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『獏屋』

ウチのあたりにやってくる廃夢回収の業者は老舗の獏屋だけなのだが、これがなかなかの人気で、今では入社を望む若い人が後を絶たないらしい。
始末に困る夢がずいぶんと溜まったので、いつものように軽トラに乗った獏屋のお兄ちゃんが通りかかったときに、まとめて引き取ってもらった。
「そういえば買取とか、処分料とかって、どんな基準なの?」
ぼくはいつも、何も考えずに、溜まった夢をポイポイと渡していたことに気がついた。
「何かしら基準がないと値付けも、回収の代金も決められないよね。個数?大きさ?重さ? それとも時間の長さ?」
「それ、言っちゃいけないことになってるんすよね〜」
獏屋の兄ちゃんは苦笑いしながら頭を掻いた。
「会社の方針じゃなくって、業界の不文律っていうか、長年の慣習っていうか」

獏屋の兄ちゃんが「内緒ですよ」と教えてくれたのは、回収した夢を取引する業者の集まる取引所のことだった。どうやら古書の市場と似たような仕組みらしい。
価値のあるものには高い値がつき、二束三文の夢は一山いくらで買われて行く。
そして、回収された夢の価値は「味」によって決まるのだそうだ。

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