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今夜、すべてのバーで 4.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

これは若い人に限った話でもないけれど、お酒を飲む人が減った一番の理由は娯楽が変わったということだと思う。またそれは、スマホの登場がここにも大きな影響を及ぼしたと考えて恐らく間違いない。

便利になったのに、というよりも便利になったためにみんなが以前にも増して忙しくなった。
SNSだけでなく、技術が進歩し通信速度もどんどん速くなったことで動画など娯楽の選択肢が更に増え、それだけ可処分時間の奪い合いも激しくなった。
その結果、バーに限らず昔は娯楽の代表だった外食全般が恐らく消費者の優先順位上位から下がることになった。
外食離れやお酒離れの原因を一つだけ挙げるとすれば、ぼくはこれで間違いないだろうと考察する。それほどスマホ登場の破壊力は凄まじく、良くも悪くも世の中を変えたのだと思う。

ぼく自身、いまではすっかりお酒を飲むことを諦めたけれど、いつから諦めたのだろうと思い返すとそれほど昔のことでもない気がする。
新宿に店を出して間もないころ、ワインオタクのバイヤーさんにお誘いいただき随分とマニアックなワイン会に参加させてもらったことがあった。
そもそも下戸であるぼくがワイン会に参加ってどうよ、とも思うけれど、バイヤーさん曰く「絶対に大丈夫です。ビオワインですから」ということだった。

恐るおそる飲んでみると驚くことに本当に飲むことができた。
それまでといえば、命がけで飲んだとしてもグラスにワイン1杯が限界だったぼくが、何と2杯も飲むことができた。もうこれはぼく的には「浴びるほど飲んだ」量だし、ぼく基準で考えれば致死量と言ってよかった。
さらに驚くべきは、お酒を飲んでいるのにまったく頭痛にならないという初めての経験をした。バイヤーさんによると「おそらく頭痛の原因は酸化防止剤のせいですから。だからビオワインなら大丈夫なんです」ということらしい。勉強になります。

昔、勉強のために訪れていたフランス料理屋さんのランチには250mlのカラフェ入りワインが付いていて、せっかくだからと無理をしてグラス1杯は飲んでいたら、いつも帰るころにはフラフラだった。
市バスに乗り帰ろうとすると、気づけば家とは全く違う方向にあるバスの操作場(車庫)まで連れて行かれたことも3度、4度はあった。

今回飲めたとはいえアルコールであることに変わりなければ、ぼくが下戸であることも変わらないので簡単に酔っ払う。それでも頭が揺れはするものの意識はしっかりとあるし、いつものように眠くなるわけでもなかった。
ワインの良し悪しが分かるような高尚な舌をぼくが持たないため、正直なところ美味しいとまでは思えなかったけれど、とにかくぼくは「お酒が飲めた」という事実が嬉しかった。だからかなり浮かれて2杯も飲んだのだと思う。
そして帰りもちゃんと間違わずに新宿三丁目の駅で降りていた。

ところが、やはり浮かれていたのだと思う。
駅の階段を上がりきる一歩手前で、ぼくは階段を転げた。かなり痛かったし周囲の方が駆け寄ってきてくださったのでそれなりの段数だったと思う。
それでも、そのときのぼくは笑っていた気がする。

つづく

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