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1話:クソでクズな男に騙された

『コンカイ キチョウデキル コウモクハ ゴザイマセン』

ATMから出てきた通帳を確認。何も記載はない。
「マジかよ!あの男・・・・!」
思わず、ATMの前で声に出てしまった。

記帳していたのは、私の通帳ではなく。
娘の養育費専用口座だ。
調停の時に必要になるって言われて
わざわざ作ったっていうのに・・・・!

この通帳に入っているのは1,000円。
私が16年前、養育費の為だけに
口座作成に入金したもの。
そう、つまり。
この通帳は16年間。
1000円だけを大事に
保管しているだけ。
信じられないと思うだろうが
紛れもない事実だ。

今から遡ること、19年前。
母の介護をしながら、細々と
バイトをして生計を支えていた。
私はバイト先の社員に恋心を抱く。

そうそれが、のちに結婚して離婚
する事になったクソな元夫。
その時はね、仕事ができて
頼りになる人だったんですよ。
誰よりも、動いて企画運営をして
月に50万を稼いでいるエリートだった。

なのにアニメが好きっていう
ギャップになぜだか惹かれちゃったんだ。
その当時は。

周りには、元夫狙いが結構いたんだけど
話が一番合ったのが、私だったからか
すぐに意気投合。
付き合い出すまで、そんなに時間は掛からなかった。

交際して1年で、結婚の話が出て
入籍したんだけれど・・・・。
元夫は、入籍1週間でなんの相談なく
仕事辞めてきました。
理由?聞いた答えはこうだった。
「いや〜だって戸建でしょ?資産あるんだったら俺もう働かなくて良くない?」
いやいやいや!アンタを養うための資産じゃねぇ!
これは父が遺したものだから!
私はすぐに実家近くのアパートを借りた。戸建てにいるというだけで甘えて仕事しなくなるのは勘弁だったし、その家は父が母に遺したものだ。
資産扱いされては、たまらない。
とりあえず仕事辞めたことは、私が義家族に連絡。
その後、仕事をしていないことを母親に言われてコンビニでバイトを始めていた。
しょうもない・・・。

その時は義家族も、私の味方を
してくれたから良かったのだけど。
義家族も、なかなかの強キャラ揃いで
特に癖があるのは、義母。
この義母も離婚に何枚も噛んでる。
人生で、二番目に嫌いな人物。

結婚の挨拶に元夫の実家へ行った時
夕飯を一緒に食べようと言われた。

その時に出てきたのは
きゅうりの千切り(塩揉み無し)に
ツナ缶を上に載せただけのおかず。

「私、料理苦手でね〜」
笑っていう義母に、正直ドン引きした。
「カレー作ってもシャバシャバでさぁ
ご飯に染み込んでいくんだよ」
と、笑う夫。

え、えええ?
人様に出すおかずが、コレ?
あり得ないでしょう!

私の常識では、作れないならば
ケータリングを利用して・・・。
弁当でも良いじゃない?そうやって
もてなすのが普通だと思った。

その光景に、若干というか
かなり戸惑っていると
白いご飯の上に、ツナきゅうりを載せられ「召し上がれ!」と満面の笑みを向けてくる義母。
受け取って一口。

「どう?結構イケるでしょ!」
醤油の味しか、しませんがな。
使ってらっしゃるのが、キッコーマンなのがしっかり分かった。
顔引き攣らせながら「そうですね」って
答えた私は、今考えたら偉いと思うよ!

あり得ない食事の後に起きたが
いきなりの身内批判。
義母はお茶を啜りながら

「そういえば、貴方のお母さんって風変わりだって昔から有名だったのよね」

いきなり何言い始めたんだ?

「この近所でね、貴方のお母さんと昔一緒に働いてた人がいて、まぁ変わった考えの人だから娘も変わり者なんじゃない?って心配されちゃってねぇ」

え?本人にまだ会った事無いのに
いきなり他人の親批判する?

