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らっきょうvs福神漬抗争

今日の昼食はカレーライスであった。

「カレーライスであった」などとわざわざ書くと、タマネギを飴色になるまで炒め、スパイスを調合し……と、本格的なインドカレーでも作ったように思われるかもしれない。
残念ながら(何が残念なのかよくわからないが)、今日食べたのは、近所でいくらでも買うことができるレトルトのカレーである。
そんなことをわざわざ書くのは、今日、カレーライスを食べずにいられなかった理由がいささか珍妙だったからだ。

事の起こりは、先月、散歩の途中に立ち寄ったイオンで見つけた「カレーに合う福神漬」にある。
「カレーに合う福神漬」という商品名。商品開発者の頭はどうかしているんじゃないかと思った。
カレーライスに合わない福神漬の存在を認めているかのようなネーミングではないか。
カレーライスに合わない福神漬に存在理由があるのか。
福神漬を存在させるに最も適したカレー以外の場所とはどこなのか。
と、どうでもいいことをイオンの陳列棚を見つめながらつかの間、考えてしまった。

結局は商品開発者の目論見、イオンの巧妙な商品戦略に敗北して、僕は「カレーに合う福神漬」なるものを購入して帰宅した。だが、なかなかカレーライスを食べる機会が訪れず、福神漬は出番のないまま戸棚の中に……。
それ以降、何度かカレーライスを食べたにも関わらず、福神漬は忘れたままだったことにようやく気づいたというわけだ。
福神漬がカレーに合うのかどうかを確かめるために、カレーライスを食べたのは、さすがに初めての経験だった。
長いこと生きているといろんなことが起きる。

世の中には「カレーライスにはらっきょう」という人が確実にいる。
一方では福神漬派がいて、「カレーライスに合うのはらっきょうか福神漬か」という話になると、どちらも譲らず、血で血を洗う抗争に発展する。
そんなところに「いやいや、添え物のベストはマンゴーチャツネでしょう」などと言おうもののなら、両側から挟み撃ちにされるかもしれない。
確かに高速道路のサービスエリア、昼時には混雑するチェーンのカレーショップ、なぜか存在する蕎麦屋のカレー、日本で発展進化したカレーライスには、やはり福神漬やらっきょうがピタリと合う。
永遠の双璧、二大派閥なのだ。

僕はソフトな福神漬派である。
らっきょうはなくても困らないが、福神漬はあれば添える。
両方のせて美味しく食べる博愛主義ではないけれど、どちらもないからといって悲嘆にくれることはない。
「福神漬がなかったら人生の3割ぐらい損した気分になる」と言われれば「まあそんな気になる気持ちはわかるよね」程度に理解を示すことはできる。しかし「福神漬のないカレーライスなど食べる気もしない」とまで頑なだと、さすがに呆れる。
何につけても原理主義者や狂信者は始末に困る。

かくして「カレーに合う」という商品名のためにカレーライスを食べる羽目になったが、結果としてはごくありきたりな福神漬であった。
「カレーにいちばん合う」となっていたら誇大広告とクレームも出たかもしれない。
だが、そもそも、カレーライスに合わない福神漬を探す方が難しいのだ。
当たり前のことをわざわざ書きいて購買意欲をそそる、イオンの商品開発の巧妙な作戦に、まんまとしてやられたのであった。
もちろん不味いことはなく、美味しくいただくことができて、満足でした。


(余白余禄)
これまで考えたことなかったけど、らっきょうって漢字だと「薤」って書くらしい。知らなかった。
たまにこういうアホな文章を垂れ流すのも気分転換になっていい。

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