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心がぽっと暖かく…なりません! --- 映画「星の子」レビュー ネタバレあり

以前書いた記事で、「このあと公開される芦田愛菜の「星の子」を始め、私に似たような印象を持たせる映画はたくさんありますが、私自身そのタイプの映画を特に映画館でわざわざ観ることはめったにありません。」と書いてしまったのですが、これはちょっと失礼な書き方だったのではないかと思い、反省の意味も込めて観てまいりました、「星の子」。

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例によってまずは公式サイトのあらすじを引用しますが…

大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治した“あやしい宗教”を深く信じていた。中学3年になったちひろは、一目惚れした新任のイケメン先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、彼女の心を大きく揺さぶる事件が起きるー。

15歳のちひろは、揺らぎ始める。
家族とわたし。わたしと未来。
広大な星空の下で、
少女の信じる力が試される―。

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これ、配給会社が「新興宗教問題色」を薄めようといろいろ苦心したんだろうと思います。が、ちょっとまった、そんなふわふわした話じゃないでしょうこの作品は。サイトの冒頭で再生される芦田さんのコメント動画も同様で、この映画みて「心がぽっと暖かくなる」なんてことにはならないでしょうよ、普通。

私がちょっとここで声を荒げてしまう理由は、映画自体がとても良かったからなんです。本当にすごく良かったのですが、それは公式サイトが持っていこうとするベクトルとは方向がまったく別!別!別です!

確かにこの映画は15歳の少女が困難を乗り越えていく物語で、たまたまこの作品ではその困難が「新興宗教信者の家族が直面する社会とのギャップ」なのだとは言えるでしょう。主人公のちひろが頑張る姿は美しいし、良い子だとも思います。
ですが、頑張った末の彼女の選択はやっぱり自分を愛してくれる両親と、両親が信じる信仰なわけで、私は観ていて非常に苦々しく感じました。もちろん、それがちひろの選択であって、それが3人にとっての幸せなんだと納得していることもわかります。
それでも暮らし向きはどんどん悪くなっているし、これから良い方向に向かう兆しも見えません。ちひろは何となくそれを感じ取っているけれども、両親はそんなことを微塵も感じていない。そのちひろの置かれている状況を描くラストシーンは見事です。

深夜、星を見るために屋外へ繰り出した3人、流れ星を探します。不安を隠しきれないちひろ。父親は流れ星を見るまで帰らないと言い出します。ここからのやりとりはかなりの長回しで演じられるのですが、全ては説明しません。ここはぜひ映画館で確かめてください。両親とちひろの関係性が流れ星を巡って象徴的に表現されてます(ここの3人の演技はすごい!)。
そしてこの場面で、ちひろをなんとかしてあげたいという気持ちを持ち続けている私たち観客は完全に突き放されてしまうのです。
この人たちを「救おう」とか思う気持ちは間違っているのだと。大きなお世話なのだと。

この映画の中で、ちひろを傷つけるのは必ず「外の側」の人間です。どんなに貧しくても、逆に信仰をともにする人たちからは絶対に傷つけられない。だからどんどん頑なになっていく。たぶんちひろも、ちひろの両親も、この先何も変わらない。2時間の映画の中でなにかのドラマがあって、それをきっかけに信仰から抜け出せるとかそんな簡単な話ではないのです。この突き放しっぷりが本作の素晴らしいところです。

なのにこの映画のコピー。「少女の信じる力が試される」は無いでしょう。

信じるって、何を?信仰?両親?両親を信じきれたからめでたしめでたしの話ではないでしょう。断じてそんな映画ではないし、そんな宣伝では芦田愛菜の演技は報われない。この作品を世に出すのであれば、キチンと作品のテーマを打ち出すべきです。芦田愛菜に難しい芝居をさせたい、でも芦田愛菜の映画として売るには社会的テーマはなるべく正面に出さず、15歳の少女の葛藤を前面に押し出したい、そんなオトナの思惑が透けて見えるのがとても不快です。

芦田さんはすごく自分の心に素直な演技をされているように見えました。おそらく周囲の思惑とはことなり、難しい役をあえて作りすぎることなく等身大で演じたのが功を奏しているのでしょう。ちひろの素直さ、賢さが際立つほど、観ているこっちは余計に苦しくなる。そこをよくわかっているのだと思います。流石としか言いようがありません。

問題があるとすれば私自身が「博士ちゃん」を見ているせいで素の芦田さんを知りすぎてしまっていることかもしれません。最初のうちは物語に入りきれず「いやいや、芦田さん授業中落書きとか絶対しないから!」とか頭の中で突っ込みを入れたがる自分を抑えるのが大変でした。

そのほかでは、お姉さん役の蒔田彩珠(なんと公式サイトのキャストで紹介されていない!アホか!)さん、友人役の新音さんの二人は好演でした。特に蒔田さんは年齢に似合わない雰囲気があってちょっと今後注目していきたいと思いました。

大森監督の演出はとても良かったと思いますが、中盤のアニメーションはいただけない。あそこは絶対芦田さんの演技で見せなければいけないところ。あれはない。絶対ない。役者を信じ切れてないとしか思えない。繰り返しますが、そこ以外はとても良かったです。

とにかく、「そういう映画だ」ということを踏まえてみると、なかなか壮絶で、見ごたえがある作品です。単純な15歳の少女の成長物語じゃありません。ずっしりと重いテーマを内包している秀作です。見て損は無いと思います。

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