見出し画像

東京都世田谷区の土地 買取物語

どうもイットさんです!
一都三県で戸建用地を買い取る仕事をしています。
お酒を飲みながら、実話をもとにした記事を書きました。

今回の記事は、『東京都世田谷区の土地を買うまで』の話です。
近隣トラブルの解決方法など「土地を買取る」方々に対して、参考になるような内容も盛り込みました。
では、お楽しみ下さい。

東京都世田谷区の土地

東京都世田谷区をご存知でしょうか?
渋谷区の隣に位置する東京23区の中のひとつです。
この地域は、高級住宅街があったり若者に人気な繁華街があったりします。とても不動産の価値が高い地域です。

画像1

ある日、私は「ある土地」の情報をみつけました。
その土地は世田谷区の中にありました。
土地の形はきれいな正方形。
前には10mくらいの幅のキレイな道路があり、車が多く通っています。

土地の上には、コンクリート造りの3階建の建物が建っています。
その建物の様子が少し変です。
なんだか「炭っぽい」というか、黒ずんだ汚れが目立っていて「新しくはない建物だなぁ」と一目で分かる外観です。

私は、『買い取った土地に戸建を建てて販売する仕事』をしています。
戸建デベロッパーと言います。
そんな私が、古い建物をみつけるとこう思います。

「この古びた建物を壊して、土地を分割して、それぞれに新築戸建を建てたら〇〇円くらい儲かるだろうなぁ(チャリーン)」と。
(こういうのを職業病というのでしょうか)

私は、この土地を買いたいと改めて思います。
土地を買い取る為には、土地に関する正確な情報を集めなければいけません。さっそく情報収集を開始します。

事故物件

この物件を調査していくと、悲しい事実が発覚しました。

「この物件内で火事があり、死者がでている」とのコトです。
※物件情報を特定されてしまうといけないので詳細はフィクションです。

画像2

火事の原因は、火の不始末です。
たばこの消し忘れとかは本当に気を付けないといけませんよね。

こういう不動産は、一般人に対してなかなか売れません。
なぜなら、購入者にとって心理的な負担が大きいからです。
過去に火事があって死人も出ている物件に、なかなか前向きに「住みたい!」とは思いませんよね。

そんな土地事情を知って、私は思います。

「こういう不動産こそ、我々プロが買取るべきではないのか?」
「一般の人が住みたいと思うような土地に変えられのは私だけだ!(決してそんなことは無い)」
そう思った私は、土地を買い取るための準備を始めます。

社内営業

土地を買うためにはお金が必要です。
そして、お金を出してくれるのは勤め先の会社です。
つまり、必要なお金を調達するには、勤める会社に対して『お金を出して下さい。お金を出してくれたら儲かります。』と納得してもらう必要があるのです。
ここのプレゼン能力が高いと「土地を買える営業マン」になっていきます。

エリアは人気です。
土地のカタチもいい。
ちゃんと土地を分割できる。
ただ、ひとつだけ問題がある。
そう「過去の火事で死人が出ている」コトです。

この過去の事実を踏まえて「しっかりと利益が上がるのか?」という会社の「不安」を解消しないといけません。

この土地は、幸いにも人気の住宅エリアでした。
とにかく、ありったけのメリットとリスク回避の提案を会社に対しておこないます。(お金を出してもらうため)

「近隣には、商業施設や緑の多い公園があります。」
「立地条件は好条件です。需要のある不動産だと考えられます。」
「販売前には、神主さんにおはらい作業をしてもらいます。おはらいする様子を写真に残して安心材料のひとつとします。」などなど。。。

画像3

すべては「この土地はプロである私が買うしかない!(決してそんなコトはない。)」という使命感からきています。

会社からGOサインが出ました。
無事に不動産を買うコトができました。

「よし、まずはコンクリート造りの建物を壊そう。」私は思いました。
「炭っぽい外観の建物が無くなり、きれいな更地になることで、少しは火事物件っぽさが無くなるはずだ。」と。

人は視覚情報から多くの情報を判断しています。
イメージが大事です。

ただ、この建物の解体作業をキッカケに、私は多くのトラブルに巻き込まれていくのでした...

ご近所づきあい?

