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【物語】アリス、母の誕生日を祝う

母の誕生日は4月1日、そうエイプリルフールです。

何をすき好んでこの日に生まれてきたのか。


チビ家系のため体力や成績が追いつかないことを懸念したおじいちゃんが、1つ遅い学年に入れようと本当は3月末に生まれた母の出生を、4月1日生まれと役所に届けたらしいのです。

4月1日までは前年度のクラスになるのを知らなかったおじいちゃんのおかげで、結局遅い学年には入れずいつも一番前だったそう。

昔のことだから、役所も産院も適当だったのかしら。

どう届けようと親の意のまま。

母はほんとうは何日生まれだったのでしょうね。

おばあちゃんがまだ元気なころに聞いてみたけど「覚えてない」って。

そりゃそうです。

なんたって母は5人兄弟の2番目で、おばあちゃんの頭もハッキリしなくなっていましたから。



母の誕生日と父の誕生日。母の日と父の日。例年全てをいっぺんに済ませていたけれど、今年に限っては、里帰り中の娘が自宅に戻る前に顔を出すというので、急遽3月中に誕生日祝いに出かけました。

遠くへ嫁いだ末娘はめったやたらとは帰ってきません。それを知る母も父も満面の笑みで迎え入れます。

いつものように仏壇にお線香をあげていると、突然母が話しかけてきました。

「ばっぱのお墓参りに行ってきたらどおなの?ばっぱの命日もまもなくだし。ホントにこのばっぱには散々いじめられて、最期はわざわざ私の誕生日を選んで逝ったんだから、逆にお見事だよねー」

つい先程まで、娘から受け取った誕生日祝いの花束を目の前に悦に入っていた母はすでに真顔です。

「えっ!そうだっけ?命日は4月1日だった?」


小さい頃から嫁姑の間で右往左往していたせいですぐに真っ直ぐな反応はしない癖がついてます。

けどいや、うっかりしていた。そうだったかもしれない。。。。

内心慌てながらも

「あ〜確かそうだったよね〜」と平静を装う。

「せっかくだからお墓参りも行ってきたらどお?」

「うーん、そうだね。たまにはお墓も行かないとね!でもさー、そもそも誕生日は4月1日じゃないんだよね?」

「・・・・、あら。そうだね。よく気づいたね〜〜〜😀」

やった!💪 これで一つ、愚痴を回避できるぞ。




実家のお墓は車で30分。懐かしい小学校の近くにあります。

小学校の手前には、あーそうそう、ここに駄菓子屋さんがあったっけ。

あれ?閉まってる?閉めちゃったのか?いやーもったいないな〜



あれは確か小学校に入学する前日のこと。

今でもはっきり覚えてる。私のくじ運の悪さはここで証明されたんだった。

「ねえ、ばっぱ。明日入学式だから、その前にくじをひきたいんだけど」

「ん?なんだそれ?」

「だからさ、あの駄菓子屋さんのくじ。5円だから。5円ちょーだい。」

平日は祖母と留守番だった。

お小遣いは使うたびにもらうシステムだ。

それもばっぱに言えば良いが、特に使いたい用事がなかったので滅多にないことだった。

「ふーん。んじゃ明日から小学校だし、ほれ。」

渡された5円を握り締めて駄菓子屋に向かった。

お目当てのくじはイチゴの飴。

白い糸がたくさん出ていて、そこから一本引っ張る。

黄色い印がついた糸を引っ張るともう一回引っ張れる。

前に弟が当たったことがあるやつだ。

弟は甘えん坊で臆病者でしょーもないやつだ。

男のくせに可愛い顔をしているので母から可愛がられている。

弟が当たりくじを引いたんだから、私が当たらないわけがない。


「おばちゃん!いちごのくじね!」

「あー、はいよ。」

突き出された白い糸は、この前見たときよりたくさん出ていた。

明日から小学校だし、まだ幼稚園にも行ってない弟に負けるはずがないと思いつつ、あまりの糸の多さにびっくりした。

「あれ、今日は糸多いね。」

「新しい箱開けたからね」

そうか、この前とは違うんだ。

えー、大丈夫かな。。。。

いや、大丈夫!!!!

「ん〜〜〜〜〜、」

どれにしようか散々迷い、決めかねていると

「あー。決まったら言って」とおばちゃんはよっこらしょっといつもの椅子に座りました。

あちゃー、おばちゃん足悪いからな。立ってるのしんどいんだね。

あんまり待たせてもダメだよね。

ええい、んじゃこれでいいや!

「おばちゃーん、決まったよー」

「おー、早かったね。んじゃこれね。」

おばちゃんが糸を引っ張る

ひっぱる

ひっぱる

なかなか印はでてこない。

あ、赤い色が見えた。

あれ?黄色じゃなくて赤い印にしたのかー

なんたって新しい箱だからね。

「あら、残念。はずれだね」

おばちゃんの声とともに糸のさきにくっついた真っ赤ないちごの飴が目の前に差し出された。

えっ!!赤い印に変わったんじゃないの〜〜〜?

がっくし肩を落とし、家路についた。


「おかえり。くじはどうだった?」

「はずれた。新しい箱になってて、糸がたくさん出てたよ。」

「あー、んじゃ確率がわるかったね。」

「へ?カクリツ?」

「箱の中の当たりの数は決まってるだろ。」

「なにそれ?」

「うん。そだなー。小学校に行ったら習うだろ。」

「え、なになに、なにそれ!」

「んじゃ、パパが帰ってきたら聞いてみれ。」


その夜父に聞いたかどうかは覚えていない。

覚えているのは小学校に上がるということは暗雲立ち込め、なんだか不吉な予感のするものっていうことだけ。



お墓に手を合わせながら呟いた。

「ばっぱ、あの駄菓子屋さん閉めたんだね。小学校に上がるときは暗澹たる気持ちだったけど、おかげでその後やってきた新しい生活はけっこう良いものだったよ。期待しない分プラスにフレたのかもね。あの頃はいつもありがとだったね。しばらく来なくてごめんね。また来るね。ばいばい」


そうか、私がイチゴで感動しないのはここに原因があったのかもしれない。。。。





この記事はこちらの企画に参加します。

拝啓 あんこぼーろさん、ぎりぎりできました!よろしくお願いします😀



さらに、サークルの毎月のお題、こちらも兼ねてます。




#あのころ駄菓子屋で

#25時のおもちゃ箱







今日も最後まで読んでくださりありがとうございます! これからもていねいに描きますのでまた遊びに来てくださいね。