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感じたこと、考えたことなど。
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#祖父母

【3.11】 私のせいで動くことのない世の中を

 通勤電車から、海が見える。穏やかな水面に、日の光がチラチラと輝く。まだ日が昇らない時間帯は黒い地面のような海がそこにある。  慣れない仕事をこなす中で、その海は支えだった。「仕事先の大きさはこの海のほんの端っこくらいで、その中で喜んだり落ち込んだりしてるんだな。この海にいきなり飛び込むよりはどうってことないな」なんて、飛躍しすぎだけどそうやって頑張れていた。  ただ、海を見てほっとするとき、少しだけ緊張している自分もいる。それはきっと、あの日を思い出すからだろう。  

結婚式の思い出

 小学生のころ、親戚の結婚式に出席したことがある。華やかな衣装、豪華な食事、式は予定通り進められ、この世界には幸せしかないんじゃないかと思えるような式だった。  椅子にじっと座っていられなかった私は、式場の中を探索した。いつもとは違う、白を基調とした建物とところどころに設置された花々。その中の一つに、厨房があった。他の場所とは違う銀色の部屋で、何人かが提供する料理を作っていた。そこで私は調理している方と何か話したような気もするし、ただちょっと見ていただけかもしれない。  

長生きしてね

 年長者を敬いなさいと言われても、いまいちピンと来なかった。「ただ年を取っているだけ」で、尊敬の対象になるのか、幼い私には疑問だった。  そうやって言ってしまえば、きっと「恥知らず」だとか「若者はなっちゃいない」だとか叱られてしまいそうで、口に出すことはできなかった。  たぶん私は、「歳を重ねる」それ自体に価値を置くことの意味がわからなかったんだと思う。年数はどうであれ、その人がどういう人なのか、どういう経験をして、今どう生きているのか、それを見ることによって尊敬は生まれる