建物の解体作業時には、多くのクレームをいただきます。
やはり「騒音」とか「揺れ」とかって、まわりの人からすると、とても不快な思いをするものですよね。

ある日、解体屋から一本の電話がありました。

▼解体屋「イットさん、建物を解体していたら近所のおばあさんが話をしたいと言っていたよ。時間があるときにご自宅にご挨拶したほうがいいかもしれないよ。」
▼私「かしこまりました。」

私は思いました。「はい、クレームいただきました。」と。

建物を解体している時に、近隣から「話がしたい」と連絡があった場合、大体はクレームです。
クレームではなくとも、何かしらの「要望」や「相談」がありますから、慎重に対応しないとトラブルに繋がります。

おばあさんのご自宅を解体屋から教えてもらった私は、不安な気持ちのままチャイムを押します。

「ピンポーン」

▼私「解体屋からお話を聞いて、突然ですがご訪問させていただきました。近くの不動産を買わせていただいた者です。」
▼おばあさん「話があるから上がりなさい」

訪問した自宅からは、70歳くらい?の老婆が現れました。白髪まじりで落ち着いた雰囲気のその女性は、柔らかな表情で私を自宅へ招き入れます。
怒っているような様子はなく、私と単純に話がしたそうな雰囲気でした。

▼おばあさん「建物を解体すると、音と振動がすごわねぇ」
▼私「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
▼おばあさん「仕方ないことよね。古い建物は壊さないといけないものよ」
▼私「なるべく早急に解体工事を終わらせるようにします。」

おばあさんは感情的になる様子こそ無いものの、言葉の節々に不快感を募らせているようでした。
この時点で、全力でおばあさんの信頼を勝ち取りにいかないと、後に大きなトラブルに繋がる可能性があります。
私は、この自宅訪問にしっかり時間を使って「おばあさんが本当に言いたいことは何」なのか、ヒアリングすると決めました。

▼おばあさん「ところであなた神様って信じる?」
▼私「はい?」
▼おばあさん「神様に対して、ちゃんと生かされていることの感謝の気持ちを伝えなくてはいけませんのよ」
▼私「はぁ。」

なんか違う方向に話が始まりました。
解体についてのコトを色々と言われると思っていたのですが、時々「関係の無い話をするご近所さん」もいらっしゃいます。

個人的に「関係の無い話をしてくる人」の心理は”寂しいから話相手が欲しい”だったり単純に”嫌がらせ”に近い気持ちがあるのかなと思っています。

今回のおばあさんのケースは「寂しいから話相手が欲しい」だと推測しました。なぜなら、ご自宅のお部屋の様子を見ると1人で住んでいるような印象を受けたからです。

▼おばあさん「人に悪いことをすると、自分に返ってくるのよ。」
▼私「はい。そうですね。」

私は、こういう場合は話をとことん聞き込みます。
(というより、聞いてあげます)

「時間がないから」という理由で、話を切り上げる営業マンもいますが、どちらかと言うと人情派なのかもしれません笑

ただ、話を聞いていると何やら私を説得するような言い回しになっていくおばあさんの様子に違和感を覚えました。

▼おばあさん「あなたはもっと○○をすべきよ」
▼私「はぁ。。。」
▼おばあさん「もっと幸せになりたいなら〇〇に入らない?毎週月曜日に教会へ行くの。そこで〇〇をするの。」
▼私「教会ですか?」
▼おばあさん「私と一緒に幸せになりましょう。」

おばあさんは、私をなにかの組織に勧誘してきます。
神様を信じたり信仰深い人に対して抵抗はありません。
ただ、おばあさんが一方的に勧誘してくる様子に、私はどんどん薄気味悪く思っていました。

▼おばあさん「〇〇の組織に入りましょうよ。私もお世話になっているけどとてもいいものよ?」
▼私「え。えぇ。汗」

なぜ私を勧誘するのか?全く意味が分かりませんでした。もう恐怖です。

さらにおばあさんは、おもむろに自宅のキッチンへ歩き始めます。
なにやら、冷蔵庫をゴソゴソとあさり始めました。
そして、ラップに包まれたお皿を手にしながら、私にこう言います。

▼おばあさん「よかったらこのケーキ食べていきなさい。」

画像7

(いや、怖。。。笑)

