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2話:妊娠期間は幸せではなく、地獄だった。

普通、妊娠期間って幸せな時間だって言われていますよね。
新しい命を授かって、産まれてくるまでの時間が充実したものになるって言う時じゃないですか。
私には、そんな感情湧かなくて。はっきり言って中絶が一番の選択だと思っていた。今は娘が居てくれて感謝しかないし、私は誰よりも親バカになってしまっているんだけれども。

妊娠が分かったその日の晩、元夫に妊娠した事を報告した。
「あ、できちゃった?やっぱりかー。こないだ使った避妊具さぁ、使用期限切れてたんだよね。大丈夫だと思ったけどダメだったか。いい経験になったな!」
私の体は、実験台ですか?少々ムッとした表情を浮かべていた私に元夫はこう言った。
「で、堕ろせる?まだ大丈夫だろ?」
「・・・法的にも、私の体的にも無理な時期に入ってるんだけど」
「マジかよ。法律関係あんのかよ。お前の体なんか関係ないんだけど、まあ法的に関係があるなら産むしかないんじゃん?」

今なんて言った?私の体は関係ない?
「じゃあ、俺寝るから」
そういってリビングを出ていく夫を
後ろから刺し殺してやりたい衝動を
必死に抑えることしかできなかった。

結果。
中絶を選ぶことはできなくなり、私は出産をする為仕事の調節をしていかなくてはならなくなった。いきなり失ったキャリアの道。到底諦められるものでは無かったので、必死に会社に出産後の復帰について提案した。

しかし、その当時私が勤務していた会社には復職しても同じ勤務地になる可能性が無かった為、私は泣く泣く会社を退職することになってしまった。
自分が企画して大きくしたプロジェクトもあって、身が引き裂かれる痛みがあった事を今でもハッキリ思い出せる。

本来なら産休に入る時期を超えて、引き継ぎをしていた為か体調を崩す事が多くなった。少しでも無理をすれば高熱が出るし、息が出来なくなるほどの胸の痛みが毎日、私を襲った。
仕事をやめてしまった事で生活費は毎月多額の赤字を出すようになった。
元夫は、そんな私に協力することもなく。毎日毎日夜遅く帰ってきては、ゲームを楽しんで。朝になったら会社に行くという生活をしていた。
まるで、子供の事なんか関係ないと体現しているかのように。
少しでも安い食材や固定費の見直し、節約節電に必死になっているのに元夫は関係ない事だしと、毎月ゲームやプラモデル・漫画本を大量に買ってきていた。
そして、自分の仕事道具だからとバイクのカスタムを繰り返して帰って来ていた。
その会計方法は、私のカードを使っていて私の方に請求が上がって来ていた。
退職金は元夫の無駄遣いで、あっという間に消えていき。私の貯金も底をつき始めていた。

そんな態度がバイク便社長に咎められたのだと言った。
「で、俺の家の事にいちいち口出して来んなって喧嘩になってさ。バイク便やめてきたから」
「・・え?どうするの。私、今仕事できないんだよ?子供も生まれるんだし、生活費だって今までと同じじゃ到底やっていけないよ?」
私の言葉に苛立ちを露わにしながら
「しょうがねぇから、俺が給料良いところに就職すれば良いんだろ?文句ばっかり言ってんじゃねぇよ。」
貯金も出産の準備や検診で使ってしまっていて、今後の生活を支えるほどない。
不安だけが、私に大きくのしかかって来て体から震えが止まらなくなった。
お腹に激痛が走り、視界が真っ暗になった。
このまま、死んでしまいたいと。私は意識を手放した。

私はあの日切迫早産を起こし、そのまま帝王切開で娘を産んだ。
娘は早く産まれてしまった事が原因なのか、心臓が止まった状態で取り上げられ、奇跡的に息を吹き返してくれた。
その後、治療の甲斐があり母子ともに退院を迎えることができた。
子供に関して、愛情が生まれるのか不安があったのだけれど、顔を見た後そんな事は杞憂で終わった。
勿論、元夫は一回も病院には来なかった。義家族が出産翌日に押しかけてきて病院関係者と一悶着あったのは、言うまでもないけれど。

娘を出産後、自宅に戻ると雑然とした風景が目に入ってきた。そう、夫は娘を迎える準備はおろか掃除洗濯全て行っていなかった。帝王切開の傷もまだ痛む中、必死にベビーベッドを組み立て散らかった部屋を元通りにして、身体中が軋むような痛みを感じながら、夕飯を作り帰りを待った。

夫が帰ってきたのは11時過ぎ。私と娘が出迎えると、玄関に置いてある置物を見るような目で
「ああ、帰ってたんだ。」
とだけ、返事をした。
「夕飯出来てるけど、先食べる?」

私の問いかけに夫はため息混じりで、スーツを椅子に脱ぎ捨て
「疲れて食べる気しない」
「そう、じゃあ冷蔵庫に入れておく。…ベビーベッド、組み立てお願いしてたんだけど」
私の放った言葉に、近くにあった椅子を蹴り飛ばしながら
「仕事して帰って組み立てする時間あると思うの?次の日の仕事の為に早く休みたいって思うでしょ?」
リビングに設置したベビーベッドを見て
「組み立てられたんだから、別に俺がやる必要無かったじゃん。はい終わり。これからも俺に期待とかしないでね。俺は子供なんて要らなかったんだから。」
夫は服をバサバサと脱ぎ捨て、パジャマに着替えると
「じゃあ俺、寝るわ」と寝室に行ってしまった。

私は夫に何を期待していたのだろう。何かが音を立てて崩れていくのを感じた。
一人、腕の中ですやすや眠っている娘を抱きしめながら、声を殺して泣いた。
もう、無理だ。私はこの人とやっていける自信がない。その日から夫がいる寝室で眠る気になれず、リビングのソファで寝るのが習慣になった。


次の日。

夫の弁当と朝ご飯を作っていると
「リビングで寝たんだ。でも朝ご飯とかすぐ作れて便利だろ?」
無神経な発言にイラッとしながら 【父親の自覚が芽生えていないだけ】と自分を納得させて、無理やり笑顔を作って送り出した。
まだ、そんな考えがあった時点で、少しは元夫に期待している部分が当時はあったのだと思う。

そして、娘が生まれる前から問題になっていた、生活費に関して大きな亀裂が入り私たちは離婚の道を進む事になる。




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