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「Pokémon LEGENDS アルセウス」を見て

 「Pokémon LEGENDS アルセウス」の動画を見て、ポケモンを大してやってきたわけでもない私でさえ驚きを隠せなかった。プレイヤーが自ら平原を駆けて、シンボルとして存在するポケモンを捕まえる。大きいポケモンはプレイヤーより大きく、小さいポケモンは草むらに隠れてしまうほど小さい。崖から見下ろすヒスイの大地は本当にそこにあるかのようだ。

 Switchを持っていないため未プレイだが、私が想像してきたポケモンとの違いが面白くて文章を書いてしまった。ポケモンに詳しくない人間がポケモンについて話しているので、見当違いなところもあると思うが、そういう点も楽しんでもらえたらと思う。私が今回面白いと思ったのは、プレイヤーとポケモンのパーソナルスペースについてだ。

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 パーソナルスペースとは人と人の距離感のことをいう。近づいてもいい距離は関係性によって変わる。例えば、たいして仲良くない会社の人が必要以上に近づいてくると怖さを感じるが、親しい友人が近づいてきても怖いと思わず、むしろ嬉しく感じたりする、そういう、人が持っている距離感覚のことをパーソナルスペースという。知らない人と話せる距離を社会距離、友人など親しい人との距離を個体距離(手を伸ばせば届く)、恋人や家族といったごく親しい人との距離を密接距離(ゼロ距離)、というそうだ(参考:https://hatarakuba.kurodaseiseido.co.jp/column/post-2249/)。

 私が想像するポケモン(世代的にはルビーサファイア)はランダムエンカウントだった。ポケモンの表情は読み取れても、ポケモンが近づいてくる/離れていくといった距離感はあまりないように感じていた。ポケモンが可愛い、怖い、と思っても、それは画面越しのことで、自分が操作する主人公はポケモン世界の私の分身、といった感じで、”わたしそのもの”だと感じることは少なかったように思う。

 それが「Pokémon LEGENDS アルセウス」では、主人公が”わたしそのもの”に感じる、言い換えるとプレイヤーが主人公に感情移入しやすくなっているようなゲームになっているように感じた。それは、プレイヤーである自分がポケモンとのパーソナルスペースを意識するような違いだ。

 シンボルエンカウントになっており、戦闘の入り方もシームレスだ(背景が変わらない、暗転がスムーズ…)。ポケモンを使って戦うこともできるが、走って逃げることもできる。また、プレイヤー自身がポケモンに攻撃されて怪我を負うところも、臨場感を演出している。今作において非常に重要な存在感を示しているのは、「追ってくるポケモンが怖い」という感情だ。イワークが追ってくると怖い。タマザラシがついてくると可愛い。ポケモン同士が喋っているところも微笑ましい。ポケモンバトルの最中は自由に動き回ることができる。動画を見ているだけでもこれらの要素が感情移入を手伝っている。実際にプレイをしたら、その比ではないだろう。
 そういう点では、主人公が異世界転生するという流れも、プレイヤーが"わたしそのもの"であると感じさせる一種の装置のようにも感じられる。

 「Pokémon LEGENDS アルセウス」という作品は、ポケモン世界でいうとかなり昔の話になるらしい。ポケモンの扱い方が定まっておらず、ポケモンバトルが1対複数になることもあったり、それぞれの団によってポケモンボール使用の有無があったりと、これまで固定化されていたルールがない世界線だ。その世界観を従来のポケモンの雰囲気そのままに、新鮮な臨場感を持って表現している。当たり前に受け入れていたポケモンボールの存在、1対1、2対2バトルの存在、ポケモンの受け入れ方……。そういった、ある意味ポケモン世界の常識が覆されるような作品で、プレイヤーの没入感を優先させたことは、プレイヤーに「ワクワクする」「ポケモンの歴史に立ち会っている」感覚を与えてくれる。ポケモンが未知の動物と同じように存在し研究対象であったアルセウスの時代から、当たり前のようにポケモンをパートナーとしてボールに入れて持ち歩くという赤緑の時代まで、何があったのか。

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  決められた選択肢の中で動くのではなく、それぞれが行動を選択し冒険してくゲームが増えている。今回の「Pokémon LEGENDS アルセウス」もそんなゲームの1つだろう。初めてプレイしたポケモンがアルセウスだという世代も出てくるのだと思うと、ポケモン世界の歴史が明かされていくのと同時に、ポケモンをプレイする私たちもまたポケモンというコンテンツの歴史を作っていることに気づく。ポケモンの新作が発表された今、どんな風にポケモンが進んでいくのかが楽しみだ。


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