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取締は動かない

20220729

金曜日




 明日の休出が決まっている金曜日。


 朝から、というか昨夜から、Nが取締に怒っていた。

事の始まりは昨日、Nがラミネートをかけている時に取締がラミネート室に入って来て、何か声をかけていた。

しかしラミネートをかける音の方が大きくて何も聞こえない。
もう一度言ってくださいと頼むと、取締から「F社さんのなんだかを机に置いといた」と。
注文書と言ったと思われる。



 夕方の休憩にやっとラミネート室から出て来たN。

何時まで残業するのかを表示しに事務所のホワイトボードの所へ行くと、
取締から「さっき(F社)の殿が気にしてたよ」と言って来たという。
F社の営業は殿だ。

Nが「殿(社長)いるんですか?」と聞くと、「いるよ」と返答。
Nは休憩を後回しにしてそれの処理に取りかかる。



N「つまりやれってことでしょ!?急ぎなら言ってよ!」

今朝になってやっと愚痴れたようで、かなり根に持っている。

取締とNは元から仲が悪い。
丁重な扱いを求める繊細な取締と、人の思い通りに動く事を自分が損してでもやりたくないN。

表面上はちゃんとやれるが、ピリピリピリとした空気はある。
軽く話すだけで微弱な電流が見える。




朝礼。

 事務員のTナカが梱包用の新聞紙の募集を呼びかけていると、インターホンが鳴った。

上司である取締は相変わらず動かない。

Tナカの呼びかけがまだかかると察すると、取締は迷いながら体をインターホンの方向へ向けた。

呼びかけが終わったと同じくらいに取締が事務所のインターホンへ向かい、
Tナカが後ろの業務室のインターホンを目指した。

さぁどっちが取るのかな。


結局対応に行ったのはTナカ。
朝礼に戻って来た取締に何か報告があるかと司会が振ると、何もない。

じゃあ初めからお前が行けよ。

マスクで助かった。
一連の動きから、取締の思考が透けて見えるようで笑ってしまった。


 取締は来客対応が怖いって事は全くなくて、単にTナカをコキ使いたいだけ。

さっきのNは「自分が損してでも」だが、取締は「他人に迷惑がかかろうとも」

インターホンだからちょっと猶予があったが、電話だったとしたらあんなに待たせたら切られてしまう。
そんな時は、朝礼を中断してでも電話に対応しなかったTナカのせいとして取締の脳は処理するようになっている。
その処理を手助けするように何らかの形でTナカへの当たりを強くする。
思考に行動が伴えばそれがその人の記憶になる。

これで被害者面が出来るぞ。



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