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そこには愛しかない。---映画 「トップガン・マーヴェリック」レビュー ネタバレほぼなし

あらためて、トップガン・マーヴェリックについて書きます。

元々僕は86年のトップガンには全くハマらなかったタイプです。まあトムキャットはそれなりにカッコ良かったものの、どう見てもトム・クルーズのアイドル映画だし、とにかく女といちゃいちゃしている時間が長かったという印象しかなく、Take My Breath Away がかかるとは未だにスピードワゴン井戸田の「アマーーーーい!」という声が聞こえて来ます。

まあそんな評価ですから、正直トム・クルーズがトップガンにそれほどの思い入れを持っているとは思わなかったんです。素晴らしい役者に成長した現在、あのアイドル映画の世界に戻ることは無いだろうと。しかし、役者にとって自分の出世作というのはこれほどまでに大切なのかと、今回の「マーヴェリック」で思い知らされた気がします。本当に観に行って良かった。

そもそも今回、あれほど苦手にしていたトップガンの続編をなぜ観に行ったのか。その理由の一つが、監督がトロン・レガシーを撮ったジョセフ・コシンスキーだったことです。

今、ハリウッドはネタに困っているのか旧作の続編が花盛りです。懐かしい役者を現在に引っ張り出して物語に時間的な厚みを持たせるのは素晴らしい手法ではあります。しかし最近ちょっと多すぎませんか?私は個人的に「フェアウェルムービー」と呼んでいるのですが、出せばそりゃ盛り上がるかもしれませんが、それを売りにするのは邪道なんじゃないのと。

実際、出来上がった作品を観て正直ピンとこなかった物もあります。例えば、異論はあると思いますが、スター・ウォーズ、インディアナ・ジョーンズ、ブレードランナーと立て続けに「フェアウェル」されたハリソン・フォードなんかは見ていて気の毒になってしまいました。3作品ともハリソンの演技は悪くなかったとは思いますが、私はそこにハリソンの役に対するこだわりをあまり感じませんでした。マーク・ハミルがSWで見せた気迫とは対照的で、ハリソンの場合は当たり役が多すぎたということなのでしょう。

その一方で、本当に役と共に歳を重ねた上、強い使命感と作品への愛情をもって演じる役者さんもいて、そんな作品を目にすれば本当に長生きしてよかったと思います。それを初めて感じさせてくれた作品が、コシンスキー監督による「トロン・レガシー」でした。映画自体の雰囲気はオリジナルの「トロン」には全く及びませんでしたが、前作の主人公フリンのその後を演じるジェフ・ブリッジスが素晴らしかった。トロンの続編としてフリンのその後を描く理由はあったし、それを演じるのは自分でなければならないというジェフの気迫が表情の一つ一つから伝わってくる、そんな作品でした。トロンをリアルタイムで見た者でしか感じることができない時の流れのマジックがそこにはありました。

そのトロン・レガシーでジェフの熱演を敬意を持ってフィルムに収めたコシンスキー監督が、トップガンの続編を撮るというのです。おそらく間違ったものにはならないという確信めいたものがありました。

そして、トム・クルーズです。
もういつの頃からも思い出せないのですが、僕はトム・クルーズの映画で外したと思った記憶がしばらくありません。作品に対する信頼感という意味ではダントツの1位です。MIという核になるシリーズ物はありますが、それ以外の単発物でも面白さ、満足感のアベレージはずっと好位置をキープしています。これはすごいことです。映画館の上映スケジュールを眺めてピンと来るものがない時にはとりあえずトム・クルーズの作品を観ておけば間違いない、僕にとってトム・クルーズというブランドにはそれくらいの信頼感があります。

トップガン・マーベリックではトム・クルーズの役の掘り下げ方が見事で、前作のトップガンとは全くテイストの異なる大人の映画でありながら、主人公はアイドルだったマーヴェリックの延長線上にまっすぐ存在していて、続編としての違和感が全くありません。もし私が彼の友人なら「あいつ、変わんねぇなあw」と言いたくなります。前作ファンはもう安心して観に行っていただいてOKです。リアルタイムで観ていた方、懐かしい彼がそこにいます。その感慨は計り知れません。

そしてこの作品は他のフェアウェルムービーとは違って主人公をいたずらに過去に追いやることなく、未来のある素晴らしい人生を与えて幕を閉じます。それが私がこの作品を最も愛する理由です。ピート・“マーヴェリック”・ミッチェルは本当に演じ手に愛されたんだなあと観ている側としても幸せな気分になりました。

物語はごくシンプルなもので、ちょっとした葛藤と、ちょっとした大人のロマンスがあって、敵もよくわからない「ならず者国家」というなんともゆるい脚本なんですが、トップガンという作品はそれでよくて、ドッグファイトとドラマパートのバランスはちょうど良いです。そもそもトップガンは「戦争もの」ではなく「戦闘機もの」なので”乗ってる感”がすべて。その部分では満点の出来です。当然CGは多用しているとは思いますが、実際にカメラを回して撮影された映像が圧巻。映像はまったくの素人ですが「見えるものが観える」のが映像の基本なのかもしれません。本作を見ると昨今のCG満載の映画は画面の情報量が多すぎることが良くわかります。それにしてもドッグファイトでここまで総毛立ったのは、正直77年のスター・ウォーズを劇場で観て以来かもしれません。CGでなんでもできるようになってしまった現在、あの衝撃を味わうことは2度とないだろうと思っていたので本当にうれしかった。

結論から言って、もうこの映画には愛しかありませんでした。
前作トップガンへの愛、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル への愛、戦闘機、ドッグファイト、アクション、映像、音響、役者--
この映画をどの断面から切り取ってもそこにはトム・クルーズの愛しか存在しない、そんな映画です。少なくとも私の中では、この10年でダントツ1位の出来です。大画面、爆音でご覧になることをお勧めします。

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