小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#30 サンライズ

宵宮氷 6月4日 土曜日 午後9時30分 
        静岡県 紅無町 じいちゃんの家

「─えっ!?愛知から来たの!?どこに住んでる?」
「私は夏露。葉凰は?」
「俺は冬雫だよ」
「わあ!!俺の友達と一緒だっ!!」
 俺は声をあげた。

 さっき、一緒に夕飯を食べて(今日は美味しい焼きそばだった!)、もう夜だからと、布団を敷いたところだ。俺たちは、当然寝ること無く、話すことを続けていた。なんだか、修学旅行みたいでわくわくする。

 この人たちは、愛知県から来てて、俺がもともといた夏露にいる。
 ということは、もしかしたら中学校も、同じかもしれない。俺は聞いてみる。
「夏露中?」
「うん」
「一緒じゃん!俺、運良いかもっ!」
「友達の名前は?」
 葉凰に聞かれる。鼓動が加速してくる。名前を呼びたくて、どうしようもなかった。
「わたとわさびとわらべ!」
 わくわくしながら返事を待つ。と、二人の顔が驚きの表情に変わった。

「俺、わらべとわたと友達だよ。わさびは知らないけど、テストになるたびに名前聞くかも」
「私はわたと、わさびと友達。わらべって、部活入ってない、元気な男子じゃなかったっけ?」
「わたが人気者だっ!わらべも元気そう!わさびも頭良いなあ~!」
 俺が知っている、わらべとわさびだ。わたはどっちかって言うと引っ込み思案だったから、少しびっくり。
「わたは人気者っていうか、有名人だな。マイペースで。誰にでも優しくて、なんか元気だよ」
「え!?あのわたがっ!?」
 嘘っ!
 そんなに元気なのっ!?俺、嬉しい!
「わたって昔どんな感じだったの?」
 愛華葉に言われて、俺はしゃべる。
「わたはね、恥ずかしがり屋で、写真に写るのをよく嫌がってて、、、。勇気がなかなか出せない子だったな」
「え、今のわたじゃ考えらんない」
 愛華葉はうんうんとうなずく。
 なんだか、嬉しい。この人たちに俺の仲間の話を共有できるって、すごい楽しい。

「わらべは?」
「葉凰詳しいんじゃない?」
「わらべはなあ、、、」
 今度はわらべのことを聞いてみた。
 葉凰は天井を見ながら腕を組んで考える。

暁愛華葉 6月4日 土曜日 午後10時30分 
            静岡県 紅無町 宵宮家

 それから、いろんな話をした。
 わらべは、元気で人懐っこくて、優しくて、天然で面白い男子だって聞いた。
 氷はわらべの昔の姿と変わらない、俺の最高の友達でいてくれてるんだって喜んでた。

 わさびのことは氷から、頭が良くて、勉強ができるけど、よく氷たちの悪いノリに合わせてくれていていい人だった、一緒にいて楽しい人だと聞いた。
 私からは、いい人だ、その通りだって、それだけしか言えなかった。

 今日1日、なんだか楽しくて、とってもわくわくして、でも最後に大切な仲間にケガさせて、その後に新しい出会いがあって。
 泣いて笑って、楽しんで悲しんで、とても面白かった旅だった。

 少し寂しいけど、明日は帰ろう。
 美しい思い出を抱えて、笑顔で帰ろう。
「そろそろ寝よっか」
 氷は部屋の電気を消す。
「おやすみ!」
「「おやすみ」」
 私は横を向いて、小声で葉凰に話しかけた。

「楽しかったね」
 葉凰は笑って、「楽しかったな」と言った。
「─なあ、愛華葉って」
「ん?」
 少し間を空けて、思い切ったように話しかけて来たから、びっくりした。
「妹とか、弟とか、お母さん、お父さんのことって、好き?」
「もちろん」
 思いがけない質問だったが、即答した。
 私はみんな大好きだ。
 ちょっと大袈裟なリアクションをするお母さんも、笑顔を絶やさないお父さんも、弟の魁斗も、若葉も翔瑠も鞠音も、大好きだから。

