とある看護師3年目のキャリアの悩み
◎この記事は、宣伝会議編集・ライター講座の課題として、身近な人にインタビューをして書いたものです◎
県立大学の看護学科を卒業し、看護師として働き始めて3年目の彼女。今一番悩んでいることは、4年目からのキャリアだという。
ニュースを見ると、コロナ対応を行う医療機関では大量離職や看護師不足が報道されている。小児の集中治療室(以下、PICU)で働く彼女は、どんなキャリアを考えているのだろうか。
「昔から、結婚するまでは仕事第一、結婚したら家庭第一って決めているの。だから、小児科の中でも一番難しいところで働いてキャリアを積んできた。今年入籍して、彼の職場の近くの病院に移ろうと思ってるけど、やっぱり本当に3年で転職していいのか迷っている」
看護師の間では、一般的に同じ病院で3年間働いたら次のところに移ってもいい、という雰囲気があるそうだ。しかし、彼女が4年目の転職に悩むのは、“一人前”になった感覚がないからだという。
他の病棟だったら3年目でリーダーになれるが、PICUでリーダーになれるのは7,8年目。外傷も脳も心臓も消化器も受け持つからこそ、勉強も果てしない。その分ベテランの人が多いから、まだ甘えているところがあるそうだ。
PICUでは、救急車で運ばれてくる子供や、手術直後の不安定な状態のときの子供の看護をする。緊急だからこそ責任が重く、PICUで働く看護師にはアセスメント能力が必要だ。
「『心拍が速いだけでも、脱水症状になっているかどこかが痛いのかな』とか、『体温を2か所測って、ここだけ下がったのは何でだろう』とか。一般病棟だと状態が安定している人が多いからルーティンで測ることが多いけど、集中治療室だと測ったあとに知識と経験で考えないといけない」
それには果てしない勉強と長い経験が求められる。新型コロナの重症患者の治療にも必要とされている人工心肺装置ECMO(エクモ)をまわす経験もまだ積めていないという。
そもそも、なぜ大変な職場を選んだのか。PICUには大学時代から入りたいと思っていて、ボランティアまでしていたそうだ。
「赤ちゃんが好きだからだよ。…でも、ちょっと大人が嫌だからというのもあるかも。誰かを救うために看護師を目指したけど、大人だと『たばこ吸ってたからでしょ』、『健康に気を付けず、運動もしてなかったからでしょ』って雑念が入っちゃう。子供は本人が何も悪くないし、責任をもって看護をしたいと思う。特に責任の重い病棟にいるのは、ちゃんと看れる看護師になりたいというちょっとのプライドかな」
誰かを救いたいという想いを素直に持ち続けることは、想像よりも難しいのかもしれない。4年間大学に通って看護師の国家資格を取ったプライドが、経験を積んでキャリアを築きたいという想いを支えているようだ。
同じ病棟にいる人は、尊敬できる人ばかり。それでも、割に合わないから、もっと楽に稼げるところに転職した人も多い。
「看護師は替えが効くから、私じゃなきゃいけない仕事はないよ」
そう話した彼女だったが、本当にそうだろうか。看護師のキャリアを築くには、専門知識と経験が必要。たとえ病院、クリニック、保育園、介護施設、いろいろなところで働けるといっても、積んできた経験は全く違う。
とある病棟の看護師のキャリアの話だが、コロナ病棟の看護師の話ともつながるのではないだろうか。看護師資格を持っている人も、だれを救いたいかを選ぶ権利がある。少しのプライドと助けたいという気持ち――看護師が働く一人ひとりの理由を知るところから、看護師不足の議論を始めなければいけない。
「私の夢は2つあるの。一つが看護師になることで、もう一つがお母さんみたいなお母さんになること」
看護師の経験を積んで一人前になること、そしてお母さんになるというもう一つの夢を叶えることも、心から応援したい。
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