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なんて意地悪なんだ

20221220

火曜日



朝礼後。

 珍しく、Tナカが取締の事で愚痴っている。
あまり愚痴るタイプではないが、余程のことがあると報告しているようだ。

上司の取締が引き継ぎの点でやってくれない事があるらしい。
それは余程のことだ。

新人にはお客さんの事情はまだ難しいから、上司の取締に引き継ぎたいと言うと、
「新人さんに引き継いで」と跳ね返されてしまったという。

絶対にこうなると思った。
取締は意地悪モードじゃない時もこういう人だ。

Tナカは「もうちょっと交渉しなきゃ」と言っていた。
Tナカはほんと大人。



 整理すると、この会社は取締の一族が経営しているので、結果的に自分達の会社の質に関わってくる。

引き継ぎがアレで新人がアレレ?ってなって、この会社アレレレ?って評価されてアララ〜なことになる。
新人じゃなくても、事務の引き継ぎが出来ていないおかげで内部からの不満が噴出するパターンもある。

でも一族はなんのその。

なんの園……
株式会社なんの園にしようかな。日記の中では。
色々と軽視している感じが良い感じ。
元より華やか。



 退職する会社なんて、必要書類が後から出てくるかもしれない期間の1、2年持ってくれれば後はどうでもいいと思うが、Tナカは後の人達が困らないように配慮してくれている。

じゃあ引き継ぎにならない引き継ぎでいいんだな?とヤケクソにならないのがTナカの良さだ。
これが普通?






15時。

 朝から疑問に思っていた事をOがTナカに聞いてくれた。

「新人さん休みなの?」

不安そうに聞くと、普通に休みだと。
取締しか新人の休みを把握していないから、こちらは嫌な予感がしてしまうのだ。


Tナカが言うには、殿(社長)にも「休みか?」と聞かれ、
ボードに休みって書かないと分からないと取締が注意されていたらしい。

そりゃあそうだ。
取締が個人的に雇ってる訳じゃないんだから。

この前の新人事務員も1週間経たずに逃してるから、殿も我々と同じように「あれ?」とよぎっただろうな。




そして新人さんが休みだから、今日は絶好調にTナカに意地悪らしい。


 取締に交渉するなら殿の前がいいぞ。
殿の前では良い子演じてるから突っぱねることはしないし、
殿も忠誠心がある言葉には口添えしてくれるはずだ。






16時。

 ヤレバ・デキルジャンから、備品に貼るデータを作って欲しいと依頼が来た。

いつもは「いつしかさんに直接言うの嫌だからボスさんが言ってくださいよー」といった感じで、ボスから伝えて欲しそうにモジモジしているのだが、
今回はボスに背中を押されてやって来たヤレバ・デキルジャン。
嫌なことでも自分でやらなきゃな。


 どこかの取締役と違ってわたしは意地悪をしたことはないが、雰囲気でそうさせてしまうよう。

たまに喋る人には、害がない奴だと分かってもらっているが、
ほとんど関わらない人には年下は意味が分からなくて寝ている猛犬のように見えているらしい。(同じフロア内だとわたしが一番歳下)

それでわたし自身が困ることはないが、怖々とされるとこっちに正確な情報が伝わらないし、
攻撃こそが最大の防御なり〜な人には刺々しい態度を取られるので、
敵ではありませ〜んというアピールの為、なるべくゆる〜い口調で接するようにはしている。

ヤレバ・デキルジャンは、攻撃こそが最大の防御なり〜な人だった為、刺々しいタイプだった。



 わたしの背後に立っているが、話しかけられる前からピリピリしているのが画面の写り込みで分かる。
表情がもう戦前の武将のようだ。

首取られるわ。



ゆる〜く対応してみた。敵ではないという意思表明。


すると、ヤレバ・デキルジャンも口調が変化した。
3歳くらいの子どもに話しかけるような口調に。

タメ語と尊敬語が混ざり合う。

わたしの方が先輩という設定があるので、敬語を入れてくれているんだろうが、敬いすぎる感じになっていた。

会社の先輩に尊敬語はやりすぎな気が。
「なさる」とか「おっしゃる」とか。

まるで幼い王様にでもなったかのような気分だ。

敬うっていうのは上に礼を尽くすことだけど、
それを場に似合わないほどやり過ぎるっていうのは、実は尊大であることを表している。

そして表情は武将


尊敬語が出るのはわたしが何か喋った時だ。
ヤレバ・デキルジャンの説明を理解したよという意図で説明をなぞるのだが、
わたしが否定的だと決め込んで、分からせようとカーッと感情が激しくなる。
それを抑えようとして出てくるのが尊敬語だ。
全然尊敬されている感じはしないが。

ヤレバ・デキルジャン自身も感情に追いついていないのか、言葉がたどたどしくなる時がある。

そして表情は武将



まだ首狙われてんのか。



そう、ゆる〜い口調とか関係ない。
ヤレバ・デキルジャンはただただわたしのことが嫌いなだけなのだ。

そういう感情を向けられるのは気持ちの良いものではないけど、
その感情がわたしのせいで爆発するのは見たいと思ってしまう。わたしのせいじゃなくてもいい。
感情が爆発してる人は強烈なので、強烈が見てみたい。

昔あった、兵庫県議員の号泣記者会見は強烈だった。
あそこまでのはなかなか無いけど、人の強烈は面白い場合がある。






夕方の休憩。

 取締がニュースを見て、「イーロンマスクの顔ってよく見ると怖いよね」と言った。

わたしはちょっと言葉を選び、「……頭良すぎて怖いですよね」と返した。
取締は「ねえ」と相槌を打つ。


息をするように意地悪するお前の方が怖いのよ。



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