見出し画像

猫の看取りメモ

前回の投稿でも書いたとおり、先週僕が18年生活を共にしてきた猫が虹の橋を渡りました。今回はその愛猫の死を通じて考えたこと、覚えておきたいこと、これから愛猫の死を迎えなければならない人やペットを買おうとしている人に伝えたいことを書き留めておこうと思います。

猫の最期

18年前に近所の公園で僕たち夫婦に拾われた猫のユキは、旺盛すぎる食欲がたたったのか、糖尿病と腎臓病を患っていて最後は骨と皮だけになって力尽きました。糖尿病の闘病が始まってから3年、しばらくはインシュリン注射と投薬でかろうじて健康を維持してきましたが、この3ヶ月くらい前から急激に体重が減りはじめました。それでも彼は基本的に食欲の強い猫だったので、最期まで食欲が落ちなかったことが3か月の間命をつなぐことができた理由だと思います。そんな彼も最期はついに何も食べなくなり、顔から表情が消え、瞼は開いていても何も見えていない感じになりました。やがて足先が痙攣し始めたかと思うと2〜3回あえぐように口をパクパクさせました。僕は彼の顔を両手で包み込むようにして「もうがんばらなくていいよ」と声をかけました。彼はそれきり動かなくなりました。足の痙攣が始まってから、僅か3分くらいだったと思います。

この闘病中の3年間は想像以上に大変でした。

汚物との戦い

動物の介護においてまず大変なのは、吐瀉物、排泄物との戦いです。もともと猫は吐きやすい動物なのですが、終盤体力が落ちてくるとちょっとしたきっかけで吐くようになるし、吐くと一気に体力が奪われていくのがわかります。だからとにかく吐かないように食べ物を与える時には量を考えて、薬を飲ませる時には誤嚥に気をつけるようにしてと気を使いました。

また、足腰の力がなくなってきたせいで猫のトイレに上がらずに排泄するようになりました。我慢しきれず床にしてしまうのです。こうなると猫砂は役に立ちません。しかたなくペットシートを箱買いして猫の行動範囲をシートで覆うようにしました。一時期抗生物質が合わないせいか胃腸の状態が悪化し、下痢をするようになった時期が一番大変でした。また腎臓が悪化すると大量に水を飲むようになり、そうするとおしっこも大量にするようになります。シートが何枚あっても足りない状態です。日中留守にでもしようものなら家の中は糞尿の悪臭で充満してしまうので、帰宅して自宅の扉を開けて最初の部屋の空気を吸うのが憂鬱でした。今は通販サイトで大きめのペットシートが何百枚も箱で買えるので、これは本当に助かりました。お勧めは山善のスーパーワイドサイズ。200枚入りで4000円前後なのでどんどん使えます。色が白いのも尿の状態をチェックしやすいので◎。我が家では猫砂も紙製の白い粒で濡れても青くならないものを使用しています。

食欲を支えたキャットフード

猫の下痢の理由は薬が合わなかった以外に食べ物の問題もあったようでした。私はずっとドライフード(俗に言うカリカリ)は腎臓病・糖尿病用の処方食、ウエットフードは一般的な成猫用のものをあげていたのですが、その食事を変えることである程度下痢を抑えることができました。うちの猫の場合は下痢止めの薬より効果があったと思います。

まずカリカリは粉末に近い状態まで砕いて食べさせました。ウエットフードしか食べないような場合にはウエットフードに粉末状にしたカリカリを混ぜて食べさせるのです。またウエットフードは思い切ってすべて高齢猫用のものに変えました。高齢猫用のパウチは中身が細かいフレーク状またはペースト状になっていて、噛まずに舐めて食べられるようになっています。この高齢猫用のパウチは効果絶大で、とても食べやすいようで、もっと早く変えてやればよかったと思っています。ただペースト状のウエットフードは口に入りやすいだけに食べすぎには注意しないといけません。下痢はとても体力を消耗させますし、糞尿の始末においても下痢をするかしないかで手間が大きくかわるので注意したいところです。

ちなみにカリカリはロイヤルカナンの腎臓サポート3種類のローテーション、意外と固いので砕くには100均で買ったすり鉢を使いました。レトルトパウチは意外にもトップバリュの高齢猫用が値段の割に量も多く、猫の食いつきも良好でした。ユニ・チャームの三ツ星グルメのフレーク15歳以上用は1食分に丁度よい量で、使い勝手が良かったです。本当はウエットフードも疾病に合わせた処方食を使うのが理想なのですが、やっぱり美味しくないらしく、最終的には食べてもらうことが最優先になりました。

ちゅ〜る最強説

終末期を迎えたの猫の体力を支えたのはなんと言ってもchaoちゅ〜るでした。僕は元々ちゅ〜る否定派であんな健康に悪そうなもの食べさせたくないとずっと思っていたのですが、最近は下部尿路疾患に対応したり、総合栄養食として認められている物もあったりして、食欲を失いつつある猫にはとても力強い味方になってくれます。最近は類似の商品も多数出ていますが、僕の実感ではchaoちゅ〜るの食いつきの良さは別格です。正直なんでこんなに食いつきがいいのか怖くなります。でもそれが最後の最後でとても役に立ってくれました。僕の猫の最後の食事は、僕の指から舐め取ったちゅ〜るでした。