中に何が入っているのか?いつのモノなのか?
得体の知れないケーキを差し出されました。
なんでケーキを食べないと行けないのか、全く意味が分かりませんでした。

私は今、薄暗い自宅に招かれて、変な組織に勧誘されて、得体のしれないケーキを差し出されているのです。このおばあさんは怖いです。

一刻も早くこの家から立ち去りたい私は、うまく言い訳をしてケーキをお断りします。
テイのいい挨拶を終えて、恐怖の館(おばあさんの自宅)を後にしました。

それ以降、おばあさんから連絡が来ることはありませんでしたとさ。

不動産を買い取ると、ご近所づきあいはつきものです。
「普段お付き合いしない人」とも関わる必要があります。
これは仕事をする上では、避けては通れない道ですよね。

私の中での恐怖体験を、ひとつの例として記しました。
「こんな人もいるんだよ」ということです。
そして、この物件での近隣トラブルはこれだけではありませんでした。。。

責任のなすりつけ合い

さて、私が買った土地の上には、頑丈なコンクリート造りの家が建っています。
こういう建物は、「非常に頑丈な支え」となるものが地中部分に埋まっています。基礎といいます。

これがまた厄介で、地中をほじくり返して壊していく必要があるのですが、解体する時の振動がすごいのです。
この基礎を解体している時に、問題が起きます。
お隣の塀にヒビが入ってしまったのです。
(解体が原因で、衝撃が走った影響です。)

もちろんお隣さんはお怒りになりますよね。
「塀にヒビが入った。直してほしい」それは分かります。
ただ、たまに「解体が原因じゃない部分までも修理をお願いされる」ことがあります。

つまり「老朽化によるひび割れなども、解体の時にできた傷だと主張する」わけです。

画像6

みなさんは、自分の土地の塀のひび割れを細かくチェックするコトなんてありますか?ありませんよね。
解体前からあったひび割れなども、解体をキッカケにできたものだと本気で勘違いする人もいるのです。(仕方ないとは思いますが。。)

プロはこういったトラブルも想定します。
解体前に、お隣の塀の傷を写真におさめるのです。
こうするコトで、『解体前からあった傷か、解体をキッカケにつけてしまった傷か』を把握するコトができます。

今回、お隣が主張してきた修理は、あきらかに解体前の傷でした。
私の解体が原因で傷ついたものではないのです。

『冷たいな』と思われるかも知れませんが、この傷は私達が修理する義理がありません。
はっきりと断ります。

こういう場合は「この傷は解体前からのものでした。」と写真を見せながら丁寧に説明します。
ただ、人間の心理は難しいもので、なかなか納得してもらえません。
「ついでに直してくれてもいいじゃないか」とか「迷惑をかけたんだから直して当たり前だ」みたいな気持ちが芽生えるのかも。。。

解体の時に傷つけた塀は修理しました。
ただ、お隣さんはそれだけでは納得しません。
クレームを入れてくる毎日です。

私は、白黒はっきりさせたいと考えました。
お隣さんに時間をつくってもらい、決着をつける日を設けました。

その日は午前の10時、現地にある傷ついた塀を前にして”解体屋”と”私”と”お隣さん”3人で立ち会います。
「今日でこの話を終わりにするぞ」と意気込んだ私は、朝一から話合いを開始します。

▼私「この写真を見て下さい。この傷は解体する前から存在していたものです。」
▼お隣さん「そんなはずは無い。解体が原因で傷ついたものだ。修理するまでは納得できない。」
▼私「すみません。不当な要求は、弊社としては断固としてお断りさせていただきます。申し訳有りませんがご理解いただけませんでしょうか?」

こんなやりとりで、会話は平行線をたどります。

▼お隣さん「何を言っているんだ。すごい揺れだったんだぞ!責任をしっかりとってもらうぞ!」

そうです。お隣さんの主張を聞いていると、解体時の不快感から「腹いせ」みたいな意見だと分かりました。
もう「傷を直してほしい」とか、そういうことでは無くて、嫌がらせに近い感情です。

気持ちは充分に分かるのですが、解体が原因でできた傷はしっかりと修理しました。
やることはやったのです。
ココで私が折れて、お隣さんの要求を飲むのは筋違いです。

▼私「申し訳ありませんが、解体時にはご迷惑をおかけしました。ただ、今回の解体に無関係の傷は、弊社では修理できません。」
▼お隣さん「写真を見せられても分からない。とにかく直せ!」

