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ありがとう だいすき【短編小説】2500文字

今年のクリスマスが一緒に過ごす最後になるかもしれないだなんて。
東京の大学を目指していることを知ったのは、まだ街がオレンジ色で彩られている頃。偶然聞いてしまった。
「国立はこことここ。私立もできれば東京を受験したくて。寮を希望するし、バイトもするし・・・」
進学校だから大学行くだろうってわかってたけど、やっぱ地元じゃないんだ。頭いいもんね。私と違って。
ふーん、じゃあ、遊びに行けるじゃん。なんて思ってたけど、何やら街にシャンシャンと音楽が流れ始め、赤色と緑色がオレンジ色に取って代わる頃、もしかしたら来年の今頃はここに居なくて、一緒に過ごす生活がもう終わってしまうかもしれないって、急に寂しくなっちゃった。
私の16年間、せいがいなかったことなんてないんだから。


晴香はるかが24日はクリスマスするから塾には行くなって。
まぁ、そのつもりだったけど。塾のヤツもその日だけは彼女とイルミネーション見に行くらしい。先生も恋人と過ごしたいのか、やたらみんなに出欠聞いてたし。
僕は彼女いたことないから、クリスマスの重要さがわからない。
キリストの誕生日より恋人の誕生日の方が重要じゃね?
あ、彼女の誕生日を祝うこともしたことないけど。
クリスマスや誕生日はずっと家族で祝っている。
誕生日はその日の主役がメニューを決める。クリスマスは慣習的に鶏の足。
ケーキはいつも母さんが作っている。
母さんのケーキはいつもどこか失敗してる。スポンジがあまり膨らまなかったり、クリームが緩かったり。
それでも家庭的なケーキは手作りのおいしさがあるし、存在感と満足感でなくてはならないものだ。
来年の今頃、僕はどこで過ごしてるんだろう。


せいとは仲がいい。
せいの見るアニメは私も好きだったし、今でも漫画は貸し借りしてる。
頭がいいから小学生の頃から宿題を教えてくれてたし、高校受験の時も私が塾に行くのを嫌がったら、せいが見てやるって言ってくれたし。
お母さんもお父さんもせいのこと信頼してるっていうか、私とせいだったらせいのこと信じるもん。
いつだったかせいの大事にしている消しゴムコレクションの1個がなくなって、それ私が欲しがってたから犯人にされたんだよねー。
結局は見つかって、せいが勝手になくしただけだったし。
服はお下がりが多かった。黒とか茶色とかズボンばっかり着たくなかった!
でも、友達と一緒に遊ぶときに混ぜてもらったり、公園では人見知りでなかなか遊具で遊べない私を引っ張って連れてってくれたり。
そっか、もういなくなるんだ。やっぱり寂しいじゃん。


東京の大学を選んだのは都会への憧れが半分くらいはある。
ワンクリックでなんでも買えたり、オンラインがあるからわざわざ人の多いところに行かなくてもとは思うけど。
いつも晴香はるかがテレビで東京の飲食店特集をキラキラした目で見てるから、僕まで見てしまって。洒落たカフェとか一流ホテルのレストランとか、やっぱ東京の洗練された日本の代表ですって感じ?
空間はその場所でしか味わえない。
まぁ、大学生になった僕が行くようなところではないんだけど。
モンブランのセットが2,500円って!
残り半分は自分の学力で挑戦できる学部があったから。
晴香はるかが大学に行くかはわからないけど、僕だけじゃないから地元の大学っていうもの考えた。
でも、読んでいる本の著者やテレビのコメンテーターが教授として居る大学の授業を直接受けたいって思ったし、大学受験を無難に終わらせてもいいのかって、予備校生を見てて思うんだよな。


朝から空がどんよりしている。でも天気予報によると雨は降らないらしい。
それでもこっち側に住む私たちは傘を持って出かける。
弁当忘れても傘忘れるな、だよ。
終業式が終わったらすぐ家に帰って準備をしよう。
お母さんも手伝ってくれる。大丈夫、間に合う。せいは図書館寄るってお弁当持って学校行ったし。
帰ってきたらどんな顔するかなぁ。私のこと見直すかな?
いつも食べてるばっかりじゃないんだぞ。成功したらだけど。
せいが好きなチョコレートのケーキ。お母さんが作るのはいつも生クリームでいちごが乗ってるやつだけど、せいは本当はチョコの方が好きで、いちごよりチョコのプレートが食べたいって知ってる。
何て書こうかな。『べんきょう がんばれ』?
当たり前に過ごしていたクリスマスの日が最後になるなんて。
家族でご馳走食べて、図書カードもらって。夜遅くまでテレビ見て。
小さい頃はサンタが来るまで一緒に起きてようって約束したけど、いつも2人して寝ちゃってて。
朝起きてプレゼント開ける時のわくわく!
そういえばせいのプレゼントが羨ましくて泣いちゃったこともあったなぁ。
せいのプレゼントはラジコンで。私はサンタさんへの手紙に書いた通りの人形だったけど、鮮やかな青いボディのかっこいいレースカーが宝石みたいに見えて。
優しいからよく貸してくれたけど、私が冬の常に水たまりがあるような場所で走らせるから、毎回せいがきれいに拭いて片付けてくれてた。
喧嘩もたくさんしたけど、気が付くといつも通りの2人に戻ってるんだよね。


「ただいまー。」
パンッ!パンッ!
「メリークリスマス!!」
「おっ、おう・・・。なんでクラッカー?」
「音だけ出るんだって、これ。買っちゃった。」
「うん・・・。あ、でもここにゴミ落ちてるぞ。母さーん、掃除機ー。」
「ほんとだ。あ、今日のケーキ、私が作ったんだよ!」
「え、そうなん?なんで?」
「えへへ。あとね、今日のクリスマスお笑いライブ、せいの好きなコンビ結構出るよ!見るでしょ?見よー。」
クリスマスは最後かもしれないけど、僕と晴香はるかはこの先もずっと兄妹だ。
記憶の僕の隣にはいつも晴香はるかが居る。
晴香はるかが居てくれてよかった。楽しかった。
よし、明日からまたがんばろう。
彼女なんて大学生になってからでも十分だ。
あ、晴香はるかにもいつか彼氏ができるのか・・・うーん。


『ありがとう だいすき』


恋愛ものではなく、純粋なきょうだいの絆ものを創ってみました。
後工程の歌詞には難しいかもしれないけど、クリスマス=男女の恋愛、から外れてみました。

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