エネルギー補給

これまでにフルマラソンを4回走っている。
場所は4回ともホノルルマラソンだった。

完走と言えば聞こえは良いが、最高記録は4時間20分ほどで、3分の1は歩いていたようなものだ。
マラソン選手が颯爽と走るのと比べたら、オートバイと三輪車ほどの差がある。「完走」だなんて偉そうに言うのも恥ずかしい。

フルマラソンと聞くと、真っ先に42.195kmという距離が頭に浮かぶはず。でも実際に出場してしまうと、この長さはそれほど気にならない。
もちろん大変な距離だけれど、周りには自分と同じようなスピードで移動している人たちが山のようにいるわけで、相対速度がゼロの状態でひたすら進んでいるだけだから、距離の感覚がなくなってしまうのだ。

では何が辛いか。エネルギーが切れるのか何より辛い。
脚が固まって前に出なくなったり、脇が擦れて血が滲んだり、足が鬱血して靴の中で大きく腫れるのも辛いけれど(それを見越して、素人ランナーは脇にワセリンを塗っておいたり、普段の足のサイズより1センチから2センチ大きな靴を履いて走る)、エネルギー切れで動けなくなるのははるかに辛い。

エネルギーが切れるなんて、平素ではお目にかからない状態だろう。
意識はしっかりしているのに、1歩前に足を出そうにも出なくなってしまう。出したつもりが足のサイズの半分にも満たないなんてことにもなる。
普段なら「腹減ったなあ。ああもう昼か」なんて感じるものが、10歩進むとエネルギー残量のインジケーターが一つ減るのが体感でわかる。
自分に残っているエネルギーの量が頭の中で映像化される(映像になるのは僕だけかもしれないが、感覚としては皆に共通しているようだ)。

残量がゼロになる前にエネルギーを補給するために、リュックを背負って走ったり、腰にポーチをつけて、中に食料を入れておく。
僕はチョコレートバーにアーモンド、カシューナッツ、キャラメル、ブドウ糖などを入れていた。
子供の遠足よりもはるかに多い。

遠足といえば「バナナはお菓子に入りますか?」が定番だけれど、エネルギー補給では熟れたバナナほど即効性があるものはなかった。
食べた瞬間に消えていたインジケーターが一つ二つ再点灯する。
こうして素人ランナーは長い散歩を経て、ようやくゴールするわけだ。

今年の東京マラソンは昨年に続いて一般ランナーは走れないらしい。全面的な中止もありそうだ。
状況が状況だけに仕方がないところもある。
なにせ抽選倍率が高すぎて、走ることがないまま病気になってしまったおかげで、この先も東京マラソンは経験できないが、風光明媚だけれど不便なホノルルを走ったからこそ、東京マラソンは一度走ってみたかった。
リュックやポーチを背負わずとも、ポケットにPASMOやSuicaを入れておけば、通りすがりのコンビニでおにぎりでもおでんでも食べ放題なのである。
タイムと体調を無視すれば牛丼だってラーメンだって食える。
一度でいいから、エネルギー切れを怖がらずに走るフルマラソンを経験してみたかった。


こう書くと、ダメなダイエットの圧縮版みたいに見えてくるなあ。

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