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ソナチネ

上り坂の住宅街を抜けると、元は学校用地だった荒れた広場がある。そこは今は雑草が生い茂る原っぱだ。長らく人の手を付けられていない原っぱはあらゆる草花が自由に生え、花を咲かせていた。どこからかやってきた小さな野うさぎも住み着いていた。ウサギたちはそこら中を自由に飛び跳ねて遊びまわっていた。5月には花が咲いてそこら中にいい香りが立ち込める。色とりどりの蝶々が飛んでいる。蝶々は香りたちと戯れて、ウサギは飛び回る蝶と戯れる。
無邪気なウサギたちは遊んでいるうちに、暗い茂みに落ちてしまう。そこには普段出会うことのない原っぱの主がいる。主は姿は見せないが低くおどろおどろしい声でどうしてここに来たのだと問う。遊んでいるうちに迷い込んだのだと弁明するも、その主は静寂が奪われたことにイラついている。ウサギたちは怖くなり帰りたいと思う。蝶たちに会いたいと思う。その時にいつもの花たちの香りが頭の上から降り注いでくるような気がした。帰り道がわかる気がした。
花の香りに導かれて、いつもの場所に戻る事ができた。ウサギたちはこれまでと同じように草や花の間を飛びまわり、遊びに夢中になる。それでも原っぱの主に会ったことは忘れない。

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