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ひとり

電車の窓から西日に照らされたビルが見える。
いつか同じようなところにいた感じがする。
そうだ、10年前だ。

東急沿線に住んでいて、あの時もひとりで黄昏時によく電車に乗っていた。慣れない体力仕事をして、型で抜かれたように自分の生活と接点のない勤務時間を過ごし、帰宅する電車の中でドアにもたれかかりながら外を見ていた。
身体は疲れていて、頭はあまり働かない。
知らない人に囲まれて、電車に揺られて、心は空っぽなのに、疲れた身体だけが充実していた。
あの時私は完全にひとりだった。
仕事以外の時間はほとんど1人で過ごしていたけれど、電車に乗っているあの瞬間がもっともひとりだった。

久しぶりに乗った電車の中で、あの時に感じたこととはしばらく無縁だったことを知る。
でも、また一瞬だけ戻ってきた。
でもそれは今は日常ではない。
この先歳をとってもまた同じようなところに戻ってくるのだろうか。
もしそうならば、せめて、今がそうであるように、10年前の自分をよしよししてあげられるようなほんの少しのゆとりを身につけてここに来たい。

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