私は、きっぱりと断りをいれて今回の話を終わらせようとしました。
しかし、爽やかな朝日を浴びながらの話合いとは対照的に「お隣さんの言い分は非常にジメジメしたもの」でした。

私は思いました。「このままじゃラチがあかない。。。」

そして、私は言いました。

▼私「お隣さんの言い分は分かりました。そこまで言うなら直しましょう。しかし、傷を付けた原因は解体屋です。解体屋にお金を出してもらって傷を直してもらいましょう。」
▼解体屋「!?」

解体屋は、黙って私とお隣さんの話を聞いていたのですがびっくりです。
私によって、急にお隣さんの塀の傷を解体屋のせいにされたのですから。

▼私「解体屋さん。あなた達の責任でこの傷を修理して下さい。」
▼解体屋「それはおかしな話です!とんだとばっちりだ!俺達は、あなたの会社から依頼されている。責任はおたくの会社にあるはずだ!」
▼私「いえ、あなた達の作業が原因で傷をつけている。これはあなた達の責任だ!」

私も解体屋も感情的になっていきます。

▼解体屋「いい加減にしろ!」
▼私「そっちこそだ!」

画像5

私と解体屋は胸ぐらを掴む勢いで喧嘩になりました。
近隣には、私と解体屋の怒号が飛び交います。
もう、お隣さんはそっちのけです。

責任をなすりつけ合う私と解体屋は、まわりからみたら惨めなものだったでしょう。
解体屋も職人カタギなので、「間違っていない」と思ったら引きません。
頑固強さもあり、ガラの悪さもあいまってすごい迫力がありました。

修理するのは解体屋か私の会社か、お互い口角泡を飛ばし合って10分ほどたった頃でしょうか。
私達の喧嘩に見かねた”お隣さん”がこう言います。

▼お隣さん「もう分かった!分かったから怒鳴り合うのはやめて下さい!今回の話はなかったコトにします。塀を修理してくれたから今回の話はこれで終わりにします。」

あまりにも私と解体屋が喧嘩するものだから、お隣さんは呆れて修理の話をなかったことにしてくれたのです。(というか、こちらの責任では無いのですが、、、)

▼私と解体屋「フー。フー。」

鼻息を荒くした私と解体屋も、お互いを睨みつけながらも怒鳴り合いをやめます。

気がつけば、話し合いは1時間程にわたっていました。
私と解体屋とお隣さんの話し合いは、変なカタチで幕をおろしました。
とは言っても、無関係な傷の修理をしなくて済んだので結果オーライです。

▼私「お隣さん。解体では、不快な思いをさせてしまい、あらためて申し訳ございませんでした。」
▼解体屋「失礼いたします」

お隣さんとの話合いを終えた私と解体屋は、一緒に同じ方向へ歩き出します。
お隣さんから見えない距離まで離れると、帰り道の道中で私と解体屋はおもむろに目線を合わせます。

そしてお互い微笑みます。

−−−−−−現地到着30分前−−−−−−

▼私「もし、お隣さんがどうしても言うことを聞かずに不当な要求ばかり言うようだったら、解体屋さんのせいにします。お互い、責任をなすりつけ合いましょう。演技で喧嘩するのです。今回の話合いの目的は、お隣さんの不当な要求を飲まないことです。決して”お隣さんを納得させる”コトだけが、問題を解決する方法ではありません。”諦めさせる”とか”呆れさせる”という手段もあるのです。」
▼解体屋「なるほど。分かりました。演技ですが本気で怒鳴ります。」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

私と解体屋は、登りきった太陽を背に、軽くハイタッチして現場をあとにしたのでした。

画像4

そうです。あらかじめ私と解体屋は打ち合わせしていました。
全力で説明しても、お隣さんには納得してもらえないことがある。
近隣問題において、お隣さんの言い分が感情論になっている場合は、理屈で納得してもらえないのです。

この場合は、違う手段をとって問題解決する必要があります。

終わりに

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
これが世田谷区の土地を買うまでのエピソードです。

この土地に建てた戸建は高値で売れていきました。
不動産の買取にも、多くのドラマがあることを知ってもらえたら幸いです。

今後は、私の人となりが分かるような記事も書こうと思っています。

ではまた。


サポートをいただけると記事を書くモチベーションになります! ビジネスのヒントになる記事を、もっと書きますね(^_^)