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山崎洋一郎には心底がっかりした。--- 大月英明「コーネリアス炎上事件とは何だったのか」Kindle版

筆者がどのような方なのかは存じ上げないのですが、おそらくコーネリアスのファンで、一連の騒動に強い問題意識を感じて書き上げたのだろうと思います。つとめて冷静に事実をならべていても、その熱意は伝わってきます。何かを世に問いたいと思った時にKindleで出版するというのは良い手段だなと思いました。宇野常寛の「遅いインターネット」に書かれていたのはこういうことかなとも感じます(あの本にはまるで共感できませんでしたが…)。

さてこの本、あふれる熱意をぐっと抑えて、この騒動で起こった出来事を細かく拾い上げて「何が本当で、何がどう誤解(曲解?)されているのか」を分析しています。僕自身、ROJもQJも全文読んでいて、QJに至っては「いい話!」とか思っていたくらいなので、驚くような事実が書かれているわけではありませんでした。

しかし、しかしです。
いやあ、物事を整理してまとめるというのは大事です。まず冒頭にTOKYO2020オリンピック開会までのすったもんだがまとめられているのですが、これが圧巻。この第1章だけで十分に今の僕たちを取り巻く社会が大嫌いになれます。はああ、こんなにありましたか、不祥事、辞任劇、問題発言、癒着、炎上案件…。ここまで来ると、五輪招致は癌治療におけるPET検査みたいなもんですな。日本社会の病巣が全部露呈したと感じますわ。ある意味これだけでもやった甲斐があったんじゃないすかねぇ、五輪。

で、そのダメ押しみたいな感じで小山田騒動が起きちゃうわけですが…。
これは、僕にはそう読めたということなんですが、筆者の問題意識はまずROJ、QJから叩き目的としか思えない切り取り方をして掲載を続けた件の個人ブログ、それを引用したツイート、そのツイートをろくな裏取りもせずに記事として掲載した新聞、その記事にさらに尾ひれを付けて吹聴するマスコミや文化人に向けられているようです。問題点はもうそこに書かれている通りだと思います。

ただもう、僕はそこについては半ばあきらめてしまいました。やっぱり人はゴシップやスキャンダルが大好きで、安全な場所からしくじった人間を叩けばスッキリするし、まして自分の発言が国家の重大な判断に100万分の1ミリでも影響を与えたという実感があれば、そりゃ万能感たまんないわけです。それが剥き出しになってしまうのがネット、或いはSNSという場所なんですが、そんな場所で炎上したからって、それが世間の総意だって思われるのは癪だし気持ち悪くないですか?最近Twitterから離れたのもそこに理由があります。この本でもAIを使ってツイートの分析をやってるわけですが、そのパートにはあまり気を引かれなかったです。だってそれはTwitter民の話だから。僕はネット、特にSNSにおいては性悪説を取るタイプなんです。

むしろあらためてこの本を読んでカチンと来たのはRO社、太田出版、山崎洋一郎ら、記事の送り手です。

この本でこれだけ細かく記事を拾っている以上、おそらく上記の三者は小山田圭吾騒動についてこの本に掲載されている以上のコメントは出していないのでしょう。本書の筆者の姿勢に対してそれくらいの信用は置いていいと思っています。だとすれば、山崎さん、やっぱりあんたにゃ心底がっかりだよ。…いや、別にあんたに何を期待していたわけでもないけれど。

まず、山崎洋一郎の謝罪文ですが、
・自分がインタビュアーであり、編集長も担当していたこと。
・いじめ問題に対して配慮を欠いた記事を掲載してしまったこと。
については率直に過ちと認めて詫びている。
詫びる相手は、
・いじめの被害者とその家族
・記事を目にして深いな思いをした方々
となっています。

いいの?これで!?

まず、これだけの問題を引き起こした記事のライターとして、自分が書いた記事の内容が世間に誤ったもしくは歪んだ形で伝わっていることをどう思っているのでしょうか。いや、ひょっとしたら自分が伝えようとした通りに世間に届いていると思っているのかもしれませんね。そうでなきゃこんな文章で、しかも自分のブログ記事で謝罪して終わりなんてありえないと思うんですけど。QJの記事を書いた村上清のほうは、少なくとも自分が何を書きたかったのか、そしてそれが世間にどのように誤解されているのかをそれなりに言葉を尽くした上で謝罪を述べているじゃないですか。ましてや山崎洋一郎の記事はインタビュー後の本人の校閲無しで世に出ています。そういった意味では過失割合は山崎のほうがはるかに大きいと感じるのは僕だけなんですかねえ。

確かに記事が出てから小山田圭吾は特に訂正の要求を入れていなかったようですが、そこには当然業界内での利害関係もあってのことでしょう。しかしライターという職業にあって、自分の著作物を歪んだ形で切り張りされ、それをあたかも事実のように流布されていることを放置できるものなのでしょうか。その点は山崎洋一郎と村上清の両方に強く問いただしたいし、放置していた以上はこのブログ記事はライターが意図したとおりの内容だと認めていたと言われても仕方がないですよ。

たしかに五輪を機に急激に問題が大きくなってしまっただけで、これほどの騒動になるとは予想できなかった、それはわかります。でも、それならば、ライターとして、インタビュアーとして、まず小山田圭吾に謝るのが筋じゃないかと思います。でも二人の謝罪文には小山田に対する謝罪の言葉も、誤解だと擁護する言葉もありません。まあ、あの時の世の中の空気がそれを書かせなかったんだと思いますが、インタビュアーとして取材相手を守ることもできないのではインタビュアー失格でしょう。注目が集まったあの瞬間こそ世間の誤解を解く絶好のチャンスでもあったのに。だいたい山崎!おまえ逮捕された後で渋谷陽一に守ってもらったって自分で書いてたじゃねーか!その気概がねえのかお前には!

…てな怒りがまたふつふつと湧き上がってきてしまうような力作本だったのでついついご紹介したくなった次第です。Kindle Unlimited なら追加料金不要!過ぎた五輪に怒りを燃やすも良し!騒動を利用したリベラルに激高するも良し!コーネリアスを聞きながら涙するならそれもまた良し!の一冊であります。

正式なタイトルは
「コーネリアス炎上事件とは何だったのか:メディアリテラシーが試されるとき」

ある意味今年を振り返るには絶好の本かも。

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