旅についての記憶

小さい頃から、どこかへ行くが好きだった。

スーパーに行けば勝手に親の目を離れ、デパートに行けば迷子センターに呼び出されたらしい。
母が迎えにきても自分が泣いている様子はなく、逆に母の方が長男の失踪に泣いていたようだ。

鉄道でどこかへいくのも好きだった。

小さい頃から祖父にはよく電車に乗せてもらったし、最寄り駅の陸橋ではいつも中央線の電車を眺めていたそうだ。

初めて電車に乗ったのはいつか覚えてないけど、1人で乗った時のことは覚えている。
あれは確か小学校1年生のとき、(引っ越した)最寄駅から西武線の急行電車に乗って、2駅先の1000円カットに髪を切りに行った。

迷うことなくたどりつき、10分と少しで髪を切り、すぐに最寄り駅に戻った。ちょうど駅に着いた頃、息子の身を案じた母が私を追いかけ、床屋さんのある駅に着いていたらしい。

3年生からは祖父母の家の名古屋まで、(何回目かの)引越し先の長野県から1人で行った。

特急列車の車窓を見ながらじゃがりこを食べていたのだけど、その音がうるさくて、少し柄の悪いお兄さんから注意されたことを覚えている。

翌年からは鈍行列車で、4時間かけて行った。
お金がかからないのもあったけど、普通列車の旅の方が、その頃から、単純に好きだった。

特急列車の空間は、急いで何処かへ向かったり、どこか非日常的なものが感じられることが多い。そしてその座席は一つひとつ区切られていて、少し堅苦しさも覚える。
一方の普通列車は、地元の人たちが大勢乗ってきて、車内全体の空間ををみんなで共有している感じ。窓から見た景色も、自分だけがそれを見ているんじゃなくて、みんなで風景を味わっているように感じられるのだ。

9歳の自分にとっても、多分特急列車の風景は味気なく感じられたのだろう。
それ以降、特に理由がない時は普通列車を使って旅行することが多い。


鉄道以外を使っての旅行も、もちろん大好きだ。


多くの人が知っていると思うけど、大学生の途中から自転車のロードレースを走っていた。

直接のきっかけは、高校時代に自転車で通学をして、それでちょっと遠回りをするようになったことだけど、自転車自体は5歳の頃から好きだった。


初めて自転車に乗ったのは、多分4歳か5歳のとき。
近所のどこかの家からいただいた、補助輪付きのミニーちゃんのペイントがあった自転車。

その頃から、家の近くの公園を駆け回り、裸足で自転車に乗って近所を爆走するなどしていた記憶もある。

小学生になってから、それよりもちょっと大きな、補助輪のない自転車を買ってもらってから少しして、家の近くを走る西武線の線路をたどって、4駅先まで行ってみたことがあった。

初めて見る商店街、初めてみるマンション、初めてみる「自転車通行可」の補足のない一方通行標識、最寄り駅の交番じゃないお巡りさん。

交通量の多くない細い道で、後から見たら自転車で通ってもよかったらしいのだけど、自分のまち以外知らない6歳の少年にとっては、ちょっとハードルが高かった。

あれこれ街を巡りながら、無事家にたどり着いた。
帰りにちょうど家の最寄りえきを通る頃、友達の母親がいたので、「〇〇まで行ってきた〜!!」と意気揚々と報告したら、後日母親に「あんなとこまで行ったの!」と注意されたことを覚えている。

母親に言えば注意されるのはわかっていたけど、とにかく誰かに報告したくて、つい口を滑らせてしまった。6歳の自分はまだそこまで頭が回らなかった。


歩いてどこかへいくのも好きだ。


初めて1人で出歩いたのは4歳の頃。

幼稚園が終わって保護者の帰りを待っているとき、いつもなら園庭でケイドロをしたり、砂遊びをしたりするのだけど、その日は退屈だった。

よし、誰にもバレないよういこっそり門の外へ出てみよう。

他の迎えにきた保護者や、先生の目を盗みながら、4歳の那央也少年は見事に門の外へ脱出することに成功した。

といっても、今まで一人で外を歩いたことなんてないのだから、もちろん不安は不安だった。

けどそれに負けないよう、町内の道路1区画分を一歩一歩、4歳児の目線から歩いた光景は今でも覚えている。

5分ほどして園に戻ってきてからも誰にもそのことに気づかれず、ただの町の1区画に何も面白いものなどなかったことに、なーんだこんなことだったのか、とその日1日は少し不満げだったと思う。


今でもどこか旅行先へ出かけた時は、とにかく暇があれば歩く。

旅行中は大体1日に10kmくらいは歩いてる。

山を登ったり(正確には駆け上ったり)、海沿いの岩場を歩いてみたり(正確にはよじ登ったり)、知らない街の神社やお寺にいってみたり、次の列車まで時間がなければ猛ダッシュしたり。

こんな感じで旅をしていると、5日に1回くらいは疲れ果てて1日中寝てしまう。

1週間以上旅をする時は、間に1日は休息日としてお昼頃まで寝ていたりする。

せっかくの旅行なのに無駄なことしてるなあ、なんて思う時もあるけど、旅先でわざわざそんなぐーたらをするのも、最高に幸せだったりする。そんな幸せに浸りながら、ゲストハウスの2段ベットで、何回目かの二度寝に勤しむのである。




次回は旅で巡った色々について。お楽しみに。