事務分掌から見えるシティプロモーションの業務領域

 「シティプロモーションで定住人口は増えるのか」という問いかけを論議の振り出しにしてみましたが、それは、シティプロモーション部門の業務領域、組織の中での役割を最初に明確にすることが大切だと思っているからにほかなりません。

 民間企業含めて、多くの組織で似たようなことがあります。つまり、新規部門ができると、半ば冷ややかな視線を送りながら「お手並み拝見」と言ってみたり、「結局何をするの?」と他人事のように言ってみたりするわけです。

 さすがに行政組織では、そこまで程度の低いことはないと信じますし、何よりも「事務分掌」がありますので、無責任な市民サービスにはならない前提ですが、この「事務分掌」が微妙に曲者です。

 私もシティプロモーション部門をマネージしていますので、ほかの自治体の同じような部門が何をしているのかとても気になります。そこで、いくつかの自治体のシティプロモーション部門の事務分掌を調べてみました。

 ある市のシティプロモーション部門の事務分掌はこんな感じです。

(1) 報道機関への情報提供及び連絡調整に関すること。

(2) ホームページ等の運営に関すること。

(3) コールセンターに関すること。

(4) 区のイメージ向上に係る各課の連携及び調整並びに情報発信に関すること。

 (4)以外はミッションが明確でシンプルな構造です。「イメージ向上」が何を意味しているか、ややあいまいながらも、基本的に広報・広聴業務に集中しています。

 他市ではこんな事務分掌です。

(1) 広報紙等の編集及び発行に関すること。

(2) シティセールスに関すること。

(3) ホームページ等による広報に関すること。

(4) 報道機関との連絡等に関すること。

 (2)の「シティセールスに関すること」が微妙です。実はこれは私の働く四街道市でも同じ記述があります。微妙である理由は前述したように、シティセールス(シティプロモーション)という言葉が、コミュニケーション業務を指しているのか、街の売りのネタづくりも含んでいるのかが明確でないということです。この事務分掌の記述そのものからは、真意は読み取れません。

 次の事務分掌は、かなり重いミッションが課されています。

(1) シティセールスに係る企画及び総合調整に関すること。

(2) 重要イベント等に係る総合調整及び情報発信の統括に関すること。

(3) 国際観光都市戦略に係る総合調整に関すること。

(4) PRキャラクター利活用の促進に関すること。

 「シティセールス」という言葉そのものがあいまいであるにも関わらず、それに「総合調整」までもが上乗せされています。つまり、シティセールスに関することならば、他部門と調整せよというミッションです。加えて、イベント、国際観光都市戦略についても総合調整するということになっています。

 できるできないでいうならば、もちろん可能な業務範疇です。ですが、実際にできるかどうかは別の話です。なぜなら、行政組織は民間企業に比べてかなり硬直化した縦割り組織だからです。

 そう、「やるべきこと」と、現在の組織内で「できること」は違うのです。

 もちろん、紹介した事務分掌が実現されていないとはいっていませんが、行政組織にとってかなり困難なミッションが含まれていることは容易に想像できます。


 私も多くの企業を綱渡りしてきたのでわかりますが、「マーケティングを強化したい」「ブランディングしたい」という企業は、かなりの確率で信用できません。逆説的なことをいっているようですが、実際のところそうなのです。

 「マーケティングを強化したい」「ブランディングしたい」と経営者がいっている場合、それは、マーケティング部を作って、マーケティングマネージャーを採用すれば会社が変わるはず、ブランドマネジメント担当を採用すればブランディングが進むはずと大きな勘違いをしている場合がほとんどです。しかも、それが上手く運ばない場合、今度はその部門に責任を押し付けるという展開が目に見えています。

 マーケティングを強化する、ブランディングを強化するということは、マネジメント全体を変える、ガバナンスを変えるということにほかならないわけです。つまり日々の業務フロー、従業員全員のマインドを一から見直さなければならない。ここがわかっていないリーダーがあまりにも多すぎるのです。組織全体が変わる覚悟、リーダー自身が変わる覚悟がなければ、マーケティングやブランディングは機能しないのです。

 話を戻すと、各自治体でのシティプロモーションの導入にも似たような空気が漂っているように思います。もちろん、組織体制が自治体によってそれぞれであることは理解できます。また、人材、マンパワー、予算もそれぞれなので一概に比較はできません。しかしながら、シティプロモーション部門を作りさえすれば市が注目されるようになる、交流人口が突然増える、あわよくば転入人口も増えると考えるのは、あまりにも稚拙で楽観的すぎます。

 市の魅力を発掘、創造し、それをきちんと足元の市民に理解してもらい、市外の人々にも伝達する努力をする。そのためには、組織一丸となったマネジメントの変革がなければシティプロモーションなど「絵に描いた餅」なのです。

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