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純度100%の「怖い阿部サダヲ」 --- 映画 「死刑にいたる病」レビュー ネタバレなし

いやあ、盲点でした。嫌いじゃない。むしろ好きな役者、のはずなのに。私は阿部サダヲ主演の作品は映画もドラマも舞台も見たことがなかった。マルモのおきて、いだてん、舞妓Haaan! 、そして殿、利息でござる、それぞれちゃんと知ってたのに、ワザとではなく本当に縁が無かっただけとしか言いようがありません。役者阿部サダヲのことを知ってるようで何も知らなかったのです、私は。だから映画館でこの作品が掛かっているのを見たときは「やっと逢えたね!」という気持ちになりました。

久々にあらすじを公式サイトから引用します。

史上最悪の連続殺人鬼からの依頼―
それは一件の冤罪証明だった。
ある大学生・雅也のもとに届いた一通の手紙。
それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村からだった。
「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。
過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、 事件を独自に調べ始めた雅也。
しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―。

死刑にいたる病 公式サイトより

もう初っ端からサイコ野郎の犯行の描写で目を背けたくなりますが、そこを乗り越えるとなかなか面白い映画でした。
そもそももう名前が「阿部サダヲ」ですから。この役者さんにこういう役をやらせたら上手いに決まってます。

ただ、白石和彌監督が上手いなあと思うのは、その「怖い阿部サダヲ」を一切の雑味を省いてかなり純度を高めて見せてくれているところです。良く磨かれたタンブラーの中に置かれた透き通ったロックアイスのような純度の高い「怖い阿部サダヲ」を見ることができます。

またこの作品で感心するのが全体的なバランスの良さで、白石監督の手腕なんでしょうか、色々「ちょうどいい」作品になってます。前述のグロ描写もなかり力の入ったものではありますが、そればかりの作品にはなっていない。阿部サダヲだけの映画かと思えば、主人公の雅也を演じる岡田健史さんにもちゃんと主人公としての華があって、どっちに転ぶかわからない若者の不安定さを好演してます。彼の家族(母親は中山美穂!)のなんかドス黒い不穏な空気もとてもいい感じです。

なにより感心したのが主人公に思いを寄せる女の子を演じる宮崎優さん、言っときますけど、彼女抜群です。ご本人の役作りの賜物だと思いますが、少し地味で決して目を引くような美人ではない…これ、ご本人にお目にかかったら多分とても魅力的な方なんだろうと想像しますが、この映画の中でのそのパッとしない感じが、素晴らしく「ちょうどいい」んです。しかもちょっと自意識過剰な感じを終始発散し続けていて、ちょっとイラっとさせられる、このさじ加減がまた絶妙で唸らされました。清原果耶、蒔田彩珠でビリッと感じた才能を、この人からも感じます。日本の若手女優はマジで層が厚くて先が楽しみです。

上映時間も程よく、ちょっと怖い思いをしたい、ハラハラドキドキしたいという用向きにはピッタリの映画です。できればサイコホラー好きの女の子と一緒に観に行きたい。で、そのあとなんか映画の話をしながらいちゃいちゃしたくなる、そんな作品。同じ白石監督の「凶悪」みたいなドン引きするほどの後味の悪さもなく、のど越しの良い良作ホラーです。お時間あればぜひ。

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