私が気になる彼は(姉Ver.)【短編小説】1100文字

青色の絵具をパレットに出す。
パレットの広い面に伸ばして、そこに白色の絵具を垂らす。
まだ画用紙にも塗っていない、他の何色とも混ざっていない二色だけの世界。そんな空だ。

サークルの先輩の紹介で八月の日中はここでバイトをしている。山の上児童館は夏休みの小学生で賑わっている。
男の子も女の子も一緒に遊んでいる。生徒数七十人程の小規模校、山の上小学校の子供たちだからだろうか。
見ていると微笑ましくなる。何のためらいもなく下の名前で呼び合う子供たち。中学生になると苗字呼びに変わり、下の名前で呼び合っている子は冷やかされていた。
弟が連れてくる友達は男の子だろうか、女の子だろうか。

空の色ではわからない。親が子供を迎えに来ると一日がもうすぐ終わることを知る。雑然とした図書室を片付けながら、バイト仲間と労いの言葉をかけあう。
「この本、修繕しときますね。ケーキ、買って帰るんですか?」
「ありがとう、河原田かわはらださん・・・。ううん、河原田さんのアドバイスに従ってカステラにする。」
「マキでいいですって。カステラだったらわざわざ用意しました感ないと思いますよ。たまたま家にあっても不思議じゃないし。」
今まで住んでいたのが伯父さんたちの家だったからか、私も弟も友達を家に連れてくるということをしたことがなかった。
両親との思い出が残っているこの家に連れてくる友達。
あのバスの子かもしれない。

「ねぇ、高校生が友達を家に呼んで何するの?」
「んー、部屋でしゃべったりとか?何か見せたいものあるとか?」
「高校生だったらファミレスとか行かない?ドリンクバーあるし。弟の部屋にコレクション的なものはないと思うんだけど。」
「んー、やっぱり彼女なんじゃないんですか?二人きりになりたいんですって。高校生だし。」
「やっぱり・・・。マキちゃんもそうなの?」
「・・・ほら、早くしないとお店閉まっちゃいますよ。カステラ、買って帰るんでしょ?」


早起きしたと思っても既にリビングは暑く、外からラジオ体操帰りらしい子供たちの声がする。
いいのか、悪いのか、今日はバイトがない。
玄関から始まり、廊下、リビング、トイレ、洗面台、お風呂場まで一通りの掃除を済ませたらもうお昼だ。
「昼、僕は後で食べるから、先に済ませたら?」
ダメだ。きっとここにいちゃいけない気がする。
「ちょっと出かけてくる。カステラあるから後で食べなよ。」
部屋に戻って出かける準備をする。
とりあえず、駅前でハンバーガーを食べよう。

もたもたしていたら家を出るのが遅くなってしまった。
入ってくることはないと思いつつも部屋の片づけをしてしまったのだ。
いつもよりきれいな玄関には私のいつもの靴だけが一足。
鍵をかけて家を出る。とりあえずバスに乗らなくちゃ。
「!」
アツシが女の子と歩いてくる!

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