【感想】「巴里マカロンの謎」、読みました【ネタバレあり】
ぜんざいに柴漬けが付け合わせされるものなんですね。
おっと先走った。
というわけで待ちに待った、「秋季限定栗きんとん事件」から実に11年となる、「小市民シリーズ」の米澤穂信先生の新作です。
いや嬉しい!!
本当に嬉しい!
正直、もう出ないもんだとちょっと諦めかけていました!
去年あたりに続編出るよという情報が来てからこの日を待ち焦がれていました。
もうテンション高すぎるので、感想はガンガンネタバレします。
一応ミステリーに分類されるジャンルなので、まだ未読という人はブラウザバックして本屋に走って。ホラ早く。何してるんですか早く。
小鳩常悟朗くんと我らが小佐内ゆきさんによる、日常ミステリーが僕らの手元に帰ってきました。
夢中で読んでノンストップで読み切っちゃいました。相変わらず面白い作品でした。本当に大好きです。
そう、まずは「面白かった!」という感想! 米澤先生ありがとうございます!
以下、ネタバレします。警告しましたからね?
あ、見出しつけてますが、見出しつけるほどご大層じゃないです。どちらかというとネタバレ踏まないためのクッションとして見出しを使いたいだけです。
1.舞台は2人が高校1年生だった頃
舞台となる時間軸は「春季限定いちごタルト事件」から3~4ヶ月ほど経った頃です。
つまり堂島健吾くんが小佐内さんの正体を聞かされた後であり、小佐内さんが中学時代のクラスメートに誘拐されて「何発殴ったか覚えてる」と笑顔で言うより1年ほど前の時間軸ですね。
まだまだ小鳩くんと小佐内さんは互恵関係を理由にお互いを利用し合っている状態です。
お互いに単に利用し合ってる、もっと合う人がいるはずだと思っている状態なので、2人の感覚も結構ドライ。
文芸部シリーズが割と仲良しさんなのに対して、この2人のドライな関係は何と呼ぶべきなんでしょうね。「互恵関係」は後にちょっと違うと2人とも否定して一歩進んだわけだし。
涙を流す小佐内さんを割とスルーしちゃう小鳩くんとか、あの辺の絶妙な距離感が相変わらずクセになります。いやまあ読者も「小佐内さんのことだからなあ」って思ってしまったりするんですけど。
2.随所に散りばめられた未来に関連するネタ
「わたし、年下には優しいの」
この台詞を読んだとき、思わず瓜野くんに待ち受けている未来に向けて十字を切りたい気分になった。
こんな感じに各所に「2年の夏と3年の秋に起きること」への伏線が散りばめられていて、既刊を読んでいるファンをにやりとさせてくれる。
3.小佐内さんはおとなしめの「番外編」「日常編」っぽさ
ああ、それにしても我らが小佐内さんが可愛い! 素敵だ!
「それにはおぼやないわ」
をはじめとして、「おっかないだけじゃない小佐内さん」を存分に見せてくれる。しかもあざとさやくどさを感じさせない絶妙のさじ加減。このキャラクター描写は見習いたいところです。
そしてたまたま出会った後輩に慕われて、ちょっとまんざらではないんだけど、その近すぎる距離感にちょっとイラついているおっかなさは健在。
それを察するのは流石、小鳩くんなんだけど、やっぱり彼もどこか浮き世離れしてるんですよね。
挙げ句にセンシティブな年齢である中学生に「復讐の覚悟」を問うあたりはもう完全に僕達の大好きな小佐内さんなんですよ。
今回はシリーズのメイン・ストリームではないので、本格的な推理やお菓子以外で素敵な笑顔の小佐内さんは少ないですが、その分2人の日常の魅力があふれている印象です。
今回の結果は、
・自分に向けられた悪意じゃないし、害もなかったから気にしなかった
・害はあったけど、手を下すまでもなく思い知るから「なにもしなかったのよ」
・タバスコ
・(珍しいことに!)人助けのために動いた2人
という、ある意味では王道の日常ミステリーなんだと思いました。
とはいえタバスコの一件に関しては、小鳩くんが推理しているのを気配を消して聞いている小佐内さんがいても驚きませんが。
タバスコが復讐案件だったかどうかは微妙ですが、多分、復讐に意識が行くより先に「甘いと思っていたお菓子がタバスコだった」がショックすぎて吹っ飛んじゃったんじゃないですかね小佐内さん。
4.ストーリーテリングの絶妙さ
いやしかし本当にストーリーテリングが絶妙!
毎回思っているんですが、さりげないひと言が後になってピリピリ効いてくるこの手法、「後から書き足してる」のか、「書き出した時点で決まっているのか」、どちらにせよ本当に技巧なんだろうなって思いますね。
後で書き足すにしても、文章の違和感がないように練り上げるのは容易ではありませんから。
今回特に白眉だったのは「スノッブ」のくだり。
最終的にこれが「犯人」の無粋さと小佐内さんのスイーツへの愛情を彩るように出来ていて、とにかく感嘆を禁じ得ない。
また、タバスコについても「これ犯人は小佐内さんだろ?」と読者が皆思ったところで推理が外れた、と思わせて、小鳩くんより早く「あっ」と思わせているわけで、緩急がまさに揚げパンの中の意外な餡のように効いてきますね。
気の利いたこと言えなくてすいません。
5.まだ終わらないという幸せ
しかし「続きが読みたい……冬期限定が出たら終わってしまう、それは悲しい……」と思っていたのに、これが終わりじゃない!
こんな幸せなことがあるだろうか!
11年待った新作が「次に続く道」なんですよ。
しかしエンディングの小佐内さんは本当に可愛かったなあ。イラストがつくなら最高にキラキラした絵柄と背景で飾られるに違いないというくらいに可愛かった。
でもこれだけ甘いのを出された後だと、冬期には特大のビターチョコが来るかもしれないとちょっとドキドキしますね!
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