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透明人間と僕

僕の友達は透明人間だ。

見えない手で、見えない顔をかく
なんで透明なのにそうしてるのがわかるかっていうと、彼は、透明に見えないように、たくさん着ているから。

夏でも長袖長ズボンは当たり前。
フードを被った上から帽子を被って、派手な色の手袋と靴下をはき、マスクとメガネをかける。

僕は、そんな彼を見るとむしゃくしゃする。

だって、透明人間なんて特別じゃないか。
それなのに、一生懸命特別であることを隠す。
すると余計に悪目立ちして、さらに特別であることを主張しているかのようだ。

しかも彼は謙虚で優しい。
僕のこのむしゃくしゃする気持ちは、本当は彼には関係ない。
消しゴムを隠したり、わざとぶつかったりするのは、彼が何か悪いことをしたからじゃない。
僕が嫌なやつだからだ。
それなのに、彼は、「ぶつかってごめんね」と言い、「怪我はない?」って聞いて、僕の筆箱の中身が見えても、わざとそれが入っているのが見えるように置いても、何にも言わない。

最悪なのは、こんな僕を「友達」だと言う。

あいつは特別で、あいつはいいやつだ。
僕はろくでなしで、嫌なやつだ。

だから、僕は毎日むしゃくしゃして、ぐちゃぐちゃで、苦しくて、何もかもが嫌で。
どうしようもなく自分が嫌になる。

「お前がいるとムカつくんだ。お前がいるとみんなが不幸になるだ。透明人間なら透明人間らしく、存在を消せよ。どっか行けよ。」

そんなの本気にすると思わなくて。

あれから本当に学校に来なくなって。

それで今朝、手紙がきたんだ。

-今まで友達でいてくれてありがとう
 みんなが幸せになりますように
 さようなら-

バカ。アホ。ドジ。クソ。
それは僕だ。
なんでこんなことを書かせて、なんで彼がいなくなって、なんで僕はここにいるだ。

僕は泣いた。
人生で初めて、泣いたんだ。

「ごめんよ。僕は意地悪でごめんよ。
いなくなった方がいいのは、僕なんだ。
僕は、ただ、友達が欲しかったんだ。
僕はただ、君が羨ましかったんだ。
君がいいやつだから。
できることならやり直して友達になりたかった。
ごめんよ。本当にごめんよ。」
僕は夕陽に向かってわんわん泣いた。
このまま溶けてなくなっちゃえたら、どんなにいいだろうと思った。

そしたら、肩に、温もりを感じた。
それから、もっと温かい声が僕を包んだ。
「僕たち、もう友達じゃないか」

「おい、いつも厚着のくせに、そんな薄着じゃ風邪をひくぞ」
できるだけぶっきらぼうに言うと、彼はふふふと笑った。

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