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電車

電車が好きだ。といっても列車の車体とか、駅の名前とか、そういったものに詳しいわけではない。電車に乗っているのが好きだ。特別な電車ではなく、ふつうの、通勤に使う電車だ。

ときどき、なんの用事もないのだが、電車に乗って、どこかの駅で降りて、すぐにUターンして家に帰ってくる。というのはちょっともったいない気がするので、降りた駅の近くで、本屋だったり、服屋だったりをちらっと覗いて、それから戻ってくる、というような感じのことが多い。主たる目的はお店に行くことではなく、電車に乗ることだ。

電車に乗ることの何が楽しいって、あのなんだか大きな箱が、いくつも繋がって、人を運んで毎日あちこちを行ったり来たりしている、というのが面白い。車は1個の箱にエンジンがついていて、それぞれが別々の動力で道を走っているが、電車は動力のある箱だけが動いて、後続の自分では動かない箱を引っ張っている。

レールがあるから、後続の箱は見事に、ピッタリと先頭の箱の後を追いかけてくる。都会の列車なら、10両編成とかいうふうに、10個以上の箱がずらずらっと先頭の箱を追いかけている。それでどの箱もコースアウトせずにちゃんと駅にたどり着く。そういうふうに設計されているからなのだが、やはり、動く力をもった車両のあとの、ずっと後ろの車両にまで力が伝わっている、ということが、よく考えると不思議でおもしろい。

車だと、それぞれの車はいちおう白線のなかを一列で進んでいるが、その白線のなかで、微妙に通るポイントがずれている。自分で車を運転していて、なるべくピシッと一直線になろうとしているが、前の車と同じポイントを通るのはむつかしいし、そもそも前の車がずれていたら意味がない。

その点、電車の通っていくのを外から眺めていると、どの車両もピッタリとレールに沿って、一糸乱れず流れていく感じが、とても気持ちいい。電車の走るい様子を撮影している人は結構いて、趣味のいちジャンルをなしているが、走る車の様子を写真に撮ることを趣味としている人は、それよりずっと少ないかと思う。

勝手に思うが、やはり一糸乱れず進んでいく感じが気持ちいいから、あんなに列車の写真を撮る人がいるんじゃないかとおもう。電車のなかの様子にしてもそうで、電車のシートに座る人たちは、外見も、行くところもばらばらなのに、ピッタリと横に並んで座っているかんじが、規則だっておもしろいと思っている。なんとなく、押し寿司のようだと思う。ピッタリと収まっている。整っている。

電車に乗っていると、自分もその、整えられるものの一部となっていく感じがある。ピッタリと一列に流れていく箱のなかで、ピッタリと並んで人間が運ばれている、そのなかに自分がいる。

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