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飛びだしたがってる何かがたくさんあるのに --- 映画「Ribbon」Youtube配信版 レビュー

もうずっと、半ばライフワーク的に応援しているのんさんですが、いつの間にかいろんな人を巻き込みながら、ついに自力で主演映画を撮るところまで来てしまいました。素直にすげえなと思います。できれば映画館に足を運びたかったのですが、予定が合わず自宅で配信版を鑑賞。

以下、公式サイトのあらすじです。

コロナ禍の2020年。
いつかが通う美術大学でも、その影響は例外なく、 卒業制作展が中止となった。
悲しむ間もなく、作品を持ち帰ることになったいつか。 いろいろな感情が渦巻いて、何も手につかない。 心配してくれる父・母とも、衝突してしまう。 妹のまいもコロナに過剰反応。 普段は冷静な親友の平井もイライラを募らせている。
こんなことではいけない。 絵を描くことに夢中になったきっかけをくれた友人との再会、 平井との本音の衝突により、心が動く。 未来をこじ開けられるのは、自分しかいない―。

Ribbon 公式サイトより

のんさんはこれまで勝負をかけた大きなライブを2回自らの手で中止しています。1回目は台風が直撃した日比谷野音でのチャボとの対バン。そして2回目がコロナによる自粛で中止となったのんフェス2です。私はどちらのイベントもチケットを持っていたのでとても悔しかった。しかしイベントに向けて準備に時間をかけてきたのんさんは、私より遥かに悔しい思いをしていたと思います。当時はまだ強行しようと思えばできたかもしれない時期でしたが、それでも彼女は中止を決断しました。確かコロナで中止を決定したイベントとしては、国内最初かそれに近いものだったと記憶しています。

この「中止を決断する」という行為はある意味そのイベントが「不要不急」であることを認める行為でもあります。コロナによる自粛の嵐で、アーティスト、芸術家から娯楽産業に従事するあらゆる人々が「不要不急じゃない」と言われて居場所を奪われてきたわけですが、この理不尽さに対するのんさんの思いが、この作品に込められています。この作品を通して彼女が言いたいことはしっかりと受けとめることができたと思います。

コロナ下での物語ということで、登場人物は極めて少なく、主人公とその父、母、妹、親友、そして公園の男。場面は大学、公園、主人公の部屋がほぼ全て。ものすごく狭い人間関係とものすごく狭い世界がコロナ下の自粛生活そのものなのですが、それだけに少々画面も物語も単調な時間が長く、映画の出来としては今一歩という感じでした。監督としてはこれからに期待、というところでしょうか。ちなみにエンドロールの映像はすごくきれいです。私はエンドロールが一番好きかも。

それよりも気になったのはのんさん自身の演技です。のんさんは類稀なルックスと表情の豊かさで画面をもたせる力は相変わらずすごいのですが、肝心の演技の出来が私は大いに不満でした。

彼女の演技が評価された「あまちゃん」と「この世界の片隅に」の共通点は、主人公が方言を使うという点です。だから相当台詞を練習しているはずなのであまり台詞が気になることはなかったのですが、本作や「私をくいとめて」でののんさんの標準語の演技では、すごく滑舌の悪さと棒読みの台詞が目立ってしまって、私は作品に集中できませんでした。特に本作では友人役の山下リオさんと妹役の小野花梨さんの演技がとても活き活きしてて良かっただけに、のんさんの演技力不足が目立ってしまってます。二人には完全に食われていたと思います。

ぶっちゃけのんさんの場合は彼女に自由にやらせる監督よりも、片渕監督のように演技に対する要求が厳しい監督のほうが良い結果を生むような気がします。本作では脚本がのんさん自身によるものでしたから、台詞に拘る人がいなかったのかもしれません。もしのんさんが今のままで次回作を監督するならば、主演を別の人に任せたほうがいいでしょう。

よく地上波のドラマに出られないのはレプロの陰謀だと言われますが、今のテレビドラマでは台詞を明瞭に発することができない役者を起用することはないと思います。綾瀬はるかさんや長澤まさみさんのようになってほしいとは思いませんが、そろそろ本気で女優業に目覚めてほしいというのが、個人的な思いです。

それでも、少なくともこの作品を見れば、のんさんの中にはいろんな衝動が渦を巻いていて、いつ飛び出そうか、いつ飛び出そうかと待っているのがわかります。やりたいこと、言いたいことがたくさんある、しかもそのエネルギーはハンパない。ただそれがまだまだ上手い形で出てきていない。大爆発したらものすごいことはもう見えている。なのに今はどこか止まっているようにみえてなんだか実にもどかしい。今ののんさんを見ているとそんな感じなんです。

この秋、のんさん主演の映画が2本公開されます。「さかなのこ」と「天間荘の三姉妹」。どちらも世間的に大注目を集める可能性を秘めている作品です。作品そのものの出来もさることながら、とにかく演技の面でもう一皮剥けたのんさんが見れることを、私は期待しています。

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