「…はぁ…。そうなんですか」

「何でも団地の紹介してあげたけど、笑ってお礼言うだけで何もしないから何でかと思ったら土地持ちだったのねぇ?団地暮らしを馬鹿にしてるんだって。いい評判聞かなかったのよねー。」

いや、そういうのって・・・・
余計なお節介って言われるヤツじゃね?
なんで、そんなお節介に一々本気で相手しなきゃならないのよ。
おかしいだろ。
団地だから馬鹿にしてとか。
自分を卑下しすぎでしょ。
被害者妄想か!
私の周りが冷えていくのを感じた夫は
「つか、人の親の悪口言うなんて失礼だよ。なんでこの席で言うんだよ。」
と忠告してくれて
その場は「冗談よぉ!」って笑っていたけど
私はこの一件で、ベラベラとマシンガンの様に話す義母が大嫌いになった。

元夫が仕事を辞めて、コンビニバイトになった後。私は正社員に昇格していた。

「俺さぁ、国民保険すげー高いんだよね。お前の扶養に入れてよ」

その時は黙って事務手続きしたけど。
なんで、夫を扶養しなくちゃいけないんだ?なんで、自分で社保に入れるような仕事につかないんだ?
毎日毎日、仕事で疲れて帰ってきて
荒れ果てた自宅を片付けて
私は、お前の家政婦か?

で、夜はなんだ?
お前の性欲を満たすオモチャと勘違いしてるだろ?お前よりも仕事量多くて勤務時間長いコッチの身にもなれよ。
口に出すと喧嘩になるから、毎日、心の中で悪態をつくのが癖になってた。

生活は、苦しくなる一方。
いくら正社員だったとしても、今まで
キャリアを積んできた人と
下積みから、やっと上に上がれた人とでは、収入に天と地ほどの差がある。
介護が必要な母・バイトで楽している夫
この二人を養っていくには、少しでは、あるけれど赤字になっていた。

自分の貯金は、すでにもう無く
残っている生活費の補填方法は
父の遺してくれた生命保険。
切り崩していくしか、方法がなかった。
少しづつでも、湯水の如く沸くわけじゃないから・・・確実に金額は、減っていった。

その生命保険が夫に無断で使われて、なけなしの残金が底ついた事件が起きた。
自宅に帰ると、見たことがないバイクが
庭に止まっていた。
誰か、友人でも招いているのだろうか
そう思っていたのは
玄関扉を開けるまでだった。

「みた?あのバイク。かっこいいだろ!」

「・・・どうしたの、アレ」

「いや、オーナーがさ、バイク便の会社立ち上げるんだって!それで正社員になって俺、明日からあのバイクで配達するんだ」

浮かれている元夫に、

「そう。正社員になるならローン組んだってこと?」

「え?お前の引き出しに入ってた通帳。すげー金入ってんじゃん。あれ使わせてもらったわ。お前の物は、俺と共同資産だもんな!」

その言葉を聞いて、自分の部屋に走り、通帳の入っている引き出しを開けて
父の生命保険の通帳を開いて確認すると500万円引き出されていた。

「今まで、苦労かけたけど明日から頑張るから!」

身体中の血液が沸騰するのを感じた。

だめだ。ここで怒鳴ったりしたら
叫んだりしたら、負けだ。
感情を出すな。絶対出すな。
我慢しろ、今は自分の感情を
・・・押し殺せ!!!!!

「うん。分かった、頑張ってね」

極限まで我慢した怒りは
大粒の涙になって頬を伝った。
元夫は、仕事を決めたことに感激して泣いているんだと感じたようだけど
父の命を、汚された気がして悲しくなったし、怒りって
我慢を通り越すと、涙に変換されるのをこの日。初めて知った。

この結婚は、間違いだったんだと
その一件で完全に気がついたし
目が覚めちゃった。
いつ離婚しようかなって
本気で考え始めた頃
自分の生理が来ていないことに
気がついた。
元々、生理不順で毎月来ない事の方が多かったから、余計に気が付かなかった。

薬局で妊娠検査薬を買って
職場のトイレで、昼休みに調べてみた。
結果は『陽性』
もう、中絶が認められる期間は
目の前に迫っていて
思いがけない妊娠に
動揺が隠せなかった。




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