健康寿命を伸ばしたい。タンディな生き方。
健康寿命を伸ばすコツを得たいと元気な年配の方に声をかけ、お話を聞くと言う自分でも奇天烈な行動をコツコツと初め4年近くがたった。
途中コロナなどがあり中断を余儀なくされたが、今年に入り本格的に再開した次第である。
今まで数多くの方にお話をさせて頂き本当に感謝の一言だが、数多くの方の中でも特に記憶に残る方も当然沢山いる。高そうな背広をビシッと決めたダンディな70代後半の方も忘れられない一人であった。
新年を越して、少し街が落ち着きを取り戻した寒い夜の事だ、私は疲れると一人で軽く飲める居酒屋で少しだけ夕食を兼ねて焼酎を飲むことにしていた。その日は特に寒く体がだるかった。体調が悪いなら早く帰れば良いものだが、何故か行きつけの居酒屋で飲むと少し体調が良くなる気がした。あくまで気がしただけだが、病は気からで居酒屋でユックリすると元気になるからおかしなものである。その日もいつものように焼酎をチビチビ飲んでいると、妙に様になっているダンディな方がいらっしゃった。
彼もこちらを何となくたがカウンター越しに気にされているようで、何度となく目があった。本来私は、お酒を飲むときは一人と決めていたのだが、何故か私の方から彼に声をかけた。
「いきなりすいません、あまりにカッコイイので声をかけてしまいました。もし宜しければ少しお話しませんか?」
「君誰?」
「私こういう事をしています。」
カバンにいつも携帯している健康寿命を伸ばしたいの趣旨説明が書いてあるチラシと名刺を彼に見せた。
彼はチラシを軽く眺めると、こちらをチラッと見て低い声で言った。
「面白いことしてるね、だけと俺不健康だよ!」
「えっ!不健康には全く見えませんが。」
「君、健康というのは体だけではないよ、気持ちや懐具合。そしてアッチの兼ね合いだよ。」
彼はいたずらっぽく笑った。
「アッチとは?」
「アッチとはアッチだよ。君結婚は?」
「いや、残念ながら。」
「そうだろうな、そんな物飲んでたらムードも何も無いよ。」
私は眼の前の焼酎のお湯割り梅干し入りと、たこわさ、の入った小皿を見て少し納得してしまった。
「確かにこれは駄目ですかね?」
「ムードがないだろ。ムードが、雰囲気が何より大切だよ!そして言葉は要らないんだ。男と女の間に言葉は不要さ!」
彼は言葉はいかに不必要なものかを20分あまりに渡り私に話しまくった。そして一通りレクチャーを終えると。
「まっ、今言ったことを意識すれば大丈夫だろ、まだまだ若いんだ、これからさ。」
と言って財布から2万円を店員に差し出した。
「これ、この兄ちゃんの分も一緒でいいよ。」
「いやいや、そういうわけにはいかないですよ。」
「馬鹿野郎、一度出したもの引っ込められねえよ。次はお前がおごれ。それでいい。」
と言ってアタッシュケースを手に颯爽と帰っていった。店員さんはダンディな彼に慌てた様子で言った。
「お客さん。勘定足りないですよ!」
と言ったら面白かったのだが、当然そんな事はなく、2千円程度多く払ったらしい。
「お客さん、お釣り。」
「いらないよ、取っとけ。」
彼は右手をヒラヒラさせて去っていった。
店員さんは千円札を2枚と小銭に持ってコチラをチラッと見た。
「お客さん、お釣りもらいます。」
私は皆さんの予想通り貧乏所帯である。
「良いですか?なら。」
私は悪びれず2千円と少しのお釣りを頂いた。
ダンディな彼とはその後全くあっていない。
考えてみれば、この居酒屋は私の行きつけであり、ダンディな彼は初めて見る顔である。
私はそれ以来、この居酒屋に行くときは、ダンディな彼がいた時に前回の借りを返せるよう財布に少し多めにいれるようにしている、が、彼とは再会をしていない。
最初から最後まで不思議な人だった。しかし非常に魅力のある、人を引き付ける方だった。
もう一度、いや何度でも会いたいと思わせる雰囲気、ムードがあったのだ。
もしかしたら本当にモテる人なのかもしれない。
「ガツガツしない。卑しい振る舞いは駄目。ただ戦闘本能は常に持っている。これだな。健康寿命なんて関係ないよ。アツチに不自由なく生きるのが君の言い方で言うところの秘訣だね。」
文字にするとふざけた事を言っているが、直に聞いていると違和感がなく、妙な説得力を持つから不思議である。
これも彼のいうムードというやつなのかもしれない。
寒くなると何故か彼を思い出す。
居酒屋を出ると小雪が舞っていた。
本格的な冬のシーズンの始まりを予感させる夜の出来事である。
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