メモ

「こんなことして何になる?」


その言葉が呪いのように何度も繰り返される。それと同時にその言葉を言った張本人、ギュスターブ・フローベールの顔が浮かんでくる。芋づる式に1848年の混乱したパリの光景が、国民労働場で穴を掘っては埋める労働者の姿が、彼が母と見たクリスタルパレスの中央にそびえたっていた楡の木からまいおちる落ち葉が、ルイーズ・コレの胸やスカートや蒸れた体臭が、寝息をたてるリュシウク・ハーネムが、記憶の奥底から引っ張り出されてくるのである。僕にとってのニヒリズムはそういったものと深く結び付いてしまっているのである。そういうものが僕にとっての虚無なのである。

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