校は、敷地内に教育委員会の相談室があって
いつでも困った時に相談できるという、ありがたい場所だった。

新しい小学校に転校後は、今までの明るい性格を取り戻して
楽しく通ってくれていた。
学校は隣町になるので、行きは私が会社に行きながら送っていって
帰りは娘が電車・バスを使って帰ってくる。
そんな生活に慣れ始めた時、娘が私が会社から帰宅すると

「毎日ね、お父さんっていう人が校門で待ってるの。」

その言葉に、心臓が大きく鼓動を打った。

「なんかね、お母さんと暮らしているんじゃ、好きな物も食べられないし買って貰えないから欲しい物があったら買ってくれるって。」

自分の鼓動が大きくて煩い。
娘の声がものすごく遠くに聞こえる。
息がうまく吸えない。

「でも、お母さんにまっすぐ帰ってきなさいって言われてるからって言ってるんだけど。毎日、いるんだよ。行かないって言ってるのに。なんか嫌なんだよ。どうすればいいの?」

娘から聞かされた言葉に、息ができなくなって
その場でうずくまった。
頭が、心臓が痛い。耳鳴りもしてきて周りの音が聞こえない。
…しっかりしろ!痛みを堪えて娘に向き直って話をしないと!

何とか、自分の意識を取り戻して深く深呼吸した。
母親の様子がおかしい事に焦っていた娘に声をかける。

「ごめん、大丈夫。…それで、その『お父さん』はいつから来てるの?」

汗が止まらない。痛みを必死に堪えてるから体も震えてる。
それでも。話を聞かないと。
放置しておくには、かなり危険性が高すぎる。

「ジャンバー着るようになってから」

その年の秋は冷え込みが早かった。
朝夕の気温差が激しくなった頃。
ちょうど11月中旬ごろに、元夫は娘の前に姿を現した。

何のために?

「…その『お父さん』は一人で来ているの?」

私の問いかけに娘は首を横に振った。

「ううん。女の人と一緒。」

義母か?

「おばあちゃんくらいの人?」

その問いかけにも首を横に振る。

「ううん。違う。」

妹かな…。
兄妹で娘の連れ去りを計画しているんだろうか。
娘の学校は、目の前がマンション街になっていて、人目がかなりある。
無理やり連れていけば、大騒ぎになることがわかっているから、
慎重に距離を詰めているんだろう。

前の小学校にも、転校した小学校にも夫についての警告は出している。
学校前で、待ち伏せしていたら流石に先生も気が付く。

「校門前って言ってたけど…先生がいるでしょ?」
「私が学校から帰ってくる時間は、先生立ってないよ。旗振りおじさんだけ。」

…なるほど。
確かに旗振りのボランティアの方と先生は大きく格好が違う。
警戒心が薄れて大胆な行動に出ているんだろうな。

「わかった。明日はお母さんが学校まで迎えに行くよ。その後スタバでも行こうか」
「え!やった!嬉しい!ココアにふわふわ乗っけたやつ飲みたい!」
「うん、スコーンも頼もうか」
私の誘いに、大喜びで自室にもどる娘を見送りながら
姉に連絡を取った。

次の日
娘を迎えに行くために、5時間目の開始時刻に学校について
学年主任と話をした。

「以前お話しした元夫が、娘のことを毎日待ち伏せしているらしいんです。」

学年主任はすぐに旗振りのボランティアさんに確認を取ってくれた。
もちろん。私たちの事情はボランティアさんにも共有されていた。
しかし

「ああ。あの方。私も話を聞いていたので最初声かけたんですよ。そうしたら親戚でお母さんにも話をしているから大丈夫だって言っていたので…。違ったんですか?」

一緒に来ているであろう、妹にとっては娘は親戚にあたるので間違ってはいない。
ボランティアさんには【父親】とか【お父さん】という単語を使っていなかったので、警戒しなかったと言われた。

私はこれからどうしようかと対策を考えていた時、ボランティアさんが口を開いた。

「父親なんでしょ?会わせてあげれば良いじゃない。そんな離婚したからって過剰に反応しすぎなんですよ。」

無責任な言葉に私が、不快な態度を取ったのを先生が気がついて
ボランティアさんの言葉を訂正させようとしたが、私の方が早かった。

「あの、離婚に至る経緯や離婚した後の事情も知らないで、っていうか聞いてるんですよね?どれだけ危険なのかお話ししてますよね?なのになんでそんな無責任な言葉が言えるんですか?」

「いや、でも父親でしょ?そんな考えすぎなんですって。ただ単純に会いたくて来ているだけかも知れないじゃないですか。」

「母親である私の目を盗んでですか?その行動自体がおかしいんですよ!」

ボランティアさんを先生が静止した。「後でちょっとお話しさせて頂きますので控室に戻って頂いて大丈夫ですよ。」と言われ、気に食わないと言った表情のままビランティアさんはその場を後にした。

これから書く事は関わる方全員にお願いしたいというか…。
離婚や虐待など、家族や元配偶者とのトラブルがあって『関わりたくない』って
言っている場合は、その話をキチンと聞いてほしい。

その対象になる人を見て『なんだ良い人じゃん』とか『聞いていたのとは違うな』って思ったとしても。

何故なら、大体モラハラや虐待している人って外面が良いんです。
周りには【良い人アピール】が完璧で擬態能力にも長けています。
聞いていた事を覆すほどの力がある。

【悪意のない善意】で仲介してあげようなんて、余計なお世話。
こっちが対策していた事に対して、行動がエスカレートして
本当に危険なことになるから。

これが、ご年配の方だと謙虚で。
凝り固まった考えを覆すのが、マジで大変でした。

話を戻って、娘の授業とホームルームが終わると昇降口に走ってきた。
「お母さん!」
「おかえり〜お疲れ様。じゃ行こうか」
二人で並んで、校門を通過すると見慣れた男が立っていた。
元夫だ。
私の姿を見るなり、険しい顔になっていた。
そのまま通過しようとしたら、娘の腕を掴んで
「何で、コイツに話したんだよ。内緒だって言ったじゃないか!」
あまりの剣幕に娘は恐怖の表情を浮かべる。
私は元夫の腕を娘から離して、娘を自分の後ろへ避難させた。

うつ病になって、私にも心境の変化が起こっていた。
今までは、何も言えずただ黙って自分の考えを我慢していた。
それが、一番物事を大きくしない最善な方法だと思っていたから。
もうやられっぱなしだった私ではない。
「…養育費も支払わないで、何をしに来ているんですか?」
「面会するのに養育費の支払いは関係ないだろ?」
「関係ないですが、学校の前で待ち伏せとは穏やかじゃないですね。面会したいなら、まずは【親権者である私に連絡を取る】それが調停で決めた事でしたよね。お忘れでしたか?」
私の言葉に、罰が悪そうに黙っている。
そばにあった元夫の車から「ねえ、どうしたの?」と女の声が聞こえた。
助手席のドアが空いて、すらっとした女性が出てきた。

誰?

私も娘も見た事ない女性の登場にただ驚きを隠せなかった。

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