医療費の話

最近は動物の医療環境はものすごく進歩していて、きちんと病院にかかれば持病を抱えても健康を維持できるし、長く飼い続けることができます。ですが、その分飼い主の負担も大きいです。僕は先のことを考えずにペットの医療保険には加入していませんでした。そのため治療費はすべて実費です。尿検査、血液検査、点滴、レントゲン、通院のたびに万単位の費用がかかります。それ以外に日々飲ませる薬、インシュリンの注射、注射のための使い捨ての針の購入費用がかかります。そして入院ともなれば、入院時の食事代、投薬代、酸素吸入代なども加算されて、一度に数十万単位のお金が消えていきます。気がつけば僕たち夫婦は拾ってきた猫の治療ためにトータル100万を超える金額を費やしたことになります。もちろん動物病院の先生は信頼できる方々で、費用に見合う素晴らしい治療をしていただけたと感謝しています。だからこそ、ペット保険には入っておいたほうがいいですね、絶対。そしてさらに忘れてはならないのは、2匹飼っていればその負担が倍になる、ということです。我が家にはもう1匹猫がいます。この大変な負担をもう一度することを僕は覚悟しなければなりません。さだまさしの歌の通り「飼えない数を飼ってはいけない」のです。

もちろん僕はすべての人にそこまでの治療を強要するつもりはありませんし、なによりもお金をかけて延命を図るばかりが猫の幸せなのだと言うつもりもありません。人それぞれに飼い猫との接し方は違うと思います。どこまで治療するべきかは飼い主の判断です。僕の場合はもう治療はやめて最期を静かに家でむかえられるようにしてやろうと思えるまで時間がかかってしまいました。ですが、最終的に猫の治療をどこまで続けるのか、なにが猫にとって一番幸せなのか、判断するのは飼い主の役目です。そこだけはきちんと考えてあげてほしいと思います。

猫の葬儀

自宅で猫を看取ったあと、動物病院に連絡して、死後の処置をしてもらいました。シートの上でなんども失禁しているため、愛猫の身体からは糞尿の匂いがしています。病院ではきちんと死後の処理をして身体をきれいにして、ダンボール製の立派な棺に入れていただきました。もし猫の死が近いと感じたら、冷蔵庫に保冷剤を用意しておくといいと思います。死後病院に連れていく時などに必要になります。できれば3つくらい。ただ保冷剤を使用しても置いておけるのは3日が限度だそうです。

僕は猫を火葬することに決めました。幸いにも近隣にペット専門の火葬場があることは知っていましたので、そちらでお世話になりました。提携しているお寺に供養していただくことを含めて費用は約4万少々。でもちゃんと骨は拾えますし、陶器の骨壷に収めてくれます。火葬前には彼が生きた証としてすこし毛を切らせてもらって小瓶にいれました。この毛があれば、いつまでも彼のことを忘れずに思い出せる、そう思えます。

看取るのは素晴らしい時間

今、彼の遺骨を脇に置いてこの原稿を書いています。ペットを飼う以上、看取るのは飼い主の義務だと僕はずっと思ってきました。でも今思うとそれは間違いでした。ペットを看取る、という行為は長い時間をペットと共に生き、その暮らしを大切にしてきた人だけに与えられるご褒美のようなものです。愛する猫が弱っていく姿を見ているのは確かにつらい。でも普段自由にさせていた猫が本当に自分を必要としていることを実感できる貴重な日々でもあります。僕を頼る猫のまなざしは、子猫だったころ僕をじっと見ていた目と何も変わっていませんでした。そして何より、最後まで生きようとすることに迷いがなかった彼の姿に、多くのことを学んだ気がします。

残念なことに家内は在宅勤務ができなかったので、日中は僕が一人で彼の面倒を見ていました。いま、彼がいなくなってあらためて気が付いたことがあります。彼は最終的には失禁した時に僕を呼ぶ時くらいしか鳴くことができませんでしたが、その一方で僕はものすごく彼に話しかけていたのです。「ん?おなかすいたか?」「うんち出たな、えらいえらい」「シート濡れてるの気が付かなかったよごめんごめん」「喉は乾いてないか?」「寝返りうちたいのか?」「少し眠ろうか」なんて、ずっと話しかけていました。僕はそれほど話しかけている自覚はなかったのですが、彼がいなくなって日中一人で黙っていることが多くなって、初めて自分がどれだけ彼に話かけていたのかがわかりました。今になって思えば大変だと思えた猫の世話をやく日々はとても楽しい毎日だったのです。くたくたになってどこにも力が入らず、おしっこの匂いの染みついた身体はまるで子猫に戻ったようで可愛くて仕方がありませんでした。冒頭にも書いた通り世話をするのは想像以上に大変でしたが、それでもつらいとも怖いとも思ったことは一度もなかったです。

僕が住んでいる地域だけのことかもしれませんが、最近急にペットフードのコーナーに高齢猫、高齢犬の食事が増えてきたように思います。ペット医療の技術も進みペットの寿命が延びるに従って、高齢のペットを抱える方が増えてきているのだと思います。高齢のペットを抱えるとそれなりに生活の負担は増しますが、ペットを看取るというのは素晴らしい経験です。怖がらずに、勇気を持ってしっかりとその時間を楽しんで、最後まで面倒を見てあげてほしいと思います。そして僕たち夫婦にももう一匹面倒を見なければならない猫が残っています。これから彼女と過ごす時間も今まで以上に大切にしていきたいと思います。

ありがとう、ユキ。よくがんばったね、おつかれさま。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?