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気付いた?マジック:ザ・ギャザリングの番組にあらわれた暗号【he/him】

記載がない場合、記事中のカード以外の画像は【背景解説】世界構築――『団結のドミナリア』からの引用です。

いってつ(he/him)です。

世界最大規模のカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」(以下、マジック)。その最新セットの発売を9月に控え、マジックのファンたちはいろめきたっています。

そんななか、【背景解説】世界構築――『団結のドミナリア』と銘打った番組が配信されました。この番組では新セットの舞台となる「ドミナリア」という世界の背景設定について解説されています。初出となるアートも多数披露され、マジックファンは興奮が止まりません。

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一方僕は動画冒頭にあらわれたJimmy Wongに衝撃を受けた。彼の名前の下に、(he/him)と書かれています。これはいったいなんでしょう?

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他の出演者には(she/her)との記載も見られた。

「he」と言えば男性に対して用いる三人称。ウィザーズはわざわざ出演者に「ウォンは男だよ」と紹介するようになったということでしょうか。

こうした表記は日本国内ではまだまだ見かけることは少ないですが、国外のSNSではこうした表記をするインフルエンサーやセレブが増えています。こうした表記をわざわざする意味は?ちょっと考えてみてください。









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《ニコ・アリス/Niko Aris》がヒント。
髭を生やしているがシルエットは女性的。
男性でも女性でもないノンバイナリーとして描かれている。








この一見不必要に思える表記。これはジェンダー代名詞です。

ジェンダー代名詞とは

自分の代名詞がheなのかsheなのかを明らかにすることで、自分の性自認を明らかにしつつ、周囲に正しい代名詞で呼んでもらうことができます。

仮に、ジミーが「自分は女性」と自認していて周囲にもそう呼んでほしいなら(she/her)と記載することでそれをアピールできます。性自認が男性でも女性でもないという場合には(they/them)を使うことができます。もちろん、男性でも女性でもあるという人も。

なぜ「ジェンダー代名詞」が必要なのか

単純に、相手の性別を勘違いして会話をしてしまうことは失礼です。
「電車の中で目の前の老人に席を譲りたいがおじいさんかおばあさんかわからず声をかけられない!」という笑い話がありますが、相手の性自認がわからず「お兄さん」と呼べばいいか「お姉さん」と呼べばいいかわからない場面に出くわしたことがある人もいるのではないでしょうか。

ジェンダー代名詞を明記しておけば、そうした気まずさ、コミュニケーションエラーを回避することができます。

世の中には男性として生まれ、ファッションは中性的だが、性自認は女性という人もいます。そういった人物は社会の中で、どうしても男性として扱われがちです。……しかし職場の朝礼で、あるいはオフ会で「私のことは女性だと思ってほしい!!」と声高に宣言するのも気が引けます。周囲にも不必要な罪悪感を抱かせるかもしれません。そこでSNSでさりげなく自分の性自認をアピールしておくことで、”彼女”にとっても周囲の人々にとってもよりよいコミュニケーションがとれるようになるのです。

twitterなどで(he/him)、(she/her)、(they/them)でユーザー検索すると、たくさんのアカウントが見つかります。「MTG」なども含めて検索すると、たくさんのマジックファンやインフルエンサー、アーティストの姿も。

《三度の登場、ウォン》

しかし、ジミーは見た目も男性ですし、わざわざ(he/him)なんてつける意味があるのでしょうか?

あるのです、大きな意義が――

なぜウィザーズはジェンダー代名詞を表記したのか

生まれ持った性と性自認が一致している人(シスジェンダー)がこうした表明をすることにも大きな意義があります。

多くの人がジェンダー代名詞を表記することで、「生まれ持った性と性自認が一致しないことは特別なことではない」という認識を広めることにつながります。シスジェンダーもジェンダー代名詞を表記することで「マイノリティーの存在を無視しない」ことを表明することができるのです。

今回、ウィザーズ(マジック:ザ・ギャザリングの制作会社)の番組でジェンダー代名詞を表記したことで、こんなメッセージを送ることができたのです。

ウィザーズはLGBTQ+を無視しない。

先日もプライド月間に合わせてシークレット・レアーを発売したウィザーズ。売り上げの一部はLGBTQ+の支援団体に寄付されています。

マジックのファンコミュニティでは残念なことにホモソーシャルな一面を感じることがあります。つまり、排女性的であったり、同性愛嫌悪を見せる場面があります。

残念なことに……真摯な思いでマジックを楽しむ女性プレイヤーを「姫」「彼氏の付き添い」と揶揄したり、冗談で「ホモかお前!」と叫ぶ様を目にしてきました。

こうした何気ないふるまいは女性プレイヤーやLGBTQ+であるプレイヤーにプレッシャーを与え、イベントから排斥しています。彼らにそうした意図がなくても。彼らの多くは善人です。そう、ただ、ほんの少し配慮が足りないだけ……

しかし、こうした現状に反抗する声明を出せば、その時は自覚ある差別主義者が現れてコミュニティを攻撃します。マジックを中心に激しい論争が起これば、多くの人が疲弊します。論争には結論が出ないでしょう。が、結論がどうであれ、マイノリティーは身を隠します。

そんな中でウィザーズが発した暗号がジェンダー代名詞です。まだ一般的ではない言葉を使って、マイノリティーたちへメッセージを送ったのです。ウィザーズはともにある、と。

参考:「ジェンダー代名詞/プロナウン」とは? ノンバイナリーもシスジェンダーも全員が表明することの意義
ジェンダー代名詞についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。

最後に

《死に微笑むもの、アリーシャ/Alesha, Who Smiles at Death》
"手を取り合うことが私たちの歴史だ"
Secret Lair公式サイトより引用

いつかこの暗号が普及して、年齢や好きなフォーマットをプロフィールに書くのと同じくらい当たり前になることを僕は願っています。

最後に。もしあなたやあなたの周囲の人がLGBTQ当事者で、相談相手が必要なら僕に声をかけてください。ツイッターのDMは開放されています。discordでもOK。秘密は守ります。

この記事を書いたのは

いってつ
脚本家、小説家、ライター。
映画と写真、マジック:ザ・ギャザリングが好き
なにか書かせたい人はDMかskebへ
(he/him)

twitter ittetu_
discordID ittetu#0237



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