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Tナカの退職

20221223

金曜日



 ついに訪れたTナカの退職日。

ボスは韓国のアイドルを追いかけて行ったので今日はお休み。
昨日の内に挨拶は済ませたらしい。
こういうイベントにムードメーカーがいないのはつらい。






朝礼。

 Tナカの挨拶。
長くいた人、しかもかなり身近で仕事をしていた人の退職ともなると、
思い出がいっぱいの殿(社長)のお喋りが炸裂するはずだったが、姿を表さなかった。

実は途中からこっそりいたらしいのだが、一言も喋らず存在感を消していたらしい。

気が付いた人がいつもの様子と違って変な感じだったと言っていた。

不気味だ。
退職の原因が自分の妹(取締)だという自覚があるのかないのかは知らないが、
身内贔屓に走っているのはその走り方で分かる。
前を向かずに走るのは危ないってみんなが知っている。





O「今日荒れるかもよ」

不吉な予言をするO。わたしもその予言が当たる気がするぜ。

N「お花誰も買ってきてなかったの」

わたし「え、だって何年以上は花贈呈って決まってるじゃないですか、会社のあれで」

どれだ。

O「(使いっ走りの)ペロリさんも何も言われてないって」

わたし「えー」


 ベッキー達が集金して用意してくれた贈り物(感謝はしてたけどこうなると更に感謝だわ)はあるが、
花は会社の互助会から出ると思っているから用意していない。

そう、5年以上は互助会から花が贈られる。
Tナカは8年いたらしいので対象者のはずだ。

10年以上はアルバムって書いてあったのを覚えている。
いればいるほど無駄なものを……と思った記憶がある。



 そういう指示をするのは取締のはずだ。Tナカの上司でもあるし。

本当にやんごとねえ。

Tナカも花が欲しい!って訳ではないだろうけどさ。
会社じゃなくて互助会から出るやつだからそんな気持ち悪くないはずだったのよ。
確か取締も互助会に入ってるからちょびっとは気持ち悪いかもだけど。
じゃあいいか。






午前中。

 ラベルプリンターをやっているパートさんが苦戦していた。

お客さんから印字する内容が入ったExcelデータの支給(と言うが、指示書なだけ)があり、
それをプリンターで出力しているらしいが、
プリンターから出力される文字の大きさが今までと違うと言う。

ラベルプリンターのことは知らないが、
「文字」のことだからと、パートさんは上司のOと共にわたしの元へやって来た。

ラベルプリンターに触ったこともないど素人に分かるべか。





 はい、前回の文字と今回の文字を見比べてみました。が、
ど素人の目には同じ大きさに見える。

そう伝えると、文字を頭で揃えた時、文字のお尻が合わないからサイズが違うと。

「高さ」ではなく「幅」のこと?
なら話は簡単だ。


IIIII
MMMMM

極端に書くと、五文字の「I」と、五文字の「M」を置いた時に、
頭揃えで文字数も合っているのに、「I」の方が短くなる。


KINOSEIDEHA
NAINODESUKA

これも文字数は同じ。でもお尻は揃っていない。
文字によって幅が違うのでお尻がバラつくのは仕方がない。

でもパートさんは20年近くこの仕事をしている。
今更この疑問を持つのは違和感がある。



パートさんは「いやいや、文字サイズが違う」と。

やはり違うのか。
ここまで言うのだから何かがあるのだ。


パートさんの考えてることが丸出しになれば伝わるんだろうけど、言語を通すことによって情報がごく僅かに削られる。

「サイズが違う」

問題とヒントが同じだ。
ずっとこれだ。上司のOは分からないのか。

ただ静かに付き添っているだけのOは、完全にお任せ状態で何も考えちゃいない。
それはパートさんにも見抜かれている。
力関係がおかしくなる悪循か……まぁいいや。




 漠然と何を直せばいいのか分からないまま、うちの設定か、お客さんのExcelの問題かを突き詰める。
ちなみにわたしはExcelのこともなんも分からん。

 今回貰ったお客さんのExcelをOに見せてもらうと、いつもよりフォントのサイズが少し小さいし、書体もいつものMS系のゴシックではなかった。

パートさんとOはこれが影響している!と光明を見出した。
わたしはそれは影響していないと思っている。
そもそも影響が出ているように見えていない。


 Oは早速お客さんに連絡して文字サイズを変えて送り直して貰おうとしている。
待て待て、迷惑迷惑。

わたし「今回貰ったExcelあるじゃないですか、それに手入力でサンプルと同じ文字を打って、おかしければ確定するじゃないですか」

サンプル(前回打ったやつ)と全く同じものが出てくると思うが。


パート「データを触ってもしもがあると怖い」

O「(貰ったものだから)それは出来ない」



どうしたいねん。


何かあっても保存しなきゃいいじゃん、と気軽に言うてみたけど、
アカンアカンらしい。

アカンくないよ。


わたしはスーッと離脱した。



 Oは文字サイズと書体を前回と同じにしてExcelを送り直すようお客さんにお願いしていた。

きっとそんな事くらいそっちでやってくれって思われてる。
向こうは指示書を渡してるだけの意識なんだから。



 今後のために、全選択で一気にサイズと書体を変えられる事をOに教えた。

すごい!と言っていたけれど、もう忘れたっしょ。






17時過ぎ。

 ベッキー達も花束の贈呈がない事実を知る。
顔つきがキツくなる。

そうなるわな。

わたし「帰りに渡す可能性もありますから」

ポジティブなことを言ってみたが、これはもっと高い所から落とす為の飛翔だ。

みんな怒りでザワザワしている。

わたし「玄関の所で渡すのかもよ?可能性はまだあるよ」

放っといても高度は上がるが。

O「(取締が追いかけて)待ってぇ!って?笑」

わたし「待ってぇ!って。チャンスはまだある」


もうわたしには見えない高さだ。






定時。

 Tナカのお見送り。

結局最後まで花束は無く、主な人達が玄関に集まってお見送り。

玄関は階段のすぐ下。誰が降りてくるのか分からない。


 一番目に足音を鳴らして現れたのがベッキー達。
お見送りの仲間に入った。

待っている間、壁に貼ってある社内の無事故記録のカウントが0になっている事に気がついたヤレバ・デキルジャン。

ヤレバ「カウントするのやめたんですか?」

天気娘「ううん、今日0になったの」

O「今日0になったの」


え。

誰かは教えてくれなかった。隠したいってこと?
やはり何度も何度も事故ってる醤油おじさんか?
違ったらすまん。



 次に、ゆっくりした足音に天気娘が「来た来た!」と反応して玄関のドアを開ける。寒い。

i藤さんだった。(殿の弟)

i藤さんが誰のお見送りしてるのかと聞いて、お見送りの仲間入り。

なにやら重い病気で、あまり会社に来れないから社内の情報に疎いのは仕方がないのである。


手に包帯巻いてんな…………。

すまん。




 三番目にやっとTナカが現れた。

拍手でお疲れ様を言い、外に出て人間トンネルを潜ってもらい、お見送りした。



 殿と取締は事務所にいて、一切顔を出さなかった。

取締は悪い奴だから分かるけど、殿のそのスタイルはなんなんよ。
こういうイベント大好きだから通常ならお見送りに混ざっていた。

取締に対する配慮なのか、
取締の「被害者は私の方!」アピールを鵜呑みにして、Tナカを悪者として見送らなかったのか。


O「カメラで見てたんじゃない?あそこ映ってるから」

社内の数ヵ所にある監視(防犯用)カメラ。
玄関を出たところにも設置してある。

ねぇ、あれって映像だけだよね?

音声入ってないよね???





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