「そっか」
 と、どこかからうるさい寝息が聞こえてきた。
 寝息というか、いびき。
 氷の方を向くと、彼はもうぐっすりと眠っていた。
 私たちは顔を合わせて笑った。
 数時間ぶりに、腹の底から笑った。
 それから、葉凰は
「おやすみ」
 と言った。
「おやすみ」
 にしても、なんであれを聞いたんだろう。
 私の身内の話に興味を持ったのかな。
 ああ、色々知りたい。
 わたの過去と現在の食い違いも、わさびのいいところも、わらべっていう人のことも、葉凰のことも。

 私は、眉間にシワが寄っていたことに気付く。
 なんだかそれが面白くて、顔だけで笑って、それから眠りについた。
 ─また学校に行った日に、聞こう。

木暮葉凰 6月5日 日曜日 午前5時08分 
            静岡県 紅無町 宵宮家
 
 ─朝、来たのかな。
 なんとなく意識が戻ってきて、目を開ける。
 目覚めが良い。敷布団も、悪くないな。
 起き上がって辺りを見回すと、愛華葉はきちっと布団の中に収まっているのに対して、氷は布団ははがれていて、枕が床に転がっている。二人の対比ぶりは面白かった。
 
 今から一階に行っても、迷惑をかけるだけか。
 おじいさんもまだ寝ているだろう。
 俺がもう一度寝ようとすると、
「おはよう」と、右から声が聞こえた。
「氷。おはよう」
「寝れた?」
「寝れたよ。いつもベッドだけど、敷布団もいいね」
「良かった」
 氷は笑った。

「じっちゃん起きてないしなあ」
「ごめんな、早く起きて」
「どうってこと無いよ」
 そう言いながら、氷は窓に向かって歩いていく。
「何するの?」
「ベランダで日の出でも見ようよ」
 わくわくするような声色で、俺に言った。

宵宮氷 6月5日 日曜日 午前5時15分 
        静岡県 紅無町 じいちゃんの家

 わぁーお、俺って大胆でかっこいい!
 友達と日の出見るなんてめったに無いだろう。
「あ、日出てるね!」
「本当だ」
 オレンジ色の綺麗な星が、優しい光を発しながら昇ってきた。そのオレンジは、海を徐々に呑み込み、青は緑と色が変わる。海風は爽やかで、若干強めに俺らに吹き付けた。朝が来たみたいだ。
「綺麗だね」
「昨日雨降ったとは思えないでしょ」
「ああ」

 俺はくるっと後ろを向いて、柵にもたれかかる。
「雨が降ったら、いつか絶対に晴れるんだ。日が昇れば月だって上る。物事には必ず反対があって、いつまでも長続きする訳じゃないんだ。悪いことがあれば、次は良いことが来る」
 葉凰は俺の方を見た。
「良いことが起これば、悪いことがある。でもそれって、いつまでもそのことを根に持ってたら、良いことは来ないよね。だから、悪いことはすぐに吹き飛ばして、良いことが起きるように願うんだ。そうすれば、ハッピーになれる!これが俺のモットー!」
 ゆっくりと俺は葉凰の方を見た。
「いいでしょ?」

 なんか、言いたい気分だった。
 運命的に出会えたこの仲間に、俺は言いたいことがあった。俺を覚えていて欲しかった。
 夏休みまで、俺らの絆は確かめられないけど。
 でも、葉凰に会えて確信した。
 俺は会える。3人に会うことができるんだ。
「お前─って、何者?」
 葉凰は途切れ途切れに質問する。
「なんで、わらべたちを知ってるの?いつから、友達なの?もしかして、あの写真の、ヒョウって、、、」
「─俺はね」


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!

今回で30回目まで来ました!
なんだか自分、ものすごく嬉しいです(*´ー`*)
これからも楽しく読んでいってください!

それじゃあ
またね!

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