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目玉焼き、サニーサイドかターンオーバーか

朝はサンドイッチを食べることが多い。
8枚切りの角食パンにファストスプレッドを塗り、レタスとスライスしたオニオンと輪切りのピーマン、焼いて脂を落としたベーコンと目玉焼き、それにチーズをのせて挟み込む。

目玉焼きには手入れの行き届いた鉄製のフライパンを使う。
油がしっかり染み込んでいて、くっついてしまうことはない。
程よく温まってきたところで卵を割り入れ、蓋をしたあとは焼きあがるまで放っておく。
少量の水を入れて蓋をする焼き方もあるけれど、僕はあの蒸し焼きスタイルがあまり好きではない。
弱火にして蓋をしておけば、やがてちゃんと黄身は固まる。

まだ20代の初めの頃、ハワイのホテルで僕は初めて「turn over」なるものを知った。朝食のためのビュッフェで卵料理を担当しているコックに尋ねられたのが最初だった。

「オムレツ? スクランブル? サニーサイド? ターンオーバー? どれ?」
見るからにポリネシア系のデカいコックが、鉄板の前に立つ僕をちらっと見て、面倒そうに言ったのだった。
オムレツはオムレツだ。スクランブルエッグもわかる。
サニーサイドは「サニーサイドアップ」だろう。馴染み深い目玉焼きだ。
ターンオーバー? なんだそりゃ? 攻守逆転? 卵料理で?
それがどんなものかわからなかった僕はスクランブルエッグを頼んで、コックは相変わらず面倒そうにボウルに卵を3つ割り入れ、手早くかき混ぜてから鉄板に流し入れた。

僕のすぐあとにやってきた本土からの観光客らしき男性が「2エッグス、ターンオーバー」というのが耳に入った。
コックは「オーケー」というと、卵を二つ、続けて鉄板の上で割った。
皿に盛ったスクランブルエッグを僕に渡すと、鉄板の目玉焼きの下にヘラを潜らせ、綺麗にひっくり返した。

(なるほど、両面焼くのにひっくり返すからターンオーバーか)

あっという間に出来上がったスクランブルエッグは程よく柔らかく、とても美味しかった。
それでも翌日には僕も「2エッグス、ターンオーバー」と言っていた。
僕のすぐあとに来た客の言い方がなんとも格好良くて、真似したくなったのだ。

今でも毎朝のサンドイッチにはターンオーバーの目玉焼きを挟む。
両側がカリッと固まり、真ん中からはまだ固まり切っていない柔らかい黄身が流れ出る。
黄身がとろけ出る具合はその日次第。
まだまだ修行は足りないようだ。

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